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第4章
過去(3)
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また、その頃からだった。
拓人がギターで弾き語りを始めた。
「拓人、ギター弾けたの?」
「独学で始めたんだ! 俺のギターと歌でいつかたくさんの人を元気づけることができたらいいなって思ってな!」
「ふ~ん! そういえば部活は? 最近全然行ってないよね? 大丈夫?」
「言われてみたらそんなもん入ってたな……今度退部届け出しに行くよ」
拓人は中学入学時にバスケ部に入った。
すごく上手かったのに、背が低いことを理由に嫌がらせを受けて、いつの間にか行かなくなっていたみたいだ。
「じゃあ、ミカは拓人の歌を聴く部に入るね!」
「なんだよ、それ」
拓人は大笑いしたが、
「ありがとう」
と嬉しそうに言った。
それからは毎日のように拓人のギターや歌を聴いた。
高校はお互いに何も考えず、近くの高校に通った。
特別偏差値が高い訳でも低い訳でもない高校。
その頃だったか、拓人は
「俺、歌手を目指すことにしたんだ!」
と夢を語ることが増えた。
拓人がボイストレーニングの教室に通いはじめたのもちょうどその頃。
拓人の両親は、昔から外資系の企業で働いていて忙しくしていた。
高校に入学した頃から2人とも海外に転勤してしまったから、拓人は大きな自宅に1人暮らしするようになった。
だから時々ミカが夜ご飯作りに行ってあげたっけ?
でも、意外と拓人は器用でミカより先にいろんな料理覚えちゃったんだ。
拓人の小さかった身長は高校1年生の1年間でぐんぐん伸びて、ミカの身長も楽々と抜かしてしまった。
元々顔立ちもかっこ良かった拓人は、長身になったことでかなりモテた。
しかし、拓人は全く他の女子には興味を示さず、全く相手にしていなかった。
だから、女子で拓人と近い位置で仲良くしていたのはミカだけだった。
周りからは
「付き合わないの?」
とも良く聞かれたが、ミカは拓人の夢を応援したかったから、ミカからは何も拓人に言わなかった。
──ミカは拓人のこと好きだけど、拓人はミカのこと好きなのかな?
そんなこと聞ける訳もなく、月日は過ぎた。
高校2年の夏休み明けの頃だったかな。
拓人が珍しく休みかと思えば、昼過ぎにひょっこり学校に出てきた時があった。
その時、拓人の髪はオレンジっぽい明るい色に染められていて、相当先生に絞られていた。
拓人に聞いたら、ロックバンドのボーカルのオーディションを受けに行ったと言われた。
確かバンドの仮名は『NEVER』
ある事務所が大々的に売り出す予定でいたバンドだったらしく、何千人と同じオーディションを受けたので、拓人は
「すごい倍率だし、奇跡でも起こらない限り今回は無理かも。でもまた次頑張るよ」
と笑っていた。
──しかし拓人の言う奇跡は起こった。
拓人はそのオーディションに受かったのだ。
「ミカ! すげぇよ! 俺……あのオーディション通った!!」
拓人は真っ先にいつも応援してくれていたミカに報告に行った。
それからは、卒業に必要な最低限の日数学校に来て、後はデビューに向けてひたすらレッスンの日々を送る拓人を間近で応援した。
ミカは高校卒業後、今のマスターのところで働きながら、モデルの仕事を少ししている。
拓人はデビュー後、すごい勢いで有名になり、ミカの手の届かない存在になってしまったようにも見えた。
だけど、それでも疲れた時は、拓人はミカのところに来てくれていた。
だから──。
拓人にとってもミカが必要なのかなって感じていた。
ミカが拓人を必要なのと同じように。
しかしそれは違っていた。
ミカの間違いだった。
拓人は仕事のボランティアで知り合った女の子に心を奪われてしまった。
そして、今に至る──。
拓人がギターで弾き語りを始めた。
「拓人、ギター弾けたの?」
「独学で始めたんだ! 俺のギターと歌でいつかたくさんの人を元気づけることができたらいいなって思ってな!」
「ふ~ん! そういえば部活は? 最近全然行ってないよね? 大丈夫?」
「言われてみたらそんなもん入ってたな……今度退部届け出しに行くよ」
拓人は中学入学時にバスケ部に入った。
すごく上手かったのに、背が低いことを理由に嫌がらせを受けて、いつの間にか行かなくなっていたみたいだ。
「じゃあ、ミカは拓人の歌を聴く部に入るね!」
「なんだよ、それ」
拓人は大笑いしたが、
「ありがとう」
と嬉しそうに言った。
それからは毎日のように拓人のギターや歌を聴いた。
高校はお互いに何も考えず、近くの高校に通った。
特別偏差値が高い訳でも低い訳でもない高校。
その頃だったか、拓人は
「俺、歌手を目指すことにしたんだ!」
と夢を語ることが増えた。
拓人がボイストレーニングの教室に通いはじめたのもちょうどその頃。
拓人の両親は、昔から外資系の企業で働いていて忙しくしていた。
高校に入学した頃から2人とも海外に転勤してしまったから、拓人は大きな自宅に1人暮らしするようになった。
だから時々ミカが夜ご飯作りに行ってあげたっけ?
でも、意外と拓人は器用でミカより先にいろんな料理覚えちゃったんだ。
拓人の小さかった身長は高校1年生の1年間でぐんぐん伸びて、ミカの身長も楽々と抜かしてしまった。
元々顔立ちもかっこ良かった拓人は、長身になったことでかなりモテた。
しかし、拓人は全く他の女子には興味を示さず、全く相手にしていなかった。
だから、女子で拓人と近い位置で仲良くしていたのはミカだけだった。
周りからは
「付き合わないの?」
とも良く聞かれたが、ミカは拓人の夢を応援したかったから、ミカからは何も拓人に言わなかった。
──ミカは拓人のこと好きだけど、拓人はミカのこと好きなのかな?
そんなこと聞ける訳もなく、月日は過ぎた。
高校2年の夏休み明けの頃だったかな。
拓人が珍しく休みかと思えば、昼過ぎにひょっこり学校に出てきた時があった。
その時、拓人の髪はオレンジっぽい明るい色に染められていて、相当先生に絞られていた。
拓人に聞いたら、ロックバンドのボーカルのオーディションを受けに行ったと言われた。
確かバンドの仮名は『NEVER』
ある事務所が大々的に売り出す予定でいたバンドだったらしく、何千人と同じオーディションを受けたので、拓人は
「すごい倍率だし、奇跡でも起こらない限り今回は無理かも。でもまた次頑張るよ」
と笑っていた。
──しかし拓人の言う奇跡は起こった。
拓人はそのオーディションに受かったのだ。
「ミカ! すげぇよ! 俺……あのオーディション通った!!」
拓人は真っ先にいつも応援してくれていたミカに報告に行った。
それからは、卒業に必要な最低限の日数学校に来て、後はデビューに向けてひたすらレッスンの日々を送る拓人を間近で応援した。
ミカは高校卒業後、今のマスターのところで働きながら、モデルの仕事を少ししている。
拓人はデビュー後、すごい勢いで有名になり、ミカの手の届かない存在になってしまったようにも見えた。
だけど、それでも疲れた時は、拓人はミカのところに来てくれていた。
だから──。
拓人にとってもミカが必要なのかなって感じていた。
ミカが拓人を必要なのと同じように。
しかしそれは違っていた。
ミカの間違いだった。
拓人は仕事のボランティアで知り合った女の子に心を奪われてしまった。
そして、今に至る──。
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