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2*ほんま、目離されへんな

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「今日からお世話になります、早瀬光樹です」


 よろしくな! と元気良く挨拶するこうちゃんに、キャッキャと騒ぐ女子たちの黄色い声が聞こえる。


 まさか、よりによって同じクラスだったなんて……。



 思い返せば、あたしのクラスは入学式からずっと欠席になってる男子がいた。


 というより、その彼の席があたしの後ろに当たることもあり、決して知らないわけではなかった。


 だけど、その男子の正体がこうちゃんだっただなんて、誰が気づくだろうか。


 今まで気に留めたことがなかったけれど、今朝その空席の座席の札を確認すると、ご丁寧に『早瀬』と書かれていた。


 その時点でこうちゃんがどこの席を指示されるかなんて、わかりきっていた。



「それでは、早瀬の席は水嶋の後ろだ。水嶋とは知り合いなんだってな?」


 ……え。


「はい」


 こうちゃんが担任の男の先生の言葉に返事をした瞬間、女子たちの視線があたしの方へと一気に注がれる。


「え、水嶋さんが早瀬くんと知り合いってどういうこと!?」


「昨日関西から引っ越してきたって聞いたけど、その前からの知り合いってこと!?」



 ちらほら聞こえる囁き声。


 何でこの担任は余計なことをしゃべるかなぁ。


 元はと言えば、こうちゃんがあたしのことを知ってるって担任に話したんだろうけど、担任がそんな説明するから変に注目されちゃったじゃん!



「じゃあ水嶋、早瀬がわからないことがあるようなら教えてあげてくれ」


 そんなあたしの心境を知らないのだろう担任は、まるでとどめのように言った。


 教えてあげてくれ、って。


 あたしもまだ入学してやっと1週間過ぎたところで、わからないことたくさんあるんだけど……。



 小さくため息を落としたとき、またしてもあたしの心境を知らないのであろうこうちゃんが、あたしの傍まで歩いてきていた。



「ほな、学校でもよろしくな、ちぃ」


 ぽん、と軽くあたしの頭の上に乗せられた大きな手。


 反射的に見上げると、こうちゃんの柔らかい笑み。


 さっきより一際強くなる、女子たちの騒ぎ声。



 その声にハッとしたときにはすでにこうちゃんはあたしの後ろの席についていて、こうちゃんの隣の席にあたる男子に軽く挨拶しているようだった。



 もう! こんな公衆の面前で何やってくれてるのよ!

 こっちは必要以上に注目されて困るっていうのに……っ!


 顔から火が出るような思いでこうちゃんを睨み付けていると、それに気づいたこうちゃんはプッと吹き出すように笑った。



「ちぃ、悪いけど、すっげぇ顔してんで?」


 小声でそう言ったこうちゃんに、思わず言い返す。


「ちょ、誰のせいだと思って……っ!」


「水嶋! こら、静かにせんか! まだショートホームルームは終わっとらんぞ」


 いつの間にかしんとした教室に響いた、あたしの声。


 すかさず渇を入れてきた担任に、あたしは小さくなった。



「……すみません」


 うぅ……っ、何であたしだけこうなるのよ。


 後ろではきっと、こうちゃんがまたあたしをバカにしたように笑っているのだろう。


 昔のこうちゃんは、もっと優しかったような気がするんだけどな。


 学校でまで一緒だなんて、これからどうなるんだろう……?



 *



「ねぇねぇ、なんでこの高校にしたの?」


「なんで水嶋さんと知り合いだったの?」


 休み時間の度、こうちゃんに押し寄せる女子の群れ。


 昼休みとなると、こうちゃんの噂を聞きつけた他のクラスの女子たちも集まってきて、こうちゃんの席の周りは人であふれかえっていた。


 さすがにあたしもその空間は居心地が悪くて、少し離れた実里の席でお弁当を食べながらその様子を見ていた。



「それにしても、すごい人だかりね。昨日まで、あの空席と千紗の机をくっつけてお昼を食べてたのが懐かしいくらい」


 あまりのこうちゃんの人気ぶりに、さすがの実里も目をまん丸にして口を開く。



「ほんとだよ。もう、朝からほんとうんざりしちゃう……」


 こうちゃんは爽やかな笑顔をふりまいて、あたしに対して見せる意地悪な一面は、他のクラスメイトにはほとんど見せていない。



 それにくわえて、こうちゃんは顔も良いし、女子のハートをつかむのもわかるけどさ……。



「……みんな、あの見た目と雰囲気に絶対騙されてるよね」


 ぼそりとつぶやくと、不思議そうに首をかしげる実里。


「そういや千紗って早瀬くんのこと良く知ってるみたいだけど、昔の幼なじみ、なんだっけ?」


 こうちゃんの口からは、あたしはこうちゃんの“昔の幼なじみ”と紹介されているのを聞いた。


 だから、実里にそんな風に聞かれるのは不思議じゃない。
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