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4.思い出しては、また消えて

4ー2

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 そうは言われても心配は拭いきれない。だけど花穂自身も大丈夫と言っているから、僕たちは合宿参加を続行させてもらうことにしたのだ。

 倒れた花穂は、バーベキューを始めた頃からの記憶は一切残ってないようだったから、あのとき、花穂が何を考えていたのか知る術はない。

 だけど、タイミングがタイミングだっただけに、過去を再現してみたことによる影響なのかと想像してしまう。


「何だよ、黙りこんで。そういや、昨夜は見せつけてくれたなー。高原のど真ん中で抱き合ってさー」

「あ、あれは……っ!」

「何だよ、事実だろ」


 そう言われると、何も言い返せない。

 でも、バーベキューのときに花穂の中で何が起こったのかわからないけど、あのときを境に花穂の様子が変わったのは確かだ。

 まるで花穂の言う“リョウちゃん”が儚く消えてしまう存在であるかのように、切羽詰まったように僕に訴えかけて来た花穂を思い返す。


 それだけじゃない。

 さそり座の説明をしたとき、何気なく本当のこと──僕自身がさそり座であることを言ってしまったが、花穂は僕が春生まれのイメージだと言ってきた。

 一見何の問題もないように見える会話だが、あろうことか、兄ちゃんは春生まれだ。

 偶然なのか、花穂が何かを感じて言った言葉なのか、真相はわからない。

 昨日のことに思いを馳せてあれこれ考える僕を見てなのか、園田先輩が小さくため息を吐き出した。


「こっちは協力しようと全力なのにさ、お前らは揃って秘密主義なんだな」

「え……?」


 見ると、園田先輩からはさっきのような茶化すような空気は全くもって感じられない。


「あいつ……涼太もさ、自分で抱え込むタイプだったからさ」

 言われてみたら、少なくとも兄ちゃんはそういう人だったかもしれない。


「まぁあいつの場合器用だったからさ、それだけのキャパや能力もあったし、それでも何とかなったんだと思う。だけど、お前は違うだろ?」

「う……っ」


 自分で自覚はしていたけれど、こう他人に指摘されると、どれだけ自分が兄ちゃんより劣っているかを示されているみたいで辛い。


「このままじゃお前、潰れるぞ? こっちは与えられる情報は全て隠さずに打ち明けている。少なくとも俺は、涼太のためにも協力したいと思ってる。どうしたら俺は、お前に信用してもらえるんだよ」


 園田先輩や天文学部は、今回の件で充分過ぎるくらい僕たちにしてくれているのに、これ以上頼るなんてとも思う。

 だけど、怖いくらいに真剣で真っ直ぐな瞳は、きっとそんな僕の遠慮なんて気にしていないのだろう。

 それに僕自身、これからどうしていいか、どう考えるのが正解なのか、僕一人でこたえを出すことに限界を感じていた。

 だから僕は、昨日花穂が倒れたときに、倒れる直前の記憶が花穂の中から消えてしまっていることとその原因についての憶測を話すことにした。


「……で、それで将太は怖くなったの?」

 園田先輩は最初こそ驚きと戸惑いの入り交じったような表情で聞いてくれていたが、全て聞き終わった後の彼は違った。

 じっと見つめてくる二つの瞳に責められているような気にさえなる。


「そういうのじゃなくて……。もしかしたら過去を思い出すことは、花穂にとってそのときの記憶を消して倒れてしまうくらいに残酷なのかなとか考えちゃって……」

「でもさ、それって結局は将太の憶測なんだろ?」

「まぁ、そうなんですけど……」


 小声でボソボソと話を交わす僕たちの少し前には、別々で行動していたはずのもうひとつの天文学部のグループと合流したことで、天文学部の女性部員と楽しそうに会話を交わす花穂の姿が見える。

 偶然にもそのおかげで園田先輩と余裕をもって話ができるのだからありがたい。
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