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1*再会は突然に
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「ただいま~」
家に帰ると、玄関に見慣れない大きな革靴が一足揃えて並べられていた。
……男物?
あたしは、思わず首をかしげる。
お父さんは二年ほど前から単身赴任していて、あたしは今、お母さんと二人暮らしのような状態だ。
お父さんが帰ってくるなんて、聞いてない。
それなのにこんな風に見慣れない男物の靴が玄関にあるなんて、普通ならあり得ないことだ。
まさかあたしの授業態度で、あの国語の先生があたしの家まで押しかけてきたとか?
さっきまで居残りさせてたくせに……?
本当にさっきまで学校にいたくせに、今はあたしの家に居るとなれば、まさか瞬間移動!?
そんなわけのわからないことを考えて玄関に立ち尽くして居ると、リビングの方からバタバタとお母さんの足音が聞こえてきた。
「千紗、やっぱり帰ってるんじゃない! 遅かったわね。ほらお客さん待たせてるんだから、さっさと鞄置いてリビングに来なさい」
お客さん……?
「え、まさか家庭訪問……?」
「家庭訪問? 何バカなこと言ってるの。ほら、お母さんたち待ってるからね」
きっと千紗、驚くわよ~。
なんて言いながら、あたしのわけのわからない言葉をさらりとかわして、お母さんはリビングの中へニコニコしながら戻って行った。
一旦、自分の部屋に荷物を置いてから、あたしはリビングに入る。
「よぉ! 久しぶり!」
「へ?」
あたしに向かって親しげに声をかけてきたのは、あたしと歳の近そうな男の子。
男の子は、リビングの中央に置かれた茶色の革製のソファーに座っている。
くっきりとした目鼻立ちに、ほどよく逆立てられた黒髪。
見た目は、正直、かっこいい。
あたしの学校の制服来てるし、同じ学校の人なんだろうけど……。
この人、誰……?
傍のテーブルには3つの紅茶とケーキが並べられていて、彼がお母さんの言うお客さんなのだろう。
だけど、今、久しぶりと言われた気がするけど、あたしはこの人と初めて会う気がするんだけど……。
ポカンと固まっていると、お母さんがクスクスと笑いながら口を開いた。
「やだわ、この子ったら。ほら、まだ思い出せない? お隣の早瀬 光樹くんよ」
「え、こ、こうちゃん……っ!?」
昔よく一緒に遊んで、結婚の約束までした、あのこうちゃんなの!?
驚いて、視線を再びソファーに座る男性に戻す。
今日、その当時を思い出すような夢を見ただけに、それだけで変に肩に力が入る。
「おばさん、さすがにわからへんでもしゃあないですよ」
眉を下げて、困ったように笑う……こうちゃん。
言われてみれば、笑ったときに下がる目尻の雰囲気は、あたしの知ってる昔のこうちゃんの面影を持ってるように感じる。
聞き慣れない関西弁も、こうちゃんが昔関西に引っ越してしまったことを考えれば納得がいく。
「だって、俺もちぃが入ってくるってわかってたから声かけられましたけど、一瞬戸惑いましたもん。えらい可愛なったな、ちぃ」
「え、あ、ぅ……」
ふわりと柔らかく目を細めて、口元に優しい笑みを浮かべるこうちゃん。
いくらなんでも、不意打ちでしょ!
いくら相手があのこうちゃんだって言われても、こんなイケメンな姿になって、か、可愛くなっただなんて言われたら……。
思わず加速する鼓動を、冷静に抑える。
「どないしたん? ちぃ、顔真っ赤やで?」
「……え!?」
だけど、不意に放たれたこうちゃんの一言に、慌てて両手をパッと頬に当てた。
確かにいつもより熱くはなってるけど、そんなに赤くなってるなんて……!
「本当に光樹くんったら口が上手いんだから。ほら、千紗もいつまでも突っ立ってないで、座りなさい」
「え、あ……うん」
お母さんに言われるがままに、テーブルを挟んでこうちゃんと向かい合わせの位置にあるソファーに座る。
続いてお母さんもあたしの隣に腰を下ろした。
こうちゃんは、今日、ずっと空き家になっていた隣の家に戻ってきたらしい。
10年前、関西へと引っ越してしまったこうちゃんの家族だけど、仕事が落ち着いたらまたこの地に住みたいというご両親の希望から、家や土地は手放さずにいたらしい。
本当はこうちゃんたち家族揃って高校の入学式に合わせてこちらに戻ってくる予定だったんだけど、ご両親の都合がつかなくて入学式には間に合わず……。入学早々学校を休み続けるのも良くないとのことで、結局、こうちゃんは一人でこっちに戻って来たんだそうだ。
「……そういうわけで、一人隣の家に住むことになった光樹くんの様子を私たちで見るって、すみれと約束したのよ。これからは光樹くんも度々この家に出入りすることになると思うから」
“すみれ”さんとは、こうちゃんのお母さんの名前らしい。
今まであまり知らなかったけど、お母さんとこうちゃんのご両親は大学時代の友達で、仲がとても良かったんだって。
簡単に説明を終えて、どこか嬉しそうにそう言うお母さんだけど……。
ちょっと待って!
今、こうちゃんの様子を“私たちで”見るって言ったよね!?
何!? 私たち、って!?
あたしに何の役に立てと言うんだろう……?
「ほんまご迷惑かけて申し訳ないです。ちぃも、こんな奴やけど、また仲良くしたってな」
お母さんの言葉を深く考えて内心パニックを起こしてるあたしの心境がこうちゃんに伝わっているはずもなく、こうちゃんは申し訳なさげにお母さんに頭を下げたあと、あたしを見てニッと微笑んだ。
「え、あ、はい……。よろしく、お願いします……」
不意に暴れ出す心臓。
お母さんの考えてることはよくわからないけど、やっぱりこうちゃん、かっこよくなったな……。
あたしは、こうちゃんにぎこちなく言って、小さく頭を下げた。
家に帰ると、玄関に見慣れない大きな革靴が一足揃えて並べられていた。
……男物?
あたしは、思わず首をかしげる。
お父さんは二年ほど前から単身赴任していて、あたしは今、お母さんと二人暮らしのような状態だ。
お父さんが帰ってくるなんて、聞いてない。
それなのにこんな風に見慣れない男物の靴が玄関にあるなんて、普通ならあり得ないことだ。
まさかあたしの授業態度で、あの国語の先生があたしの家まで押しかけてきたとか?
さっきまで居残りさせてたくせに……?
本当にさっきまで学校にいたくせに、今はあたしの家に居るとなれば、まさか瞬間移動!?
そんなわけのわからないことを考えて玄関に立ち尽くして居ると、リビングの方からバタバタとお母さんの足音が聞こえてきた。
「千紗、やっぱり帰ってるんじゃない! 遅かったわね。ほらお客さん待たせてるんだから、さっさと鞄置いてリビングに来なさい」
お客さん……?
「え、まさか家庭訪問……?」
「家庭訪問? 何バカなこと言ってるの。ほら、お母さんたち待ってるからね」
きっと千紗、驚くわよ~。
なんて言いながら、あたしのわけのわからない言葉をさらりとかわして、お母さんはリビングの中へニコニコしながら戻って行った。
一旦、自分の部屋に荷物を置いてから、あたしはリビングに入る。
「よぉ! 久しぶり!」
「へ?」
あたしに向かって親しげに声をかけてきたのは、あたしと歳の近そうな男の子。
男の子は、リビングの中央に置かれた茶色の革製のソファーに座っている。
くっきりとした目鼻立ちに、ほどよく逆立てられた黒髪。
見た目は、正直、かっこいい。
あたしの学校の制服来てるし、同じ学校の人なんだろうけど……。
この人、誰……?
傍のテーブルには3つの紅茶とケーキが並べられていて、彼がお母さんの言うお客さんなのだろう。
だけど、今、久しぶりと言われた気がするけど、あたしはこの人と初めて会う気がするんだけど……。
ポカンと固まっていると、お母さんがクスクスと笑いながら口を開いた。
「やだわ、この子ったら。ほら、まだ思い出せない? お隣の早瀬 光樹くんよ」
「え、こ、こうちゃん……っ!?」
昔よく一緒に遊んで、結婚の約束までした、あのこうちゃんなの!?
驚いて、視線を再びソファーに座る男性に戻す。
今日、その当時を思い出すような夢を見ただけに、それだけで変に肩に力が入る。
「おばさん、さすがにわからへんでもしゃあないですよ」
眉を下げて、困ったように笑う……こうちゃん。
言われてみれば、笑ったときに下がる目尻の雰囲気は、あたしの知ってる昔のこうちゃんの面影を持ってるように感じる。
聞き慣れない関西弁も、こうちゃんが昔関西に引っ越してしまったことを考えれば納得がいく。
「だって、俺もちぃが入ってくるってわかってたから声かけられましたけど、一瞬戸惑いましたもん。えらい可愛なったな、ちぃ」
「え、あ、ぅ……」
ふわりと柔らかく目を細めて、口元に優しい笑みを浮かべるこうちゃん。
いくらなんでも、不意打ちでしょ!
いくら相手があのこうちゃんだって言われても、こんなイケメンな姿になって、か、可愛くなっただなんて言われたら……。
思わず加速する鼓動を、冷静に抑える。
「どないしたん? ちぃ、顔真っ赤やで?」
「……え!?」
だけど、不意に放たれたこうちゃんの一言に、慌てて両手をパッと頬に当てた。
確かにいつもより熱くはなってるけど、そんなに赤くなってるなんて……!
「本当に光樹くんったら口が上手いんだから。ほら、千紗もいつまでも突っ立ってないで、座りなさい」
「え、あ……うん」
お母さんに言われるがままに、テーブルを挟んでこうちゃんと向かい合わせの位置にあるソファーに座る。
続いてお母さんもあたしの隣に腰を下ろした。
こうちゃんは、今日、ずっと空き家になっていた隣の家に戻ってきたらしい。
10年前、関西へと引っ越してしまったこうちゃんの家族だけど、仕事が落ち着いたらまたこの地に住みたいというご両親の希望から、家や土地は手放さずにいたらしい。
本当はこうちゃんたち家族揃って高校の入学式に合わせてこちらに戻ってくる予定だったんだけど、ご両親の都合がつかなくて入学式には間に合わず……。入学早々学校を休み続けるのも良くないとのことで、結局、こうちゃんは一人でこっちに戻って来たんだそうだ。
「……そういうわけで、一人隣の家に住むことになった光樹くんの様子を私たちで見るって、すみれと約束したのよ。これからは光樹くんも度々この家に出入りすることになると思うから」
“すみれ”さんとは、こうちゃんのお母さんの名前らしい。
今まであまり知らなかったけど、お母さんとこうちゃんのご両親は大学時代の友達で、仲がとても良かったんだって。
簡単に説明を終えて、どこか嬉しそうにそう言うお母さんだけど……。
ちょっと待って!
今、こうちゃんの様子を“私たちで”見るって言ったよね!?
何!? 私たち、って!?
あたしに何の役に立てと言うんだろう……?
「ほんまご迷惑かけて申し訳ないです。ちぃも、こんな奴やけど、また仲良くしたってな」
お母さんの言葉を深く考えて内心パニックを起こしてるあたしの心境がこうちゃんに伝わっているはずもなく、こうちゃんは申し訳なさげにお母さんに頭を下げたあと、あたしを見てニッと微笑んだ。
「え、あ、はい……。よろしく、お願いします……」
不意に暴れ出す心臓。
お母さんの考えてることはよくわからないけど、やっぱりこうちゃん、かっこよくなったな……。
あたしは、こうちゃんにぎこちなく言って、小さく頭を下げた。
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