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4.思い出のアップルパイ
4ー11
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「前みたいに、時々会うくらいがちょうどよかったのにな~。家じゃくつろげないし、ずっとココで暮らした~い」
寄り道カフェには、人間のお客さんも出入りする。
だから決してココに来たからと言って、元の姿でくつろげるわけではないのにそんことを口にする由梨ちゃんは、きっと見た目以上に新しいお父さんのことで思い詰めているのだろう。
「さすがにそこまではできないけど、いつでも遊びに来てくれていいからね」
「はーい。そうだ、宿題のここの問題わからないんだった。綾乃さん、教えてよ」
「えぇっ!? 私にわかるかな……」
いつもこんな感じに由梨ちゃんの根本的な問題を解決することができるわけではないけれど、私は一人の店員として由梨ちゃんを寄り道カフェで迎え入れ、由梨ちゃんが望むときは話し相手になった。
それくらいのことしかできないけれど、坂部くんが言っていたように、少しでも由梨ちゃんにとって居心地の良い場所を提供していきたい。
そうしているうちに十二月になり、商店街はすっかりクリスマス一色に染まる。
学校では先日期末テストが行われたが、バイトを始めたことで成績が下がったと言われてしまわないように、必死に勉強した。
結果、特別成績がよかったわけではないが、以前の成績より少し上がっていて、母親にはものすごく驚かれたのはつい昨日の話だ。
部活もバイトも自分にはできないと思って何もやってなかったときの方が、絶対に勉強する時間はたくさん取れていたはずなのだから、それも無理ないだろう。
そんなある日のことだった、毎日のように顔を見せていた由梨ちゃんがお店に見えなかったのは。
「今日は由梨ちゃん、お見えになりませんでしたね」
閉店後、私がお店の入り口のシャッターを閉めたところで、レジを閉めていたミーコさんが心配そうに口にした。
「そうですね」
今日はなかなか来ないなとは思っていたけれど、結局由梨ちゃんは閉店までお店に来ることはなかった。
最近、由梨ちゃんの中でここに来るのが日課になっているようだったため、私もミーコさんも、厨房にいる坂部くんも、今日も由梨ちゃんは来るものだとばかり思っていた。
もしかしたら、何か用事があったのかもしれない。
この寒い季節、体調を崩してしまったのかもしれない。
こればっかりは全くもってわからないので、心配になるのも当然だ。
「何もなければいいのですが……」
「そうですね。もしかしたら今日は都合が悪かったのかもしれないし、また由梨ちゃんはミーコさんに会いに来てくれると思います」
「……綾乃さん、ありがとうございます」
ミーコさんと由梨ちゃんは、まるで歳の離れた本当の姉妹のように見えるときがある。そのくらいお互いに慕い、信頼している間柄なのだろう。
きっと今日の由梨ちゃんは何らかの事情で来られなかったのだと思いたい。
けれど、それからというもの、毎日のように来ていた由梨ちゃんは、ぱったりと来なくなった。
ミーコさんも直接由梨ちゃんの連絡先を知っているわけではないらしく、理由はわからないままだ。
もしかして新しいお父さんのことで、何かあったのだろうか。
一週間が経ったこの日も、閉店まで由梨ちゃんの姿は見えなかった。
私は閉店の十九時半を過ぎたところで寄り道カフェを出る。
細い路地を抜けて明るい商店街のにぎやかな空間に出たとき、ちょうどスーパーから小学生くらいの女の子が出てきた。
「……っえ、由梨ちゃん!?」
何気なく由梨ちゃんに似ているなと思って見ていたが、不意にこちらを振り返った拍子に見えたのは、ここ何日も様子がわからなかった由梨ちゃんだ。
「綾乃さん!?」
由梨ちゃんは、表情を輝かせてこちらに走ってくる。
「どうしたの? もう結構夜遅いけど、一人で買い物?」
「……そんなところです」
今さっき見た表情は気のせいだったのか、一瞬にして由梨ちゃんの表情がくもる。
「何かあった?」
「……え?」
由梨ちゃんにはその自覚はなかったのだろう。
私の言葉に不思議そうに首をかしげる。
「あ、由梨ちゃん、毎日のように来ていたのに突然来なくなったから、心配してたんだよね」
「ごめんなさい。その、新しいお父さんが出張だったから……。本当は明日まで出張だったんだけど、突然今日までになって、帰ってきちゃったの」
「そうだったんだ。もしかして、それで買い物に?」
「……うん。二人分しか材料用意してなかったから……」
寄り道カフェには、人間のお客さんも出入りする。
だから決してココに来たからと言って、元の姿でくつろげるわけではないのにそんことを口にする由梨ちゃんは、きっと見た目以上に新しいお父さんのことで思い詰めているのだろう。
「さすがにそこまではできないけど、いつでも遊びに来てくれていいからね」
「はーい。そうだ、宿題のここの問題わからないんだった。綾乃さん、教えてよ」
「えぇっ!? 私にわかるかな……」
いつもこんな感じに由梨ちゃんの根本的な問題を解決することができるわけではないけれど、私は一人の店員として由梨ちゃんを寄り道カフェで迎え入れ、由梨ちゃんが望むときは話し相手になった。
それくらいのことしかできないけれど、坂部くんが言っていたように、少しでも由梨ちゃんにとって居心地の良い場所を提供していきたい。
そうしているうちに十二月になり、商店街はすっかりクリスマス一色に染まる。
学校では先日期末テストが行われたが、バイトを始めたことで成績が下がったと言われてしまわないように、必死に勉強した。
結果、特別成績がよかったわけではないが、以前の成績より少し上がっていて、母親にはものすごく驚かれたのはつい昨日の話だ。
部活もバイトも自分にはできないと思って何もやってなかったときの方が、絶対に勉強する時間はたくさん取れていたはずなのだから、それも無理ないだろう。
そんなある日のことだった、毎日のように顔を見せていた由梨ちゃんがお店に見えなかったのは。
「今日は由梨ちゃん、お見えになりませんでしたね」
閉店後、私がお店の入り口のシャッターを閉めたところで、レジを閉めていたミーコさんが心配そうに口にした。
「そうですね」
今日はなかなか来ないなとは思っていたけれど、結局由梨ちゃんは閉店までお店に来ることはなかった。
最近、由梨ちゃんの中でここに来るのが日課になっているようだったため、私もミーコさんも、厨房にいる坂部くんも、今日も由梨ちゃんは来るものだとばかり思っていた。
もしかしたら、何か用事があったのかもしれない。
この寒い季節、体調を崩してしまったのかもしれない。
こればっかりは全くもってわからないので、心配になるのも当然だ。
「何もなければいいのですが……」
「そうですね。もしかしたら今日は都合が悪かったのかもしれないし、また由梨ちゃんはミーコさんに会いに来てくれると思います」
「……綾乃さん、ありがとうございます」
ミーコさんと由梨ちゃんは、まるで歳の離れた本当の姉妹のように見えるときがある。そのくらいお互いに慕い、信頼している間柄なのだろう。
きっと今日の由梨ちゃんは何らかの事情で来られなかったのだと思いたい。
けれど、それからというもの、毎日のように来ていた由梨ちゃんは、ぱったりと来なくなった。
ミーコさんも直接由梨ちゃんの連絡先を知っているわけではないらしく、理由はわからないままだ。
もしかして新しいお父さんのことで、何かあったのだろうか。
一週間が経ったこの日も、閉店まで由梨ちゃんの姿は見えなかった。
私は閉店の十九時半を過ぎたところで寄り道カフェを出る。
細い路地を抜けて明るい商店街のにぎやかな空間に出たとき、ちょうどスーパーから小学生くらいの女の子が出てきた。
「……っえ、由梨ちゃん!?」
何気なく由梨ちゃんに似ているなと思って見ていたが、不意にこちらを振り返った拍子に見えたのは、ここ何日も様子がわからなかった由梨ちゃんだ。
「綾乃さん!?」
由梨ちゃんは、表情を輝かせてこちらに走ってくる。
「どうしたの? もう結構夜遅いけど、一人で買い物?」
「……そんなところです」
今さっき見た表情は気のせいだったのか、一瞬にして由梨ちゃんの表情がくもる。
「何かあった?」
「……え?」
由梨ちゃんにはその自覚はなかったのだろう。
私の言葉に不思議そうに首をかしげる。
「あ、由梨ちゃん、毎日のように来ていたのに突然来なくなったから、心配してたんだよね」
「ごめんなさい。その、新しいお父さんが出張だったから……。本当は明日まで出張だったんだけど、突然今日までになって、帰ってきちゃったの」
「そうだったんだ。もしかして、それで買い物に?」
「……うん。二人分しか材料用意してなかったから……」
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