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12*もう二度と、離さへんで
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「うん、ありがとう。ごめんね、これからもよろしく」
そんな相原くんの姿に、自分は逃げてばかりでものすごく失礼な人間だったと思い知らされた。
相原くんのことだけじゃない、こうちゃんのことも逃げてばかりだ。
人が聞いたら、笑うかもしれない。
だけど、ずっとあたしの気持ちはモヤモヤしたまんま。
もう付き合ってるっていうのに、あたしは未だにあの結婚の約束をした思い出を覚えてるか確認できていないのだから──。
「だから謝るなって! ところでさ、明後日は早瀬とどこに行くんだ?」
「え、わかんない」
そういやこうちゃんには適当に考えとくって言われたっきり、何も言われてない……。
「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。ま、ノープランでその辺ブラブラすんのも楽しいっちゃ楽しいけど」
「そうだね、またこうちゃんに聞いとかなきゃ」
「月曜日はお前らのノロケ話、中澤としっかり聞かせてもらうからな! 俺らにノロケる内容があるように、しっかり楽しんで来いよ!」
そう言って、相原くんはあたしの頭をゴシゴシと撫でた。
「うわっ!」
俺らにノロケる内容があるように、って……。
なんだか相原くんらしいセリフに、さっきまで感じていた気まずさはいつの間にかなくなっていた。
あたしも、前に進まなきゃ……。
逃げてばかりじゃ、いつまでもモヤモヤしたままだもんね。
あたしは心の中にそんな決心を秘めながら、明後日に備えた。
*
そして、こうちゃんとのデートの日、当日。
空は一面、青空が広がっている。
「ちぃ、おはよう」
「あ、おはよ」
待ち合わせの場所は、あたしの家の前。
元々家も隣同士だから、待ち合わせも何もないんだけどね。
約束の11時よりも10分は早く家から出てきたというのに、こうちゃんはすでにあたしの家の門の前に立っていた。
「早いね、いつからいたの?」
「さっき出てきたとこやで? ちぃこそ早かったやん。そんなに俺と会うの楽しみやったんか?」
「う、うん……」
いつもなら、そんなわけないとか可愛いげのないことを言ってしまうところだけど、今日だけは素直にうなずいた。
実際、嘘ではないし……。
「な、なんや。ちぃらしくないな。ほな、行こか」
せっかく素直に言ったのに、その反応?
内心、そう思ってこうちゃんの顔を見ると、照れたように頬が赤くなっている。
「こうちゃん、もしかして照れてる?」
「照れてへんわ! アホなこと言うてないで行くで?」
こうちゃんはぶっきらぼうにそう言うと、あたしの手を握って歩き始めた。
っていうか、こうちゃんから“俺と会うの楽しみやったんか”とか聞いてきたくせに、うんと答えられたら照れるって……。
なんか今日のこうちゃん、可愛いかも。
同居してる期間もあったし、家も隣同士だしで、お互いに私服姿は見慣れているけれど、そのせいもあってか今日のこうちゃんはいつもと違って見えた。
歩いてたどり着いたのは、最寄りの駅近くにあるオムライス屋さん。
最近オープンしたてで、あたしが行きたいと以前から言ってたから、こうちゃんは連れてきてくれたんだと思う。
少しお昼には早いけど、ここのお店は12時を過ぎると一気に混むという話だから、お昼前に入れるように来たのは正解だ。
まだ12時にもなってないのに、店内にはパラパラとお客さんの姿があった。
案内された席に座り、注文をする。
ここのオムライスは、中身がチキンライスとバターライス、カレーピラフから選べるのが大きな特徴だ。
あたしとこうちゃんが頼んだのは、中身がカレーピラフになっていて、オムライス自体にはデミグラスソースがかかっているタイプのもの。
「中身がカレーピラフっていうのも変わっとってええな」
「だよね! 実里とも食べに行きたいねーって話してたんだ!」
結局、実里とではなくて、こうちゃんと一番最初に来ちゃったけど。
また実里とは日を改めて行こう。
「あ、ちょっと待っとってな?」
ちょうど近くを店員さんが通りかかると、こうちゃんは席を立って店員さんのところへ行く。
何言か言葉を交わして、こちらに戻ってきたこうちゃん。
何か注文し忘れてたのかな……?
「どうしたの?」
「いや、どうもせぇへんから大丈夫や!」
そう思って聞いてみたけど、あたしの頭はハテナが増えるだけ。
結局何が大丈夫なのかさっぱりわからなかったけど、そうしている間に、あたしたちの前には熱々のオムライスが運ばれて来ていた。
*
「美味しかったー!」
オムライスを食べ終えて、一緒に頼んでいた紅茶に口をつける。
あたしが食べ終えるのを見たこうちゃんは、「すみません」と店員さんを呼んで、あたしたちが二人とも食べ終わったことを告げていた。
そんな相原くんの姿に、自分は逃げてばかりでものすごく失礼な人間だったと思い知らされた。
相原くんのことだけじゃない、こうちゃんのことも逃げてばかりだ。
人が聞いたら、笑うかもしれない。
だけど、ずっとあたしの気持ちはモヤモヤしたまんま。
もう付き合ってるっていうのに、あたしは未だにあの結婚の約束をした思い出を覚えてるか確認できていないのだから──。
「だから謝るなって! ところでさ、明後日は早瀬とどこに行くんだ?」
「え、わかんない」
そういやこうちゃんには適当に考えとくって言われたっきり、何も言われてない……。
「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。ま、ノープランでその辺ブラブラすんのも楽しいっちゃ楽しいけど」
「そうだね、またこうちゃんに聞いとかなきゃ」
「月曜日はお前らのノロケ話、中澤としっかり聞かせてもらうからな! 俺らにノロケる内容があるように、しっかり楽しんで来いよ!」
そう言って、相原くんはあたしの頭をゴシゴシと撫でた。
「うわっ!」
俺らにノロケる内容があるように、って……。
なんだか相原くんらしいセリフに、さっきまで感じていた気まずさはいつの間にかなくなっていた。
あたしも、前に進まなきゃ……。
逃げてばかりじゃ、いつまでもモヤモヤしたままだもんね。
あたしは心の中にそんな決心を秘めながら、明後日に備えた。
*
そして、こうちゃんとのデートの日、当日。
空は一面、青空が広がっている。
「ちぃ、おはよう」
「あ、おはよ」
待ち合わせの場所は、あたしの家の前。
元々家も隣同士だから、待ち合わせも何もないんだけどね。
約束の11時よりも10分は早く家から出てきたというのに、こうちゃんはすでにあたしの家の門の前に立っていた。
「早いね、いつからいたの?」
「さっき出てきたとこやで? ちぃこそ早かったやん。そんなに俺と会うの楽しみやったんか?」
「う、うん……」
いつもなら、そんなわけないとか可愛いげのないことを言ってしまうところだけど、今日だけは素直にうなずいた。
実際、嘘ではないし……。
「な、なんや。ちぃらしくないな。ほな、行こか」
せっかく素直に言ったのに、その反応?
内心、そう思ってこうちゃんの顔を見ると、照れたように頬が赤くなっている。
「こうちゃん、もしかして照れてる?」
「照れてへんわ! アホなこと言うてないで行くで?」
こうちゃんはぶっきらぼうにそう言うと、あたしの手を握って歩き始めた。
っていうか、こうちゃんから“俺と会うの楽しみやったんか”とか聞いてきたくせに、うんと答えられたら照れるって……。
なんか今日のこうちゃん、可愛いかも。
同居してる期間もあったし、家も隣同士だしで、お互いに私服姿は見慣れているけれど、そのせいもあってか今日のこうちゃんはいつもと違って見えた。
歩いてたどり着いたのは、最寄りの駅近くにあるオムライス屋さん。
最近オープンしたてで、あたしが行きたいと以前から言ってたから、こうちゃんは連れてきてくれたんだと思う。
少しお昼には早いけど、ここのお店は12時を過ぎると一気に混むという話だから、お昼前に入れるように来たのは正解だ。
まだ12時にもなってないのに、店内にはパラパラとお客さんの姿があった。
案内された席に座り、注文をする。
ここのオムライスは、中身がチキンライスとバターライス、カレーピラフから選べるのが大きな特徴だ。
あたしとこうちゃんが頼んだのは、中身がカレーピラフになっていて、オムライス自体にはデミグラスソースがかかっているタイプのもの。
「中身がカレーピラフっていうのも変わっとってええな」
「だよね! 実里とも食べに行きたいねーって話してたんだ!」
結局、実里とではなくて、こうちゃんと一番最初に来ちゃったけど。
また実里とは日を改めて行こう。
「あ、ちょっと待っとってな?」
ちょうど近くを店員さんが通りかかると、こうちゃんは席を立って店員さんのところへ行く。
何言か言葉を交わして、こちらに戻ってきたこうちゃん。
何か注文し忘れてたのかな……?
「どうしたの?」
「いや、どうもせぇへんから大丈夫や!」
そう思って聞いてみたけど、あたしの頭はハテナが増えるだけ。
結局何が大丈夫なのかさっぱりわからなかったけど、そうしている間に、あたしたちの前には熱々のオムライスが運ばれて来ていた。
*
「美味しかったー!」
オムライスを食べ終えて、一緒に頼んでいた紅茶に口をつける。
あたしが食べ終えるのを見たこうちゃんは、「すみません」と店員さんを呼んで、あたしたちが二人とも食べ終わったことを告げていた。
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