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第2章
桃華と新井
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NEVERのライブツアーが始まってから数日が経った。
桃華は、つまらなさそうに病室で雑誌を読んでいた。
NEVERのライブツアー関連の記事だ。
「はぁぁ。私の身体がもっと丈夫だったら、絶対行ったのになぁ……ライブツアー」
桃華はそう言いながら、雑誌の中のTAKUに見入る。
(私がずっと憧れてきたTAKUさんは、今では時々自分に会いに来てくれる拓人さんで……)
そう思うと、自分はTAKUのファンの中では“特別”な位置にいるような気がして嬉しかった。
全国4箇所で行われるライブツアーのうち、最終日の東京での講演のみ、ある音楽番組の企画で一部生中継されることになっていた。
桃華はツアー期間中、それを唯一楽しみにしていた。
──コンコン。
突然病室の扉がノックされ、桃華は手にしていた雑誌を閉じ、視線を扉へと移す。
「どうぞ」
「桃華ちゃん、こんにちは! あれからTAKUさんとは仲良くなれたみたいね。この前も桃華ちゃんに会いに来てくれてたじゃない」
扉を開けて姿を現したのは、願い叶え隊の新井だった。
「新井さん! この前は本当にありがとうございましたっ! おかげで最近毎日がとても楽しいです」
「でしょうね」
桃華の言葉に新井は柔らかく微笑んだ。
「だって桃華ちゃん、TAKUさんと出会う前より明るくなったもの」
「えっ!?」
「きっとTAKUさんのおかげね。私達、願い叶え隊としてもこんなに明るい雰囲気を持てるようになってもらえると、やり甲斐を感じるわ」
「新井さん、はじめはいろいろわがまま言ってしまってごめんなさい」
桃華は、新井の優しい笑みを見ているとなんだか申し訳ない気持ちになり頭を下げた。
というのも、桃華は新井に対して相当な無理を言っていたからだ。
──数ヶ月前。
「はじめまして。願い叶え隊の新井と申します。白石桃華ちゃんでお間違えないでしょうか?」
「はい、私が白石桃華ですが……」
桃華は怪訝そうな表情で新井を見つめて答える。
「私達願い叶え隊は、桃華ちゃんみたいな病気の子の願いや夢を叶える協力をすることで、桃華ちゃん達を元気づけたいと思って活動してるボランティア団体よ。この病院独自の団体だから心配しないで。もう誰かから聞いたかな?」
「……はい。看護師さんから簡単に聞きました」
「桃華ちゃんは、何か夢とかってあるかしら?」
「夢……?」
「ほら、看護師さんになりたいとか、学校の先生になりたいとか。桃華ちゃん、勉強も頑張ってるって聞いてるし、何かあるでしょう? 例えばだけど、以前は警察官になるのが夢だった男の子に1日警察署長をしてもらったのよ」
「そんなものないです」
桃華は新井の言葉を切り捨てるように答えた。
「学校にもろくに通えない、やりたいことも我慢ばかり、どんなに言われた通り頑張っても全然病気は治らない……夢も希望も無くなりますよ!」
「……すみません。でもなんかこう、これだけはしてみたいとかないのかな?」
「ありません!」
新井は桃華の反応に少し困ったような表情を浮かべる。
「私の望みはこの病気が早く治ることです。でもお医者さんにもできないのにあなた達には無理でしょう?」
「……」
新井は桃華にここまで言われ返す言葉が見つからなかった。
「何が夢よ……」
桃華の頬に一筋の涙が伝った。
「気分を害してしまい申し訳ございません……」
「もっと健康な身体だったらNEVERのライブとかにも行けるのに……一度だけでもいいからTAKUに会いたい……」
桃華は壁に掛けてあるNEVERのカレンダーを見つめながら呟いた。
「そうよっ!!」
桃華は急に大きな声を出し、新井を見つめる。
「TAKUに会いたいってのはダメかな? 私の願い……」
「……えっ? TAKUってあのNEVERの?」
新井は先程桃華の視線の先にあったNEVERのカレンダーを見て、桃華に聞く。
桃華は首を縦に振った。
TAKUは今大人気の実力も兼ね備えたNEVERのボーカル。
かなり困難な願いだなと新井は感じた。
新井の表情を見て桃華はがっかりしたような声で尋ねる。
「やっぱりこれも無理ですか……?」
「分かりません……ですが、難しいと思われます」
「なによ……願い叶え隊とか言って結局何も叶えられないんじゃない……」
桃華はため息をひとつ漏らすとともに肩を落とした。
「桃華ちゃん……」
「病気も治せない、TAKUにも会えない……私の願いなんてもう何もないわ。帰って下さい……」
桃華はうつむいたまま新井に言った。
「桃華ちゃん、無理とまでは言ってないわ。一度NEVERの事務所に連絡を取ってみますね」
「……え!?」
「でも、必ず会えるとは限らないってことだけは分かっておいて」
「……いいんですか?」
「だってそれが桃華ちゃんの“願い”なんでしょ?」
「ありがとうございます!!」
その時だった。桃華が初めて新井に笑顔を見せたのは。
それから新井の想定外に話はトントン拍子に進み、今に至る──。
「本当にあの時はすみません……私あの時精神的にも不安定で、きつい言い方してしまって……」
「いいのよ、桃華ちゃん。私の言い方も悪かったし」
新井は優しい表情で言った。
そんな新井の優しさに、桃華は少し涙ぐんだ。
──新井のおかげでTAKUと会えた。
TAKUと出会えたことで、桃華の入院生活は夢のような日々に変わった。
新井には感謝してもしきれない気持ちとともに、新井には申し訳ないことをしたが、ダメ元で頼んでみて良かった、と改めて桃華は思った。
桃華は、つまらなさそうに病室で雑誌を読んでいた。
NEVERのライブツアー関連の記事だ。
「はぁぁ。私の身体がもっと丈夫だったら、絶対行ったのになぁ……ライブツアー」
桃華はそう言いながら、雑誌の中のTAKUに見入る。
(私がずっと憧れてきたTAKUさんは、今では時々自分に会いに来てくれる拓人さんで……)
そう思うと、自分はTAKUのファンの中では“特別”な位置にいるような気がして嬉しかった。
全国4箇所で行われるライブツアーのうち、最終日の東京での講演のみ、ある音楽番組の企画で一部生中継されることになっていた。
桃華はツアー期間中、それを唯一楽しみにしていた。
──コンコン。
突然病室の扉がノックされ、桃華は手にしていた雑誌を閉じ、視線を扉へと移す。
「どうぞ」
「桃華ちゃん、こんにちは! あれからTAKUさんとは仲良くなれたみたいね。この前も桃華ちゃんに会いに来てくれてたじゃない」
扉を開けて姿を現したのは、願い叶え隊の新井だった。
「新井さん! この前は本当にありがとうございましたっ! おかげで最近毎日がとても楽しいです」
「でしょうね」
桃華の言葉に新井は柔らかく微笑んだ。
「だって桃華ちゃん、TAKUさんと出会う前より明るくなったもの」
「えっ!?」
「きっとTAKUさんのおかげね。私達、願い叶え隊としてもこんなに明るい雰囲気を持てるようになってもらえると、やり甲斐を感じるわ」
「新井さん、はじめはいろいろわがまま言ってしまってごめんなさい」
桃華は、新井の優しい笑みを見ているとなんだか申し訳ない気持ちになり頭を下げた。
というのも、桃華は新井に対して相当な無理を言っていたからだ。
──数ヶ月前。
「はじめまして。願い叶え隊の新井と申します。白石桃華ちゃんでお間違えないでしょうか?」
「はい、私が白石桃華ですが……」
桃華は怪訝そうな表情で新井を見つめて答える。
「私達願い叶え隊は、桃華ちゃんみたいな病気の子の願いや夢を叶える協力をすることで、桃華ちゃん達を元気づけたいと思って活動してるボランティア団体よ。この病院独自の団体だから心配しないで。もう誰かから聞いたかな?」
「……はい。看護師さんから簡単に聞きました」
「桃華ちゃんは、何か夢とかってあるかしら?」
「夢……?」
「ほら、看護師さんになりたいとか、学校の先生になりたいとか。桃華ちゃん、勉強も頑張ってるって聞いてるし、何かあるでしょう? 例えばだけど、以前は警察官になるのが夢だった男の子に1日警察署長をしてもらったのよ」
「そんなものないです」
桃華は新井の言葉を切り捨てるように答えた。
「学校にもろくに通えない、やりたいことも我慢ばかり、どんなに言われた通り頑張っても全然病気は治らない……夢も希望も無くなりますよ!」
「……すみません。でもなんかこう、これだけはしてみたいとかないのかな?」
「ありません!」
新井は桃華の反応に少し困ったような表情を浮かべる。
「私の望みはこの病気が早く治ることです。でもお医者さんにもできないのにあなた達には無理でしょう?」
「……」
新井は桃華にここまで言われ返す言葉が見つからなかった。
「何が夢よ……」
桃華の頬に一筋の涙が伝った。
「気分を害してしまい申し訳ございません……」
「もっと健康な身体だったらNEVERのライブとかにも行けるのに……一度だけでもいいからTAKUに会いたい……」
桃華は壁に掛けてあるNEVERのカレンダーを見つめながら呟いた。
「そうよっ!!」
桃華は急に大きな声を出し、新井を見つめる。
「TAKUに会いたいってのはダメかな? 私の願い……」
「……えっ? TAKUってあのNEVERの?」
新井は先程桃華の視線の先にあったNEVERのカレンダーを見て、桃華に聞く。
桃華は首を縦に振った。
TAKUは今大人気の実力も兼ね備えたNEVERのボーカル。
かなり困難な願いだなと新井は感じた。
新井の表情を見て桃華はがっかりしたような声で尋ねる。
「やっぱりこれも無理ですか……?」
「分かりません……ですが、難しいと思われます」
「なによ……願い叶え隊とか言って結局何も叶えられないんじゃない……」
桃華はため息をひとつ漏らすとともに肩を落とした。
「桃華ちゃん……」
「病気も治せない、TAKUにも会えない……私の願いなんてもう何もないわ。帰って下さい……」
桃華はうつむいたまま新井に言った。
「桃華ちゃん、無理とまでは言ってないわ。一度NEVERの事務所に連絡を取ってみますね」
「……え!?」
「でも、必ず会えるとは限らないってことだけは分かっておいて」
「……いいんですか?」
「だってそれが桃華ちゃんの“願い”なんでしょ?」
「ありがとうございます!!」
その時だった。桃華が初めて新井に笑顔を見せたのは。
それから新井の想定外に話はトントン拍子に進み、今に至る──。
「本当にあの時はすみません……私あの時精神的にも不安定で、きつい言い方してしまって……」
「いいのよ、桃華ちゃん。私の言い方も悪かったし」
新井は優しい表情で言った。
そんな新井の優しさに、桃華は少し涙ぐんだ。
──新井のおかげでTAKUと会えた。
TAKUと出会えたことで、桃華の入院生活は夢のような日々に変わった。
新井には感謝してもしきれない気持ちとともに、新井には申し訳ないことをしたが、ダメ元で頼んでみて良かった、と改めて桃華は思った。
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