6 / 23
「幼なじみとあたしの境界線」
2-3
しおりを挟む
「あたしは、千尋じゃなきゃダメなの……。千尋だけが、好きなの……」
そこまで言い切ったとき、新庄くんの腕の力はふわりと緩む。
身動きが許されたあたしは、恐る恐る新庄くんの表情を覗き見る。
しかし、新庄くんの目は、部室の入口の方にくぎ付けになっていた。
「……高岡。お前、いつからそこにいたんだよ」
部室の入口を見ると、いつの間にか開いたドアの傍に、千尋が立っていた。
「さぁな。それより、フラれたなら潔く綾那から離れろよ」
苛立ちを帯びた千尋の声は、いつもより低く、思わずあたしまでビクつきそうになった。
でも、待って……。
あたしが新庄くんの告白を断ったところを千尋が知ってるって……。
『あたしは、千尋じゃなきゃダメなの……』
『千尋だけが、好きなの……』
この言葉も聞かれたってことだよね……?
千尋の手によって、新庄くんはあたしから引きはがされる。
「あーそうだよ。俺の負けだ」
新庄くんは千尋に掴まれた腕を思いっきり振りほどくと、千尋を睨みつけて声を荒げた。
「……だけど負けたとはいえ、お前がいつまでもどっち付かずな態度だったら、俺は引かねーからな」
新庄くんは、そう言って、悔しげに部室を走って出て行った。
新庄くんが出ていって、部室に残されたのはあたしと千尋の二人。
あたしの千尋への気持ちは、間違いなく千尋に聞かれてるはず……。
まさか、こんな形で千尋に知られるなんて、思わなかった。
あたしは緊張で鳴りやまない胸を押さえつけながら、この張り詰めた空気を壊したくて、小さく口を開いた。
「千尋、まだ学校に残ってたんだ……」
「まぁ、顧問と今度の練習試合と公式戦に向けての攻略を考えてたからな」
「へぇ、そうなんだ……。何で、ここに?」
「部室の鍵が職員室の鍵置場に返って来てなかったから、まだ誰かいるのかなって思ったから」
「そっか……」
あたしが一旦口を閉ざすと、すぐに千尋の声がその沈黙を破る。
「なぁ……」
「何?」
相変わらず怒ったままの、千尋の声。
あたしが顔を上げると、千尋が一歩こちらへと近づいて来ていた。
「俺、言ったよな? あいつには気をつけろって。何襲われてんだよ」
「べ、つに、襲われてなんて……」
剣幕な表情で一歩一歩こちらに近づいてくる千尋に、思わずあとずさりする。
「お前はそうは思ってなくても、俺にはそう見えたんだよ!!」
そんなに広くはない部室内。
どんどん近づいてくる千尋にあとずさりしていると、すぐにあたしの背中は部室の冷たい壁にぶつかってしまった。
千尋は、あたしを閉じ込めるように、あたしの顔の真横にバンッと両手をつく。
「ちょっ、何よ、千尋には関係ないじゃん……」
近い距離にある千尋の顔に、ドギマギしながらも声を絞り出す。
「関係ねぇことねーだろ?」
だけど、そう言って迫り来る千尋に、あたしは思わず怒鳴っていた。
「全然関係ないよ! だって、千尋にとっては、あたしはただの幼なじみじゃない……っ!!」
言ってすぐに口を閉ざして顔を逸らした。
あたし、最低だ……。
いくら自分の気持ちを聞かれたからって、千尋は千尋で、幼なじみとしてあたしのこと心配してくれてただけなのに……。
でも、言ってしまってからでは、もう遅い。
あたしには、前もってそんな風に考える程の余裕なんて、残っていなかったんだから。
だけど、幼なじみだからってそんなに心配されると、要らぬ期待を抱くあたしがいた。
幼なじみの枠を越えられないなら、千尋にはこれ以上あたしに期待させないでほしい。
「……綾那」
切なげに頭上で響く声に、千尋の顔を見上げる。
でも、あたしの視界に、苦しげに顔を歪めた千尋の顔が映ったのは一瞬。先程まで千尋の顔全体を映したあたしの目はググッと見開かれ、視界に映るのは、千尋の伏せられた綺麗な目元だった。
ごめん、と言おうとした唇は、千尋のそれと重なっていた。
「……んんっ」
ちょっと、何であたし、千尋とキスしてるの……!?
あたしがやっとの思いで千尋を押し返すと、千尋はそっと唇を離した。
そこまで言い切ったとき、新庄くんの腕の力はふわりと緩む。
身動きが許されたあたしは、恐る恐る新庄くんの表情を覗き見る。
しかし、新庄くんの目は、部室の入口の方にくぎ付けになっていた。
「……高岡。お前、いつからそこにいたんだよ」
部室の入口を見ると、いつの間にか開いたドアの傍に、千尋が立っていた。
「さぁな。それより、フラれたなら潔く綾那から離れろよ」
苛立ちを帯びた千尋の声は、いつもより低く、思わずあたしまでビクつきそうになった。
でも、待って……。
あたしが新庄くんの告白を断ったところを千尋が知ってるって……。
『あたしは、千尋じゃなきゃダメなの……』
『千尋だけが、好きなの……』
この言葉も聞かれたってことだよね……?
千尋の手によって、新庄くんはあたしから引きはがされる。
「あーそうだよ。俺の負けだ」
新庄くんは千尋に掴まれた腕を思いっきり振りほどくと、千尋を睨みつけて声を荒げた。
「……だけど負けたとはいえ、お前がいつまでもどっち付かずな態度だったら、俺は引かねーからな」
新庄くんは、そう言って、悔しげに部室を走って出て行った。
新庄くんが出ていって、部室に残されたのはあたしと千尋の二人。
あたしの千尋への気持ちは、間違いなく千尋に聞かれてるはず……。
まさか、こんな形で千尋に知られるなんて、思わなかった。
あたしは緊張で鳴りやまない胸を押さえつけながら、この張り詰めた空気を壊したくて、小さく口を開いた。
「千尋、まだ学校に残ってたんだ……」
「まぁ、顧問と今度の練習試合と公式戦に向けての攻略を考えてたからな」
「へぇ、そうなんだ……。何で、ここに?」
「部室の鍵が職員室の鍵置場に返って来てなかったから、まだ誰かいるのかなって思ったから」
「そっか……」
あたしが一旦口を閉ざすと、すぐに千尋の声がその沈黙を破る。
「なぁ……」
「何?」
相変わらず怒ったままの、千尋の声。
あたしが顔を上げると、千尋が一歩こちらへと近づいて来ていた。
「俺、言ったよな? あいつには気をつけろって。何襲われてんだよ」
「べ、つに、襲われてなんて……」
剣幕な表情で一歩一歩こちらに近づいてくる千尋に、思わずあとずさりする。
「お前はそうは思ってなくても、俺にはそう見えたんだよ!!」
そんなに広くはない部室内。
どんどん近づいてくる千尋にあとずさりしていると、すぐにあたしの背中は部室の冷たい壁にぶつかってしまった。
千尋は、あたしを閉じ込めるように、あたしの顔の真横にバンッと両手をつく。
「ちょっ、何よ、千尋には関係ないじゃん……」
近い距離にある千尋の顔に、ドギマギしながらも声を絞り出す。
「関係ねぇことねーだろ?」
だけど、そう言って迫り来る千尋に、あたしは思わず怒鳴っていた。
「全然関係ないよ! だって、千尋にとっては、あたしはただの幼なじみじゃない……っ!!」
言ってすぐに口を閉ざして顔を逸らした。
あたし、最低だ……。
いくら自分の気持ちを聞かれたからって、千尋は千尋で、幼なじみとしてあたしのこと心配してくれてただけなのに……。
でも、言ってしまってからでは、もう遅い。
あたしには、前もってそんな風に考える程の余裕なんて、残っていなかったんだから。
だけど、幼なじみだからってそんなに心配されると、要らぬ期待を抱くあたしがいた。
幼なじみの枠を越えられないなら、千尋にはこれ以上あたしに期待させないでほしい。
「……綾那」
切なげに頭上で響く声に、千尋の顔を見上げる。
でも、あたしの視界に、苦しげに顔を歪めた千尋の顔が映ったのは一瞬。先程まで千尋の顔全体を映したあたしの目はググッと見開かれ、視界に映るのは、千尋の伏せられた綺麗な目元だった。
ごめん、と言おうとした唇は、千尋のそれと重なっていた。
「……んんっ」
ちょっと、何であたし、千尋とキスしてるの……!?
あたしがやっとの思いで千尋を押し返すと、千尋はそっと唇を離した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる