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1*再会は突然に

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「あらあら。千紗ったら、あまりに光樹くんがイケメンになってるから緊張してるのね」


「な、何言ってるのよ! 違うってばっ!」


 突然とんでもないことを言い出したお母さんをキッと睨む。



「うふふ。今夜は光樹くんに夕飯はうちで食べていってもらうから、部屋にでも案内してあげなさい。明日からは同じ高校に通うことになってるから、いろいろ教えてあげるのよ」


 だけど、お母さんは特に悪びれた様子もなく楽しそうに笑うと、リビングの奥に続くキッチンへと向かった。



 ちょ……っ!

 部屋に案内、って、あたしの部屋に案内しろってこと!?

 信じらんない。


 いくら幼なじみとは言っても、10年近く会ってなかったような相手だし、しかも男子なんだよ!?


 あたしの部屋に男子を入れたことなんて未だかつてない上に、今まで部屋に上げたことがあるのは実里くらいだって言うのに……。


 まさかいきなり部屋に連れていくことになるなんて!


 しかも部屋、綺麗に片付いてたっけ……?



 そんなことをひとり悶々と考えていると、不意に声をかけられる。



「……ちぃ?」


「は、はいぃっ!?」


 やだ、あたしったら何動揺してんのよ!


 昔と違って、低く透き通った声に関西弁。

 背だってうんと高くなって、見上げないと顔が見えないくらいだ。


 いくらあのこうちゃんだって言われても、にわかに信じられない気持ちが入り交じる。



 ソファーから立ってこちらに歩いてきたこうちゃんは、あたしの前まで歩いてきて、それ以上何も言わないあたしに困ったように笑った。



「何や困らせてしもてごめんな? やっぱ10年も経つとお互い変わってしもてて別人みたいやもんな。そりゃなかなか昔みたいにってわけにはいかへんわな」



 そう言うこうちゃんの声はどこか寂しげで、何だかあたしの心の中まで読まれているみたいで、罪悪感に似た気持ちがわき起こる。



「そ、そんな。あ、あたしも、突然だったし、そりゃびっくりしたけどさ、困ってなんか……」


 慌ててそう言うも、その瞬間、ニタリと笑って一瞬にして表情を変えたこうちゃん。


「なら、良かった。ほな、行くか? 案内、頼むわ」


 へ?

 こうちゃんは、あたしを追い越すと、廊下へと続く扉へと向かう。



「案内……、って?」


「ちぃの部屋。さすがに俺が勝手に家ん中探し回るのはあかんやろ?」


「そ、そうだけど……!」


 あー、もう!
 お母さんが余計なこと言うからっ!


 あたしは仕方なしにこうちゃんを連れて、2階にある自分の部屋へと向かった。



「結構シンプルな部屋やねんなぁ」


 こうちゃんがあたしの部屋に入るなり、第一声。


 いつの間にかお母さんが勝手に部屋の掃除をしてくれてたみたいで、ベッドの上に脱ぎっぱなしだったパジャマは綺麗に畳まれてシーツなんかも綺麗に整えられていた。


 机の上に広げっぱなしだったノートも綺麗に机の本棚に立っている。

 ごみ箱も空っぽ。


 ……さすがはお母さん。
 部屋に案内してあげなさいって言うだけあって、ちゃんとしてくれてる。


 シンプルと言われたのは、きっとぬいぐるみとかたくさん置いてある女の子らしい部屋ではなくて、必要最低限の物しか置いてない部屋だからだろう。



 あたしはとりあえずベッドの端に座って、いつまでも突っ立ってあたしの部屋を見回しているこうちゃんに口を開く。


「とりあえず、適当に座って?」


「サンキュ」


 と小さく返事して、こうちゃんはあたしの隣に腰を下ろした。




「何や、あのちぃと一緒におるなんて、不思議な気分やわぁ~」


「そ、そう?」


 そう答えつつも、実はあたしも不思議な気分だ。


 この部屋に男の人がいるということに慣れないからなのか、緊張して柄にもなくまた声が上ずってしまいそう。


 それ以前に、考えてもみれば初恋の相手がこんなにかっこよくなって目の前に現れたんだ。


 いくら空白の時間があったとはいえ、ドキドキしてしまうのは普通のことなのかもしれない。



「あ、あの……っ」


「何や?」


『大きくなったら、俺のお嫁さんになってな』って言ってくれた、あの日のこと覚えてる? 思わず口から出そうになった言葉を、思わず飲み込む。



「い、いや。何でもない……」


 こうちゃんも覚えてくれてるのかな? っていう、好奇心から聞こうとしたけれど、

 もし覚えていなかったら……と思うと、何だか悲しいように感じたから。
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