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11*渦巻く不安な気持ち

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 だけどそんなあたしのしんみりした気持ちも、あっという間に吹き飛ばされた。



「大丈夫や! ちぃにそんな思いはさせへんから、お前の出る幕なしやで!」


 そう得意気にあたしたちの輪の中に現れたのは、購買のパンを手に持ったこうちゃんだ。


「うっわ、出たよ。ちょっとはこっちの気持ちも考えろ。やっぱりお前、ムカつくわ……」


「その言葉、そっくりそのまま返したるわ!」


 売り言葉に買い言葉のように、相原くんの言葉に返すこうちゃん。



「ところで、こうちゃんは何か用があってここに来たの?」


 どことなく流れる空気が居心地悪くて、それを断ち切ろうと口を開く。


 実際、こうちゃんとも一学期の間は一緒に食べてなかったし、ここに来たのも何か用があってなのかな、と思ったから。


「いや? ちぃらと一緒にお昼食べようかなと思って、な。俺も仲間に入れたってな!」


 調子よくそう言って、近くの空いてる椅子を引っ張ってきて、こうちゃんはあたしの隣に腰を下ろした。


「お前もここで食うのかよ」


「何や、悪いか?」


「別に」


 相も変わらず顔を合わせれば言い合いをしている二人に、実里が呆れたようにため息を吐いた。


「ってかさぁ、そう言う相原も今日からここでお昼食べてるんだから、お互い様でしょ」


 確かに……。

 どういうわけかこの日の出来事をきっかけに、あたしたち四人は前以上に一緒に過ごすことが増えたのだった。


 *


 こうちゃんがクラスのみんなにあたしたちの交際宣言をしてから、瞬く間にあたしとこうちゃんの関係は学校中に広まったらしい。


 この情報は、二学期が始まって1ヶ月が経とうとしていた頃、実里から教えてもらった。


 こうちゃんが目立つからっていうのもあるけれど……。



「おーいついた! 追いついた! って、うわっ!」


 放課後、校門から出たところで相原くんはあたしとこうちゃんの間を見て、ゲッと言いたげな表情を浮かべた。


 以前からこうちゃんと一緒に登下校をすることはあったけれど、今は手を繋いでいる、という変化も噂が広まるのを助長させたのだろう。


「なんや相原、カエルがつぶれたような声出して」


「そりゃそんな声も出したくなるわ! 毎日毎日まーいにち、ベタベタ手を繋いでるとこ見せつけられたらよぉ!」


 相原くんはあたしとこうちゃんの間で繋がれた手を指さして騒ぎ立てる。



「相原、あんたもいい加減あきらめたらどうよ。どう見たって、二人の間に入り込む余地なんてないじゃない」


 相原くんをなだめるように、さらに後ろから現れたのは実里。


 実のことを言うと、こうちゃんと手を繋げることは嬉しいけど、みんなが見てるところでっていうのは恥ずかしい。


 だけどさも当たり前のように、こうちゃんはあたしの手を握ってくれるもんだから、その手を無理に離すこともできないんだよね。


 って、あたしって、いつからこんな乙女なキャラになったんだろう……?



「ほんまやで! ってか、そう言う割には相原も、毎日のように俺らと帰るのやめへんやん」


「はぁ!? こっちはまだ付き合いはじめて間もない二人のことを心配して見に来てやってんだよ」


 ぶっきらぼうに言いながらも、相原くんはこうちゃんの言う通り、二学期に入ってから毎日のようにあたしたちと帰っている。



「本当に目にあまるくらいにラブラブでうらやましいわ。あたしも彼氏ほしくなるよ」


 こうちゃんと相原くんが言い合ってる間に、こうちゃんとは反対側の隣から、実里に耳打ちされる。


「でも、デートはまだなんだよね?」


「……うん」


 そう。家が隣同士な上、今も変わらずこうちゃんがあたしの家によく出入りしていることもあって、お休みの日だからといって特別二人で出かけたことはない。



「ちょっと意外だけど、まぁ早瀬くんだからそのうちどこか連れてってくれるとは思うけどねー」


 悩みっていうほどでもないし、こうちゃんと上手くいってないわけでもないけれど、気にならないと言えば嘘になる。


 キスも、告白されたあのとき以来してないし……。


 毎日手を繋いで傍に居てくれるだけでも充分幸せなはずなのに、やっぱり人間、欲が出るんだなぁと最近思う。



 あたしたちと実里とのわかれ道まで歩いて来たときだった。


「あ、見つけたで! 光樹ーっ!」


 聞き覚えのある、良く通る高い声が耳に届いた。



「千紗、あの子って……!」


 前方から駆けて来る、ポニーテールにTシャツにショートパンツといった、私服姿の女の子。

 彼女を見て、実里も彼女が誰か分かったみたい。


「ちょお待って! 何で光樹がこの子と手繋いで歩いてるんや!?」


 あたしたちのすぐ傍まで走ってきた彼女は、あたしとこうちゃんの繋がれた手を見るなり、悲鳴に近い声を上げた。


「葉純!? 何でお前がこんなところに居るんや!?」


 瞬間、勝手にあたしのこうちゃんの手を握る力が強まる。


 こうちゃんもそれに気づいたのか、ぎゅっと握り返してくれる感覚はあったけど……。



 あの葉純さんが目の前に居るのだ。

 こうちゃんは渡さないと言った、こうちゃんの本物の幼なじみの……。

 動揺するなっていう方が、無理があると思う。
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