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6*真夜中、侵入警報!

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 学園祭が終わると、学校内は一気に勉強モードに切り替わった。


 7月頭に入ってすぐ、期末テストが控えているからだ。


 学園祭実行委員で忙しくしていて勉強どころではなかったのに、学園祭から試験まで10日ほどしか猶予がないだなんて、あまりに酷だ。


 本来なら1ヶ月で終わる予定だったこうちゃんとの同居生活も、お父さんの骨折の治りがよくないからと未だに続いている。


 こうちゃんとは、学園祭のあのキスから冷戦状態。


 まぁそれもあたしからの一方的なもので、むしろこうちゃんは相変わらずしつこいくらい話しかけてくる。


 こっちとしては、少しは放っておいてほしいくらいの心境なのに……。


 あたしに思わせ振りな態度を取っておきながら、あんな風に他の女の子とベタベタしてるところを見せつけられたんだから。



 でもあの女子生徒は、一体誰だったんだろう?

 セーラー服を着てたとはいえ、あたしの住んでる県の高校で、あのセーラー服の学校が思い当たらない。


 実里も、あのセーラー服は初めて見たって言ってたし……。


 あたしが勇気を出せないのもあって、こうちゃんの隣にいた他校のポニーテールの彼女の正体はつかめないまま。



 とりあえず明日提出の古典の課題に取りかかっているものの、一向に終わりそうにない。


「何これ~、こんなの授業でやった!?」


 問題の課題の古典の問題集は、どのページをめくっても、どこの国の言葉だよと突っ込みたくなるような文章が羅列されている。


 いくらあたしの国語の授業中の居眠りがたたったとはいえ、全くわからないとなれば、やる気が削げる。


 はぁぁとため息をこぼしながら、あたしの部屋の壁にかかっている時計を仰ぎ見ると、もう深夜1時30分を過ぎようとしていた。



 そのとき、睡魔のせいでまぶたが落ちかけたのもあってなのか、不意に夕飯のときのこうちゃんとの会話が脳内に再生される。



『えらい寝不足みたいやけど、大丈夫か?』


『大丈夫もなにも、テスト前なんだから仕方ないでしょ!?』


『テスト前こそ、早寝早起きで生活リズムをきちんとせな。わからんとこあるなら、教えてやってもええで?』


『……自分でやるからいい』



 どういうわけかテスト前にどっさり課題を出す先生が多く、昨日は数学、一昨日は化学の課題のせいで、実際のところ完全に寝不足だった。


 学園祭であんな光景さえ見ていなければ、もう少し素直になれたのかな……。


 勉強を教えてもらうことも、もちろん自分自身の気持ちに対しても。



「意地を張らずに、素直に教えてもらうことにすれば良かったな……」


 きっとこうちゃんは、今頃部屋で爆睡しているのだろう。


 皮肉なことに、こうちゃんは頭が良いらしい。


 今のこのテスト前の期間だって、毎日のようにクラスの男子や女子に勉強を教えている姿を見るもん。



「……古典のテスト問題の一部はこの問題集から出るっていくら言われても、答えがわからなきゃ話になんないよ」


 まぁ、授業中の答え合わせも寝てしまってたあたしが悪いんだけど。


 こんなことなら、前もって実里に答え写させてもらっとけば良かった。


 このままじゃあ課題提出のみならず、テストの結果も危ういよ……。


 全部先伸ばしにしていた自分が悪いのに、出てくるのは後悔の念ばかり。


 思わず机の上の問題集に突っ伏したとき、不意にある考えが頭を過った。



 こうちゃんは今、あたしの家から学校を行き来している。


 つまり、こうちゃんに使ってもらっている部屋に行けば、こうちゃんの古典の問題集もそこにあるわけで……。



 あたしったら、なんでそんな重要なことに気づけなかったんだろう。


 問題集の答えなら、この家の中にあったっていうのに……。


 そう思えば居ても立ってもいられなくなって、あたしは物音を立てないように自分の部屋をあとにした。



 抜き足差し足で近づいた、こうちゃんが眠る部屋。


 もともとはお父さんの部屋を貸してるだけだから、その部屋の見取り図は頭に入っている。


 ドアの隙間から明かりが漏れていないのを見るところ、夕飯のときの会話にあった通り、こうちゃんはすでに明日の準備を整えて早々と眠りについているのだろう。


 音を立てないように、静かにドアを開けて中へと進入する。


 真っ暗な室内、あたしはパジャマの短パンのポケットからスマホを取り出して、その明かりを頼りに室内を見回した。



 古典の課題提出期限は、明日の5限目。

 だから、きっとこうちゃんの眠るベッドの隣に置かれている通学鞄の中に、目的の答えの記入された古典の問題集が入っているはずだ。


 それをこっそり持ち出してあたしの部屋で写したあと、再びバレないように元に戻しておけば完璧だ。


 テストの方も、とりあえず覚えられるだけ答えを覚えて臨めば、それなりに答えを埋められるはず……!
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