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7.バースデープレゼント
7ー7
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『僕は花穂が好きです。こんな僕と付き合ってもらえて、花穂には本当に感謝してもしきれません。前に花穂が言ってたよね。僕が、花穂のどんなところが好きなのか知りたいって』
兄ちゃんの、花穂の好きなところ……。
聞きたいような聞きたくないような、僕の気持ちは複雑だ。
『僕は、もちろん花穂のことは見た目も可愛いと思うし好きだけど、何より、花穂の明るくて前向きなところが好きです』
僕の隣に座る花穂の肩が揺れるのが視界の隅で見えた。
見ると、驚いたようにスクリーンを見つめる花穂の目は見開かれている。
『どんなに辛いときでも弱音ひとつ吐かずに笑っている花穂を見ていると、僕も頑張ろうって思えるんだよね』
花穂は今、どんな気持ちでスクリーンを見ているのだろう。
確かに記憶を失う前の花穂は、本当に頼れるお姉さん的な存在で、それこそ兄ちゃんの言うように弱音を吐いているところを見たことがなかった。
記憶をなくしてからも、取り乱していない状態では、そんな一面があった。
不安そうにしていることはあっても、それを花穂の言葉で聞いたことはない。
『そんな花穂だから、心配になるときがある。何か花穂の限界を越えてしまうくらいに辛いことがあったときに、花穂が壊れてしまうんじゃないかって。花穂はそんなことないって笑い飛ばすかもしれないけど、絶対大丈夫なんて保証はないだろ?』
まるで今の僕たちの状況が見えているかのような兄ちゃんの発言に、内心ドキリとする。
『花穂には僕がいる。だから、ヤバそうだなって思ったときは、極力僕は花穂のそばにいるようにしてるつもりです。だけど、もしも僕に何かあってそばに居られないとき、それが心配です』
まるで自分がいなくなってしまったあとの花穂を案じる姿が、今の僕たちを案じる姿に重なって、驚きを覚えた。
『辛い気持ちも悲しい気持ちも、ひとりで抱え込まないで。花穂には僕以外にも、将太もおじさんやおばさん、僕の両親だって花穂のことを心配している人はたくさんいるのだから』
僕が花穂に言ったことと同じことだ。
まさか兄ちゃんも同じことを花穂に思うなんて、やっぱり僕は出来損ないとはいえ、兄ちゃんと血の繋がる兄弟なんだなと感じさせられる。
『人はひとりで生きていけないから。だから、僕に何かあって花穂が辛くてもそばに居られないときは、誰か他の人にSOSを出すことも覚えてね。花穂には、幸せになってほしいから』
花穂の頬に涙が伝う。
花穂は、今、何を思っているのだろう。
『って、誕生日なのに堅苦しくなってごめんね。でも、これから先何が起こるかわからないわけだし、せっかくの機会に話させてもらいました。そうは言っても、僕だってまだまだ花穂の隣に居るつもりだから。これからもよろしくね、花穂』
兄ちゃんは困ったように笑いながら、最後を締めくくった。
兄ちゃん……。
決してこれを撮影したときに、兄ちゃんはこんな未来を想像できていたわけではないのに、今の花穂に必要なことを的確に話してくれていたように感じる。
もうスクリーンに何も映し出されていないのに、花穂は白いスクリーンを見つめたままだ。
「……花穂」
僕が席を立って、使っていない綺麗な白いハンドタオルを花穂に差し出すと、花穂はびくりと肩を跳ねさせる。
驚かせちゃったかな、と思った。
花穂が兄ちゃんからのビデオレターの余韻に浸っていたのなら余計に。
「……え?」
だけど、まるで信じられないようなものを見るような瞳で僕を見る花穂から、花穂の中で何かが起こっていることを悟った。
「花穂?」
僕はそんな花穂のそばに膝を折り、花穂と目線を合わせるようにしゃがむ。
だけど、やっぱり向けられているのは懐疑の瞳のように感じる。
「何で、リョウちゃんがいるの……?」
まさか、とは思ったが、花穂の口から紡ぎ出される言葉にそれは間違いではないようだ。
この花穂の反応、水族館や海辺で見たときと同じ。いや、それ以上だ。
兄ちゃんの、花穂の好きなところ……。
聞きたいような聞きたくないような、僕の気持ちは複雑だ。
『僕は、もちろん花穂のことは見た目も可愛いと思うし好きだけど、何より、花穂の明るくて前向きなところが好きです』
僕の隣に座る花穂の肩が揺れるのが視界の隅で見えた。
見ると、驚いたようにスクリーンを見つめる花穂の目は見開かれている。
『どんなに辛いときでも弱音ひとつ吐かずに笑っている花穂を見ていると、僕も頑張ろうって思えるんだよね』
花穂は今、どんな気持ちでスクリーンを見ているのだろう。
確かに記憶を失う前の花穂は、本当に頼れるお姉さん的な存在で、それこそ兄ちゃんの言うように弱音を吐いているところを見たことがなかった。
記憶をなくしてからも、取り乱していない状態では、そんな一面があった。
不安そうにしていることはあっても、それを花穂の言葉で聞いたことはない。
『そんな花穂だから、心配になるときがある。何か花穂の限界を越えてしまうくらいに辛いことがあったときに、花穂が壊れてしまうんじゃないかって。花穂はそんなことないって笑い飛ばすかもしれないけど、絶対大丈夫なんて保証はないだろ?』
まるで今の僕たちの状況が見えているかのような兄ちゃんの発言に、内心ドキリとする。
『花穂には僕がいる。だから、ヤバそうだなって思ったときは、極力僕は花穂のそばにいるようにしてるつもりです。だけど、もしも僕に何かあってそばに居られないとき、それが心配です』
まるで自分がいなくなってしまったあとの花穂を案じる姿が、今の僕たちを案じる姿に重なって、驚きを覚えた。
『辛い気持ちも悲しい気持ちも、ひとりで抱え込まないで。花穂には僕以外にも、将太もおじさんやおばさん、僕の両親だって花穂のことを心配している人はたくさんいるのだから』
僕が花穂に言ったことと同じことだ。
まさか兄ちゃんも同じことを花穂に思うなんて、やっぱり僕は出来損ないとはいえ、兄ちゃんと血の繋がる兄弟なんだなと感じさせられる。
『人はひとりで生きていけないから。だから、僕に何かあって花穂が辛くてもそばに居られないときは、誰か他の人にSOSを出すことも覚えてね。花穂には、幸せになってほしいから』
花穂の頬に涙が伝う。
花穂は、今、何を思っているのだろう。
『って、誕生日なのに堅苦しくなってごめんね。でも、これから先何が起こるかわからないわけだし、せっかくの機会に話させてもらいました。そうは言っても、僕だってまだまだ花穂の隣に居るつもりだから。これからもよろしくね、花穂』
兄ちゃんは困ったように笑いながら、最後を締めくくった。
兄ちゃん……。
決してこれを撮影したときに、兄ちゃんはこんな未来を想像できていたわけではないのに、今の花穂に必要なことを的確に話してくれていたように感じる。
もうスクリーンに何も映し出されていないのに、花穂は白いスクリーンを見つめたままだ。
「……花穂」
僕が席を立って、使っていない綺麗な白いハンドタオルを花穂に差し出すと、花穂はびくりと肩を跳ねさせる。
驚かせちゃったかな、と思った。
花穂が兄ちゃんからのビデオレターの余韻に浸っていたのなら余計に。
「……え?」
だけど、まるで信じられないようなものを見るような瞳で僕を見る花穂から、花穂の中で何かが起こっていることを悟った。
「花穂?」
僕はそんな花穂のそばに膝を折り、花穂と目線を合わせるようにしゃがむ。
だけど、やっぱり向けられているのは懐疑の瞳のように感じる。
「何で、リョウちゃんがいるの……?」
まさか、とは思ったが、花穂の口から紡ぎ出される言葉にそれは間違いではないようだ。
この花穂の反応、水族館や海辺で見たときと同じ。いや、それ以上だ。
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