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4.思い出のアップルパイ
4ー15
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何で今日はこんな風に坂部くんは歪んだ捉え方をするのだろう。今まで見たことのないくらいの卑屈っぷりだ。
「私はそのことを責めてるわけじゃなくて、もしかしてそうなのかなって思って、聞いてみただけだから」
坂部くんの言い方だと、純血のあやかしではないことを意図的に隠していたかのように聞こえる。
自らの意思で隠していたのなら、それほどまでにあやかしと人間の子どもと言うものは、あやかしの世界では歓迎されないものなのだろう。
もしそんな環境で生きてきたのなら、坂部くんが自分に対して卑屈になったり、本来の姿を快く思えなかったりしてしまうのは自然なことだ。
坂部くんが人付き合いを根本的に拒んでいた理由は、彼の本来の姿に起因するものなのかもしれないと思った。
「……確かに私の目から見たら大きく変わらないように見えるよ、純血のあやかしであろうと、なかろうと。もちろん、私たち人間とも」
「そうか?」
自分が生まれ持った姿のせいで、卑屈になる必要なんてない。
少なくとも私は、ありのままの坂部くんのことを受け入れているのだから。
「そりゃあ、元の姿の見た目はそれぞれ違うよ。でも笑ったり泣いたり怒ったり、恋したり。みんな一緒だなって私は思う。そこで線引きするのは、何か違うなって思うの」
「……何か、綾乃らしい考え方だな。ありがとう」
ふわり、と。音で例えるとそんな柔らかな音がしそうな坂部くんの笑みが見えた。
寂しげだけど、どこか嬉しそうだ。
月明かりのせいなのか、レアな坂部くんの柔らかな笑みだからなのか、素直に目の前の彼を綺麗だと思った。
「う、うん……。だから、そんな悪く思う必要なんてないと思う。私は、本来の姿の坂部くんのことも好きだよ」
何だかまるで告白みたいになってしまって、一気に顔に熱がこもる。
「あわわわっ! いや、そんな変な意味じゃなくて、その……っ!」
暗がりの中見える坂部くんも片手で顔を覆ってはいるが、ちらりと見える頬は真っ赤に染まっているようだ。
「ごめんなさい……」
「……いや、いい。でも、嬉しいから。ありがとう……」
珍しく歯切れの悪い話し方から、坂部くんの緊張まで伝わってきて、私まで余計に恥ずかしくなる。
そうしているうちに、坂部くんがいつもの調子で口を開く。
「……ほら、着いたぞ。綾乃の家、そこだろ?」
いつの間にか家のすぐ近くまで私は帰ってきていたようだ。
「……私の家、知ってたの?」
「まぁ。っていうか、うちでバイト始めるときに書いてもらった紙に自分で記入したんじゃん」
「そうだけど……」
「ほら、もう夜も遅いんだから。これ以上、家の人を心配させないように帰れ」
坂部くんは強引にも私の背を押して、私を家のすぐ近くまで連れていく。
そして、すぐさま坂部くんは今来た道を引き返していくんだ。
そのとき見えた坂部くんの頬はやっぱりまだ赤くて、少しだけ冷静さを取り戻した私は、そんな坂部くんの姿さえ可愛いと思った。
坂部くんはこちらを振り向くことなく、片手を少し上げて手を振ってくれていた。
坂部くんが触れた背中が熱い。
人間としての坂部くんとあやかしとしての坂部くん。その二つの姿を全てひっくるめた彼自身に、やっぱり私は惹かれているのだろうか。
それに呼応するように、ドキドキと鳴る胸の鼓動が静まることはなかった。
*
それから数日が過ぎる。
開店時間直後、寄り道カフェの敷地内の落ち葉を集めていると、商店街とを結ぶ路地から元気な声が聞こえてきた。
「綾乃さんっ!」
数日ぶりに顔を見せる由梨ちゃんだ。
「由梨ちゃん! いらっしゃいませ」
ほうきを持ったままペコリとお辞儀をしていると、由梨ちゃんは私に飛び付いてくる。
「この前はありがとう。お母さんと、新しいお父さんとちゃんと話し合ったよ」
「すごい。頑張ったんだね」
とても言いづらいことだっただろうに、自分の気持ちを伝えることができただなんて、本当にすごい。
「さすがにお父さんにあやかしの話はできなかったけど、でも、お互いのプライバシーを守るための配慮とか、そういうのを話し合ったの。一緒に暮らすようになってから私が居心地悪そうにしてるの、お父さんは気づいてたみたいで……」
「そうだったんだ」
それなら、由梨ちゃんとしては今までよりずっと一緒に暮らしやすくなったということなのだろうか。
安易に良かったねと口にしていいのか迷っていると、由梨ちゃんはそんな私の様子を気に留めることなく、大きくうなずいた。
「うん、お父さんも私とちゃんと話をしないといけないって思ってたんだって」
それならもっと早く話し合ってれば良かったーと口にする由梨ちゃんの様子から、きっと由梨ちゃんの思うように話ができたのだろうと感じて、ようやく私もホッと胸を撫で下ろす。
「とりあえずそれで一緒に暮らしてみる方向で頑張ってみることにしたんだけど、それでもどうしても無理なら、家を出ても良いって言われたの」
「……え?」
思わず驚きの声をあげてしまった。
だって、由梨ちゃんはまだ小学生だというのに一人暮らしをするということだろうか。さすがにそれは早すぎるだろう。
「私はそのことを責めてるわけじゃなくて、もしかしてそうなのかなって思って、聞いてみただけだから」
坂部くんの言い方だと、純血のあやかしではないことを意図的に隠していたかのように聞こえる。
自らの意思で隠していたのなら、それほどまでにあやかしと人間の子どもと言うものは、あやかしの世界では歓迎されないものなのだろう。
もしそんな環境で生きてきたのなら、坂部くんが自分に対して卑屈になったり、本来の姿を快く思えなかったりしてしまうのは自然なことだ。
坂部くんが人付き合いを根本的に拒んでいた理由は、彼の本来の姿に起因するものなのかもしれないと思った。
「……確かに私の目から見たら大きく変わらないように見えるよ、純血のあやかしであろうと、なかろうと。もちろん、私たち人間とも」
「そうか?」
自分が生まれ持った姿のせいで、卑屈になる必要なんてない。
少なくとも私は、ありのままの坂部くんのことを受け入れているのだから。
「そりゃあ、元の姿の見た目はそれぞれ違うよ。でも笑ったり泣いたり怒ったり、恋したり。みんな一緒だなって私は思う。そこで線引きするのは、何か違うなって思うの」
「……何か、綾乃らしい考え方だな。ありがとう」
ふわり、と。音で例えるとそんな柔らかな音がしそうな坂部くんの笑みが見えた。
寂しげだけど、どこか嬉しそうだ。
月明かりのせいなのか、レアな坂部くんの柔らかな笑みだからなのか、素直に目の前の彼を綺麗だと思った。
「う、うん……。だから、そんな悪く思う必要なんてないと思う。私は、本来の姿の坂部くんのことも好きだよ」
何だかまるで告白みたいになってしまって、一気に顔に熱がこもる。
「あわわわっ! いや、そんな変な意味じゃなくて、その……っ!」
暗がりの中見える坂部くんも片手で顔を覆ってはいるが、ちらりと見える頬は真っ赤に染まっているようだ。
「ごめんなさい……」
「……いや、いい。でも、嬉しいから。ありがとう……」
珍しく歯切れの悪い話し方から、坂部くんの緊張まで伝わってきて、私まで余計に恥ずかしくなる。
そうしているうちに、坂部くんがいつもの調子で口を開く。
「……ほら、着いたぞ。綾乃の家、そこだろ?」
いつの間にか家のすぐ近くまで私は帰ってきていたようだ。
「……私の家、知ってたの?」
「まぁ。っていうか、うちでバイト始めるときに書いてもらった紙に自分で記入したんじゃん」
「そうだけど……」
「ほら、もう夜も遅いんだから。これ以上、家の人を心配させないように帰れ」
坂部くんは強引にも私の背を押して、私を家のすぐ近くまで連れていく。
そして、すぐさま坂部くんは今来た道を引き返していくんだ。
そのとき見えた坂部くんの頬はやっぱりまだ赤くて、少しだけ冷静さを取り戻した私は、そんな坂部くんの姿さえ可愛いと思った。
坂部くんはこちらを振り向くことなく、片手を少し上げて手を振ってくれていた。
坂部くんが触れた背中が熱い。
人間としての坂部くんとあやかしとしての坂部くん。その二つの姿を全てひっくるめた彼自身に、やっぱり私は惹かれているのだろうか。
それに呼応するように、ドキドキと鳴る胸の鼓動が静まることはなかった。
*
それから数日が過ぎる。
開店時間直後、寄り道カフェの敷地内の落ち葉を集めていると、商店街とを結ぶ路地から元気な声が聞こえてきた。
「綾乃さんっ!」
数日ぶりに顔を見せる由梨ちゃんだ。
「由梨ちゃん! いらっしゃいませ」
ほうきを持ったままペコリとお辞儀をしていると、由梨ちゃんは私に飛び付いてくる。
「この前はありがとう。お母さんと、新しいお父さんとちゃんと話し合ったよ」
「すごい。頑張ったんだね」
とても言いづらいことだっただろうに、自分の気持ちを伝えることができただなんて、本当にすごい。
「さすがにお父さんにあやかしの話はできなかったけど、でも、お互いのプライバシーを守るための配慮とか、そういうのを話し合ったの。一緒に暮らすようになってから私が居心地悪そうにしてるの、お父さんは気づいてたみたいで……」
「そうだったんだ」
それなら、由梨ちゃんとしては今までよりずっと一緒に暮らしやすくなったということなのだろうか。
安易に良かったねと口にしていいのか迷っていると、由梨ちゃんはそんな私の様子を気に留めることなく、大きくうなずいた。
「うん、お父さんも私とちゃんと話をしないといけないって思ってたんだって」
それならもっと早く話し合ってれば良かったーと口にする由梨ちゃんの様子から、きっと由梨ちゃんの思うように話ができたのだろうと感じて、ようやく私もホッと胸を撫で下ろす。
「とりあえずそれで一緒に暮らしてみる方向で頑張ってみることにしたんだけど、それでもどうしても無理なら、家を出ても良いって言われたの」
「……え?」
思わず驚きの声をあげてしまった。
だって、由梨ちゃんはまだ小学生だというのに一人暮らしをするということだろうか。さすがにそれは早すぎるだろう。
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