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2.嘘つきな僕と初恋の思い出
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最初こそ僕が弟の方だとバレないか心配だった。だけど最初に先生が僕に対して感じた違和感を時の流れのせいにしてしまえば、そのあとは何も聞かれることはなかった。
実際、兄ちゃんと同じ格好をしてしまえば、僕と兄ちゃんの見た目に大きく差異がないからなのだろう。
幸いにも兄ちゃんが小六のとき、花穂とはクラスが違ったために、あまり突っ込んだことを花穂に聞いてこないことには助かった。
「お前らの学年ってあれだよな、みんな揃って南町にある廃墟に行くのが流行ってたよな」
兄ちゃんたちが小学六年生だった頃から、もう五年も経つのに、その当時のことをパッと思い出すのだからすごい。
「あ、ありましたね。僕も行きました」
その当時、幽霊屋敷として知られていた南町の廃墟に度胸試しとして行く子が多かった。
あの頃、純粋に花穂に恋をしてた僕は、花穂にかっこいいと言ってもらえると思って、夕暮れ時に一人で行って帰って来ようとしたんだ。
幽霊屋敷の中はところどころ崩れていた上に、当然照明もない屋内は薄暗かった。
勇敢に幽霊屋敷の中に忍び込んだところまでは良かった。しかし日没が近づくにつれ、ただでさえ薄暗かった屋内はさらに暗くなり、僕は怖くて外に出られなくなってしまったんだ。
背筋をなぞる冷たいすきま風の感触は、今でも鮮明に思い出せる。
また、風がすり抜ける音が、まるで僕によからぬことを語りかけてきているように思えた。
完全に腰を抜かして動けなくなってしまった僕は、これ以上にない絶望を感じた。
心細くて、暗闇に包まれたその場に座り込むことしかできなくて、もう一生ここから出られないんじゃないかって思ったとき。
『将太!』
どこからともなく、僕を呼ぶ声が聞こえたんだ。
……この声っ!
もう立ち上がれないと思っていたけれど、何とか腰を上げて周囲を見回す。
すると、一瞬にして僕は眩い光に照らされたのだ。
『将太! 良かった……!』
家にあった懐中電灯を持って、僕を探しに来てくれたのは、兄ちゃんだった。
どうやら、兄ちゃんの友達に僕が廃墟の中に入って行くところを見たという人がいたらしい。
ひとつしか歳が違わないのに、どうして兄ちゃんはこんなに勇敢なのだろう。
似ているのは見た目だけで、僕はどんなに頑張っても兄ちゃんに敵わないんだって思った。
そう強く思うようになったのは、きっとこのときからだ。
懐かしい日のことを思い返していると、教室内を見て回っていた花穂が僕たちのそばまで戻って来ていた。
「何の話?」
「ああ、僕らが小学生の頃、南町の廃墟に行くのが流行ってたって話」
「廃墟?」
記憶がなくなってしまって、今の花穂は南町の廃墟のことすらピンとこないのだろう。
まぁ僕が廃墟で腰を抜かしていたことは、兄ちゃんが花穂に上手いこと黙っててくれたから、どのみち花穂には知られてないのだが。
「梶原さんは大人しそうだし、あまり当時も廃墟に興味がなかったのかな?」
「……ええ、そうだと思います」
花穂の真面目そうな雰囲気のおかげもあり、先生と花穂も上手いこと会話を繋いでくれた。
良かった……。
自分の正体を偽っているから下手に話すとボロが出そうで、先生には花穂が記憶喪失であることは話していない。
花穂と兄ちゃんは小学六年生のときクラスが離れていたし、何とかそこはごまかせると踏んでいたから。
僕と先生と歩きながら、あちこち校舎内を見回す花穂は、何か思い出せただろうか?
僕のことはいいから、せめて兄ちゃんのことくらいは何か思い出してほしい。けれど、やっぱり花穂の表情はまるで初めて来た場所を興味深く見るもののようで、聞くことさえためらわれた。
最初こそ廃墟の話を振ってきた先生は、さすがに五年も前のことばかり思い起こせるわけもなく、今の生徒について語っている。
それを適当に聞き流していたところで、突然地雷を踏まれた。
「──そういやさ、弟くんは元気にしてる?」
実際、兄ちゃんと同じ格好をしてしまえば、僕と兄ちゃんの見た目に大きく差異がないからなのだろう。
幸いにも兄ちゃんが小六のとき、花穂とはクラスが違ったために、あまり突っ込んだことを花穂に聞いてこないことには助かった。
「お前らの学年ってあれだよな、みんな揃って南町にある廃墟に行くのが流行ってたよな」
兄ちゃんたちが小学六年生だった頃から、もう五年も経つのに、その当時のことをパッと思い出すのだからすごい。
「あ、ありましたね。僕も行きました」
その当時、幽霊屋敷として知られていた南町の廃墟に度胸試しとして行く子が多かった。
あの頃、純粋に花穂に恋をしてた僕は、花穂にかっこいいと言ってもらえると思って、夕暮れ時に一人で行って帰って来ようとしたんだ。
幽霊屋敷の中はところどころ崩れていた上に、当然照明もない屋内は薄暗かった。
勇敢に幽霊屋敷の中に忍び込んだところまでは良かった。しかし日没が近づくにつれ、ただでさえ薄暗かった屋内はさらに暗くなり、僕は怖くて外に出られなくなってしまったんだ。
背筋をなぞる冷たいすきま風の感触は、今でも鮮明に思い出せる。
また、風がすり抜ける音が、まるで僕によからぬことを語りかけてきているように思えた。
完全に腰を抜かして動けなくなってしまった僕は、これ以上にない絶望を感じた。
心細くて、暗闇に包まれたその場に座り込むことしかできなくて、もう一生ここから出られないんじゃないかって思ったとき。
『将太!』
どこからともなく、僕を呼ぶ声が聞こえたんだ。
……この声っ!
もう立ち上がれないと思っていたけれど、何とか腰を上げて周囲を見回す。
すると、一瞬にして僕は眩い光に照らされたのだ。
『将太! 良かった……!』
家にあった懐中電灯を持って、僕を探しに来てくれたのは、兄ちゃんだった。
どうやら、兄ちゃんの友達に僕が廃墟の中に入って行くところを見たという人がいたらしい。
ひとつしか歳が違わないのに、どうして兄ちゃんはこんなに勇敢なのだろう。
似ているのは見た目だけで、僕はどんなに頑張っても兄ちゃんに敵わないんだって思った。
そう強く思うようになったのは、きっとこのときからだ。
懐かしい日のことを思い返していると、教室内を見て回っていた花穂が僕たちのそばまで戻って来ていた。
「何の話?」
「ああ、僕らが小学生の頃、南町の廃墟に行くのが流行ってたって話」
「廃墟?」
記憶がなくなってしまって、今の花穂は南町の廃墟のことすらピンとこないのだろう。
まぁ僕が廃墟で腰を抜かしていたことは、兄ちゃんが花穂に上手いこと黙っててくれたから、どのみち花穂には知られてないのだが。
「梶原さんは大人しそうだし、あまり当時も廃墟に興味がなかったのかな?」
「……ええ、そうだと思います」
花穂の真面目そうな雰囲気のおかげもあり、先生と花穂も上手いこと会話を繋いでくれた。
良かった……。
自分の正体を偽っているから下手に話すとボロが出そうで、先生には花穂が記憶喪失であることは話していない。
花穂と兄ちゃんは小学六年生のときクラスが離れていたし、何とかそこはごまかせると踏んでいたから。
僕と先生と歩きながら、あちこち校舎内を見回す花穂は、何か思い出せただろうか?
僕のことはいいから、せめて兄ちゃんのことくらいは何か思い出してほしい。けれど、やっぱり花穂の表情はまるで初めて来た場所を興味深く見るもののようで、聞くことさえためらわれた。
最初こそ廃墟の話を振ってきた先生は、さすがに五年も前のことばかり思い起こせるわけもなく、今の生徒について語っている。
それを適当に聞き流していたところで、突然地雷を踏まれた。
「──そういやさ、弟くんは元気にしてる?」
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