5 / 64
2*ほんま、目離されへんな
(1)
しおりを挟む
「今日からお世話になります、早瀬光樹です」
よろしくな! と元気良く挨拶するこうちゃんに、キャッキャと騒ぐ女子たちの黄色い声が聞こえる。
まさか、よりによって同じクラスだったなんて……。
思い返せば、あたしのクラスは入学式からずっと欠席になってる男子がいた。
というより、その彼の席があたしの後ろに当たることもあり、決して知らないわけではなかった。
だけど、その男子の正体がこうちゃんだっただなんて、誰が気づくだろうか。
今まで気に留めたことがなかったけれど、今朝その空席の座席の札を確認すると、ご丁寧に『早瀬』と書かれていた。
その時点でこうちゃんがどこの席を指示されるかなんて、わかりきっていた。
「それでは、早瀬の席は水嶋の後ろだ。水嶋とは知り合いなんだってな?」
……え。
「はい」
こうちゃんが担任の男の先生の言葉に返事をした瞬間、女子たちの視線があたしの方へと一気に注がれる。
「え、水嶋さんが早瀬くんと知り合いってどういうこと!?」
「昨日関西から引っ越してきたって聞いたけど、その前からの知り合いってこと!?」
ちらほら聞こえる囁き声。
何でこの担任は余計なことをしゃべるかなぁ。
元はと言えば、こうちゃんがあたしのことを知ってるって担任に話したんだろうけど、担任がそんな説明するから変に注目されちゃったじゃん!
「じゃあ水嶋、早瀬がわからないことがあるようなら教えてあげてくれ」
そんなあたしの心境を知らないのだろう担任は、まるでとどめのように言った。
教えてあげてくれ、って。
あたしもまだ入学してやっと1週間過ぎたところで、わからないことたくさんあるんだけど……。
小さくため息を落としたとき、またしてもあたしの心境を知らないのであろうこうちゃんが、あたしの傍まで歩いてきていた。
「ほな、学校でもよろしくな、ちぃ」
ぽん、と軽くあたしの頭の上に乗せられた大きな手。
反射的に見上げると、こうちゃんの柔らかい笑み。
さっきより一際強くなる、女子たちの騒ぎ声。
その声にハッとしたときにはすでにこうちゃんはあたしの後ろの席についていて、こうちゃんの隣の席にあたる男子に軽く挨拶しているようだった。
もう! こんな公衆の面前で何やってくれてるのよ!
こっちは必要以上に注目されて困るっていうのに……っ!
顔から火が出るような思いでこうちゃんを睨み付けていると、それに気づいたこうちゃんはプッと吹き出すように笑った。
「ちぃ、悪いけど、すっげぇ顔してんで?」
小声でそう言ったこうちゃんに、思わず言い返す。
「ちょ、誰のせいだと思って……っ!」
「水嶋! こら、静かにせんか! まだショートホームルームは終わっとらんぞ」
いつの間にかしんとした教室に響いた、あたしの声。
すかさず渇を入れてきた担任に、あたしは小さくなった。
「……すみません」
うぅ……っ、何であたしだけこうなるのよ。
後ろではきっと、こうちゃんがまたあたしをバカにしたように笑っているのだろう。
昔のこうちゃんは、もっと優しかったような気がするんだけどな。
学校でまで一緒だなんて、これからどうなるんだろう……?
*
「ねぇねぇ、なんでこの高校にしたの?」
「なんで水嶋さんと知り合いだったの?」
休み時間の度、こうちゃんに押し寄せる女子の群れ。
昼休みとなると、こうちゃんの噂を聞きつけた他のクラスの女子たちも集まってきて、こうちゃんの席の周りは人であふれかえっていた。
さすがにあたしもその空間は居心地が悪くて、少し離れた実里の席でお弁当を食べながらその様子を見ていた。
「それにしても、すごい人だかりね。昨日まで、あの空席と千紗の机をくっつけてお昼を食べてたのが懐かしいくらい」
あまりのこうちゃんの人気ぶりに、さすがの実里も目をまん丸にして口を開く。
「ほんとだよ。もう、朝からほんとうんざりしちゃう……」
こうちゃんは爽やかな笑顔をふりまいて、あたしに対して見せる意地悪な一面は、他のクラスメイトにはほとんど見せていない。
それにくわえて、こうちゃんは顔も良いし、女子のハートをつかむのもわかるけどさ……。
「……みんな、あの見た目と雰囲気に絶対騙されてるよね」
ぼそりとつぶやくと、不思議そうに首をかしげる実里。
「そういや千紗って早瀬くんのこと良く知ってるみたいだけど、昔の幼なじみ、なんだっけ?」
こうちゃんの口からは、あたしはこうちゃんの“昔の幼なじみ”と紹介されているのを聞いた。
だから、実里にそんな風に聞かれるのは不思議じゃない。
よろしくな! と元気良く挨拶するこうちゃんに、キャッキャと騒ぐ女子たちの黄色い声が聞こえる。
まさか、よりによって同じクラスだったなんて……。
思い返せば、あたしのクラスは入学式からずっと欠席になってる男子がいた。
というより、その彼の席があたしの後ろに当たることもあり、決して知らないわけではなかった。
だけど、その男子の正体がこうちゃんだっただなんて、誰が気づくだろうか。
今まで気に留めたことがなかったけれど、今朝その空席の座席の札を確認すると、ご丁寧に『早瀬』と書かれていた。
その時点でこうちゃんがどこの席を指示されるかなんて、わかりきっていた。
「それでは、早瀬の席は水嶋の後ろだ。水嶋とは知り合いなんだってな?」
……え。
「はい」
こうちゃんが担任の男の先生の言葉に返事をした瞬間、女子たちの視線があたしの方へと一気に注がれる。
「え、水嶋さんが早瀬くんと知り合いってどういうこと!?」
「昨日関西から引っ越してきたって聞いたけど、その前からの知り合いってこと!?」
ちらほら聞こえる囁き声。
何でこの担任は余計なことをしゃべるかなぁ。
元はと言えば、こうちゃんがあたしのことを知ってるって担任に話したんだろうけど、担任がそんな説明するから変に注目されちゃったじゃん!
「じゃあ水嶋、早瀬がわからないことがあるようなら教えてあげてくれ」
そんなあたしの心境を知らないのだろう担任は、まるでとどめのように言った。
教えてあげてくれ、って。
あたしもまだ入学してやっと1週間過ぎたところで、わからないことたくさんあるんだけど……。
小さくため息を落としたとき、またしてもあたしの心境を知らないのであろうこうちゃんが、あたしの傍まで歩いてきていた。
「ほな、学校でもよろしくな、ちぃ」
ぽん、と軽くあたしの頭の上に乗せられた大きな手。
反射的に見上げると、こうちゃんの柔らかい笑み。
さっきより一際強くなる、女子たちの騒ぎ声。
その声にハッとしたときにはすでにこうちゃんはあたしの後ろの席についていて、こうちゃんの隣の席にあたる男子に軽く挨拶しているようだった。
もう! こんな公衆の面前で何やってくれてるのよ!
こっちは必要以上に注目されて困るっていうのに……っ!
顔から火が出るような思いでこうちゃんを睨み付けていると、それに気づいたこうちゃんはプッと吹き出すように笑った。
「ちぃ、悪いけど、すっげぇ顔してんで?」
小声でそう言ったこうちゃんに、思わず言い返す。
「ちょ、誰のせいだと思って……っ!」
「水嶋! こら、静かにせんか! まだショートホームルームは終わっとらんぞ」
いつの間にかしんとした教室に響いた、あたしの声。
すかさず渇を入れてきた担任に、あたしは小さくなった。
「……すみません」
うぅ……っ、何であたしだけこうなるのよ。
後ろではきっと、こうちゃんがまたあたしをバカにしたように笑っているのだろう。
昔のこうちゃんは、もっと優しかったような気がするんだけどな。
学校でまで一緒だなんて、これからどうなるんだろう……?
*
「ねぇねぇ、なんでこの高校にしたの?」
「なんで水嶋さんと知り合いだったの?」
休み時間の度、こうちゃんに押し寄せる女子の群れ。
昼休みとなると、こうちゃんの噂を聞きつけた他のクラスの女子たちも集まってきて、こうちゃんの席の周りは人であふれかえっていた。
さすがにあたしもその空間は居心地が悪くて、少し離れた実里の席でお弁当を食べながらその様子を見ていた。
「それにしても、すごい人だかりね。昨日まで、あの空席と千紗の机をくっつけてお昼を食べてたのが懐かしいくらい」
あまりのこうちゃんの人気ぶりに、さすがの実里も目をまん丸にして口を開く。
「ほんとだよ。もう、朝からほんとうんざりしちゃう……」
こうちゃんは爽やかな笑顔をふりまいて、あたしに対して見せる意地悪な一面は、他のクラスメイトにはほとんど見せていない。
それにくわえて、こうちゃんは顔も良いし、女子のハートをつかむのもわかるけどさ……。
「……みんな、あの見た目と雰囲気に絶対騙されてるよね」
ぼそりとつぶやくと、不思議そうに首をかしげる実里。
「そういや千紗って早瀬くんのこと良く知ってるみたいだけど、昔の幼なじみ、なんだっけ?」
こうちゃんの口からは、あたしはこうちゃんの“昔の幼なじみ”と紹介されているのを聞いた。
だから、実里にそんな風に聞かれるのは不思議じゃない。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる
ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。
正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。
そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる