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12*もう二度と、離さへんで
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……え!?
公園の入り口を入り、ぐんぐんと中へと進むこうちゃん。
遊具もいつの間にか新しいものに取り替えられていて、すっかり雰囲気の変わった公園の中。
「着いたで?」
そんな時代の流れを感じさせられる公園の中でも、唯一変わらない風景のままの場所で、こうちゃんは足を止めた。
「ずいぶん雰囲気変わったな。でも、この広場はまだ残ってたみたいでよかったわ」
シロツメクサの咲く季節ではないから花は咲いてないけれど、足元一面に広がるのは緑のクローバー。
幼い頃こうちゃんと結婚の約束をした、あの場所だ。
「……こうちゃん、ここ」
「ちぃ、覚えてる? 昔よく俺ら、ここで遊んだんやで?」
どこか懐かしむように辺りを見渡すこうちゃん。
「覚えてるよ」
忘れるわけないじゃん。
今まで、一度も忘れたことなんてなかった。
忘れられるわけがない。
でも、あたしをここに連れてきたってことは……。
「ここが、こうちゃんの来たかった場所?」
「せやで。いつかちぃとまたここに来たいなって、再会したときからずっと思ってたんや」
そんなことを言われると、期待してしまう。
こうちゃんにも、あのときの記憶が残ってるんじゃないかって。
こうちゃんが作ってくれたこのチャンス。
確かめるなら、今しかないと思った。
「……まだ小さかった頃、こうちゃんとここで最後に会ったとき、まさかこうちゃんとあんなに長い間会えなくなるなんて思わなかったな」
違う!
言ってて、心の中で自分に突っ込んだ。
確かにこの気持ちに嘘はないし、結婚の約束をしたのもその日だから、話題の方向性は間違ってないけどさ!
我ながら回りくどい話の切り出し方だとため息をつきたくなる。
「一応、俺のおかんはおばさんには伝えとったみたいやけどな。俺の口からは、ちぃの悲しむ顔を見るのが嫌で言われへんかったんや」
申し訳なさそうに、眉を下げて言うこうちゃん。
「そっか……」
そういえば、こうちゃんと会えなくなってから、こうちゃんが引っ越したことを教えてくれたのは、お母さんだったもんね。
「ごめんな。でも俺、ちゃんと戻ってきたやん」
「……うん」
「いや、正確には“迎えに来た”が正しいかな」
「……え?」
迎えに来た……?
“俺が大きくなったら、必ず迎えに来るから”
そのフレーズに、幼い頃のこうちゃんの言葉がふわりと脳裏に蘇ってドキンと胸が脈打った。
そして、こうちゃんはゴソゴソと鞄から何かを取り出し、スッとあたしの前に差し出した。
反射的に両手を差し出すと、その上に置かれたのは、ピンクの可愛らしいリボンのついた小さな白い箱。
「ちぃ。まだ何年か先の話にはなってまうけど、立派な大人になって、俺がちぃを支えられるようになったら、俺のお嫁さんになってな」
“大きくなったら、俺のお嫁さんになってな”
10年前のあのときのこうちゃんの姿と、目の前のこうちゃんの姿が重なる。
「覚えてて、くれたの……?」
「当たり前やん! 俺、前も言うたやんか、ちぃのことなら何でも覚えてるって! 片時も、忘れたことなんてなかったんやで」
ふわりとあふれ出た涙を、こうちゃんの温かい指が拭ってくれる。
「ちぃこそ、あのときのこと全然話してくれへんから、忘れられとんやと思ってたわ」
ケラケラと笑ってそんなことを言うこうちゃん。
「忘れるわけないじゃん! だけど、忘れられてたら、って思ったら、そんなことなかなか聞けないでしょ?」
「それもそうやな。俺も今の今まで、ここで一緒に過ごしたときのこと全く覚えてないって言われたらどうしよう思っとったし」
優しくこうちゃんに頭を撫でられながら、気づいたときにはこうちゃんに抱きしめられていた。
お互いにしっかり覚えていて、同じことで不安に思ってたなんて……。
「今回は、シロツメクサとちゃうから。その箱、開けてみ?」
そう言われて、今手渡されたばかりの小さな白い箱を開けてみる。
公園の入り口を入り、ぐんぐんと中へと進むこうちゃん。
遊具もいつの間にか新しいものに取り替えられていて、すっかり雰囲気の変わった公園の中。
「着いたで?」
そんな時代の流れを感じさせられる公園の中でも、唯一変わらない風景のままの場所で、こうちゃんは足を止めた。
「ずいぶん雰囲気変わったな。でも、この広場はまだ残ってたみたいでよかったわ」
シロツメクサの咲く季節ではないから花は咲いてないけれど、足元一面に広がるのは緑のクローバー。
幼い頃こうちゃんと結婚の約束をした、あの場所だ。
「……こうちゃん、ここ」
「ちぃ、覚えてる? 昔よく俺ら、ここで遊んだんやで?」
どこか懐かしむように辺りを見渡すこうちゃん。
「覚えてるよ」
忘れるわけないじゃん。
今まで、一度も忘れたことなんてなかった。
忘れられるわけがない。
でも、あたしをここに連れてきたってことは……。
「ここが、こうちゃんの来たかった場所?」
「せやで。いつかちぃとまたここに来たいなって、再会したときからずっと思ってたんや」
そんなことを言われると、期待してしまう。
こうちゃんにも、あのときの記憶が残ってるんじゃないかって。
こうちゃんが作ってくれたこのチャンス。
確かめるなら、今しかないと思った。
「……まだ小さかった頃、こうちゃんとここで最後に会ったとき、まさかこうちゃんとあんなに長い間会えなくなるなんて思わなかったな」
違う!
言ってて、心の中で自分に突っ込んだ。
確かにこの気持ちに嘘はないし、結婚の約束をしたのもその日だから、話題の方向性は間違ってないけどさ!
我ながら回りくどい話の切り出し方だとため息をつきたくなる。
「一応、俺のおかんはおばさんには伝えとったみたいやけどな。俺の口からは、ちぃの悲しむ顔を見るのが嫌で言われへんかったんや」
申し訳なさそうに、眉を下げて言うこうちゃん。
「そっか……」
そういえば、こうちゃんと会えなくなってから、こうちゃんが引っ越したことを教えてくれたのは、お母さんだったもんね。
「ごめんな。でも俺、ちゃんと戻ってきたやん」
「……うん」
「いや、正確には“迎えに来た”が正しいかな」
「……え?」
迎えに来た……?
“俺が大きくなったら、必ず迎えに来るから”
そのフレーズに、幼い頃のこうちゃんの言葉がふわりと脳裏に蘇ってドキンと胸が脈打った。
そして、こうちゃんはゴソゴソと鞄から何かを取り出し、スッとあたしの前に差し出した。
反射的に両手を差し出すと、その上に置かれたのは、ピンクの可愛らしいリボンのついた小さな白い箱。
「ちぃ。まだ何年か先の話にはなってまうけど、立派な大人になって、俺がちぃを支えられるようになったら、俺のお嫁さんになってな」
“大きくなったら、俺のお嫁さんになってな”
10年前のあのときのこうちゃんの姿と、目の前のこうちゃんの姿が重なる。
「覚えてて、くれたの……?」
「当たり前やん! 俺、前も言うたやんか、ちぃのことなら何でも覚えてるって! 片時も、忘れたことなんてなかったんやで」
ふわりとあふれ出た涙を、こうちゃんの温かい指が拭ってくれる。
「ちぃこそ、あのときのこと全然話してくれへんから、忘れられとんやと思ってたわ」
ケラケラと笑ってそんなことを言うこうちゃん。
「忘れるわけないじゃん! だけど、忘れられてたら、って思ったら、そんなことなかなか聞けないでしょ?」
「それもそうやな。俺も今の今まで、ここで一緒に過ごしたときのこと全く覚えてないって言われたらどうしよう思っとったし」
優しくこうちゃんに頭を撫でられながら、気づいたときにはこうちゃんに抱きしめられていた。
お互いにしっかり覚えていて、同じことで不安に思ってたなんて……。
「今回は、シロツメクサとちゃうから。その箱、開けてみ?」
そう言われて、今手渡されたばかりの小さな白い箱を開けてみる。
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