【旧版】桃色恋華

美和優希

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第3章

登校日(2)

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 フワッ──。



 桃華が言いづらそうに下を向いていると、ジュンの両腕に包まれる。


「え? ジュンくん?」


 ジュンが突然桃華を強く抱きしめたので、桃華は頭が真っ白になった。


 男の子にしては小柄で華奢な身体つきのジュンだったが、あまりにも強い力にジュンが男の子だってことを思い知らされる。


「ごめん、桃華ちゃん……しばらくこうさせて?」


「でも……」


「この前はごめんね、混乱させちゃったよね? でも本当にずっと好きだったんだ……やっぱり僕じゃダメかな?」


 ジュンが切ない声で桃華の耳元で囁く。


「でも、私……」


 桃華はやっぱりどう答えていいか分からずにうつむいた。


「病院でもその答えだったね……その続き、聞かせて? 大丈夫だから」


 ジュンがわずかに震えているのを桃華は感じていた。


 近くに居るからか、ジュンの心音も大きく聞こえる。


 桃華は心配そうにジュンの顔を見上げる。


 するとジュンにもっと強く抱きしめられ、桃華の顔はジュンの懐に隠される。


「お願いだから……見ないで」


 ジュンはそれだけ桃華の耳元で囁いた。


「ごめんなさい……」


「言ってくれたら離してあげるから」


 いつもは優しいジュンも今日は様子が違う。


 桃華はそんなジュンが少し恐かった。


「私、拓人さんが好きなの……」


 桃華はやっとジュンの腕から解放された。


「やっぱり。なんとなく分かってたよ。でもはっきり桃華ちゃんの口から聞きたかったんだ。強引に聞いてごめんね」


 ジュンは少し潤んだ瞳で桃華を見つめた。


「私と拓人さんじゃ全然つりあわないのに……笑われちゃうね」


 桃華はずっと胸に秘めていた自分の気持ちを声に出したことで、少し恥ずかしくなり思わず苦笑いを浮かべる。


 そして、桃華は真っ直ぐジュンを見つめて言った。


「だから……ごめんなさい」


「いいよ。僕こそしつこくてごめんね。でも、拓人さんに嫌なことされたり、言われたりした時は言ってね? 僕は何があっても桃華ちゃんの味方だから」

 


 ジュンは優しい。


 拓人も優しいけど、また違う。


 桃華を包み込むような、安心させるような優しさ──。


 それだけに桃華は本当にジュンには申し訳なく感じた。



「桃華ちゃんはもう帰るの?」


 ジュンはいつもの調子で沈黙を破った。


「え? あ、うん」


「じゃあ、僕も帰ろうかな。普通に仲良くするくらいはいいよね?」


「うん、でも授業まだあるんでしょ?」


 時間は分からないけど、きっと今はお昼休みなんだろうなと桃華は感じていた。


「今から教室戻っても5限目の途中だし、6限目は体育で見学だし、いいよ」


「もしかして授業中だったの!?」


「さっきチャイム鳴ってたでしょ? あれ、昼休みの終わりのチャイムだよ」


(全然気づかなかった……)

 桃華はそう思い、驚いたような表情を浮かべた後、申し訳なさそうに眉を下げた。


 ジュンはそんな桃華を見て、明るい声で言った。


「そんな気にしないでよ! 保健の先生に言って早退させてもらってくる」
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