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「幼なじみとあたしの境界線」

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 ボールが弾む音に、キュッキュッと響くバスケットシューズの音。

 立ちこめる熱気に、弾ける汗。

 スリーポイントのラインにいた、長身の男子がボールを構えたとき、体育館内に緊張が走る。

 しかし、それは一瞬、男子生徒の手から放たれたボールは、綺麗な弧を描いてバスケットゴールに吸い込まれた。

 それと同時に、試合終了を告げるホイッスルが響く。


「きゃあぁあ!! 千尋くーんっ!!」

 途端に激しさを増す黄色い歓声に、会場内が包まれる。


「千尋! ナイスシュート!!」

「おう!」

 チームメンバーとハイタッチを交わすゴールを決めた彼は、あたしの高校のバスケ部の二年生エース、高岡たかおか 千尋ちひろ。あたしの幼なじみだ。


「お疲れさま」

 コートから出てきた千尋たちに声をかけると、千尋はあたしが持っていたタオルをひょいと手に取った。


「おう! いつもありがとな!」

 千尋は、幼稚園の頃からずっと一緒だった。

 小学生のときに体育でバスケを知って、バスケを好きになった千尋は、中学生に上がると同時にバスケ部に入った。

 いつも千尋のバスケを傍で見ていたあたしは、何のためらいもなく中学生のときは男子バスケ部にマネージャーとして入部した。

 そして、同じ高校に進学したあたしと千尋は高校でも同じ部に入り、今に至る。


「あいつ、誰?」

「え、知らないの? 男バスのマネージャー二年の上坂かみさか 綾那あやなだよ。千尋くんとは、ただの幼なじみらしいよ」

「なんだ、良かった。あんな子が彼女なわけないよねー」

 どこからともなく聞こえてきたギャラリーの千尋ファンの女の子の言葉に、チクリと胸が痛む。

 バスケ部エースの肩書きに、綺麗に整った顔。年々どんどんかっこ良さを増していく千尋を、そこらの女子が放っておくわけがなかった。

 千尋ファンの女の子は増えていく一方。


 そして、あたしも例外なく、いつの間にか千尋にドキドキするようになっていた。

 ──あたしの中にある、千尋への秘めた恋心。

 あたしは、きっとこの気持ちを千尋に打ち明けることなんて、ないんだと思う。

 バスケに一生懸命な千尋の邪魔はしたくないし、何より、今の関係を壊したくないから。

 だから、マネージャーとしてバスケをする千尋の姿を傍で見て、支えていけるだけで充分だと、いつも自分に言い聞かせてた。

 バスケをしている千尋が、大好きだから。


 ぼんやりと千尋が部室の方へ歩いていく姿を見ながら、あたしはバスケットボールの入ったカゴを片付けに体育館倉庫に入る。

 体育館倉庫に入って、カゴを固定したとき、不意に後ろから誰かに抱き着かれた。


「綾那ちゃーん」

「きゃっ!!」

 あたしはパッとその誰かから離れて、声の主を見上げる。


新庄しんじょうくん! だからいつも抱き着かないでって、言ってるでしょ!?」

「やーん。綾那ちゃんの意地悪~」

 語尾を伸ばしながら駄々をこねるのは、あたしと千尋と同じクラス件バスケ部員の新庄くん。


「だって綾那ちゃん、また高岡のこと見てたじゃん」

 耳元で囁かれた言葉に、ギクリと身が強張る。

 新庄くんは、あたしが千尋のことを好きだと知っててちょっかいを出してくるから、余計にタチが悪い。


「別に、見てないし!」

「ふーん」

 そう言って、新庄くんはあたしに近づいてくる。

 この顔、絶対あたしの今の言葉を信じてないし……。

 あたしが思わず一歩あとずさったときだった。


「こーら。新庄、綾那が嫌がってんだろ?」

 ふわりと頭上に乗せられた手に、あたしは軽く身体を後ろに引かれる。

 大きな手の持ち主を見上げて、思わず目を見開いた。


「千尋っ!?」

 あれ? さっき、部室の方へ歩いて行ってたよね?

 すると、新庄くんはチッと小さく舌打ちして、体育館倉庫を出て行った。


 薄暗い体育館倉庫に残されたあたしと千尋。

 あたしが千尋にお礼を言おうとしたところで、千尋の怒声が飛んだ。


「俺が気づいて駆け付けたから良かったものの、お前、簡単にあいつに抱き着かれてるんじゃねーよ!」

「な……っ、あたしだって好きで新庄くんに抱き着かれたんじゃないし!」

 助けてくれたのは素直に嬉しいけど、何もそんな言い方しなくたっていいじゃない……。


「お前の場合、毎回だから言ってんだよ。そろそろ上手くかわす努力ぐらいしろよ」

 新庄くんは何を思ってなのか、しょっちゅうあたしに抱き着いてくる。

 日に日に新庄くんの抱き着き癖は強くなってるような気がするし、あたしだって実際に迷惑してる。

 そんなに上手くかわせる方法があるなら、あたしが知りたいくらいだし……。


 千尋の言い分に納得いかなくて、千尋をキッと睨みつける。

 すると、あたしの頭に再びその大きな手が乗せられて、ポンポンと軽く叩かれた。
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