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*第4章*

最初の告白(1)

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 青く広がる澄んだ空。

 そして、目の前に広がる、穏やかな波音を奏でる海。


 夏休みに入って十日ほどが過ぎた、八月初めの今日。

 あたしたち生徒会は、笹倉先輩の別荘に来ています!

 正確には、笹倉先輩のおじいさんの所有する別荘らしい。

 この日のために、夏休みに入って最初の十日で夏休みの宿題を終わらせたんだ。


「やっぱり海はいいね! 何ていうか、開放的な気分になる!」

「本当。清々しい気持ちにさせてくれるよね」

 海辺で気持ち良く伸びをするあたしに、結衣が答えてくれる。

 今回の合宿は、結衣も一緒に来てもらったんだ。

 生徒会の皆さんに何かされるとか思ってないけど、やっぱり女子一人は心細いし……。


「一緒に来てもらっちゃったけど、サッカー部の方は大丈夫だったの?」

「サッカー部は、妹尾先輩のおかげでマネージャー過剰だから平気だよ」

 さすが、妹尾先輩効果。

 助っ人ってだけで、マネージャー志願の女子が増えるんだから、本当にすごい。


「優芽も、そろそろ泳ぐ?」

 目の前の海では、既に先輩たち四人が楽しそうに泳いでいた。


「うん!」

 あたしたちは水着の上に羽織っていた上着を脱いで、海の中へと砂浜を走った。


「優芽ちゃんと片桐マネの登場やん!」

 妹尾先輩の声で、先輩たちがあたしたちを見る。

 肩まで海水に浸かってるとはいえ、改めて皆さんと向かい合わせになると、水着って恥ずかしいよぉ……。


 水着は、せっかくの海なのにスクール水着なのはなあって思って、結衣と二人で選んだ。

 結衣は、大人可愛い感じのフリルのついた白いビキニ。

 美人で上品な雰囲気の結衣に、よく似合ってる。

 あたしも結衣につられて、ピンクの花柄のビキニにしたけれど……。

 結衣と比べると、あたしは水着に着られてるって感じするよ……。


「うひゃあ!! 二人とも可愛い! よく似合ってるね!」

 広瀬先輩が、太陽より眩しい笑顔でこちらに泳いで来る。


「そ、そうですか?」

「肩まで海水に浸かってますけどね」


 あたしの言葉に被さるように聞こえる、結衣の言葉。
 そう言われて、さすがの広瀬先輩も苦笑いを浮かべた。


「片桐さん、はっきり言うね。見てるこっちがスッキリするよ」

 結衣と広瀬先輩のやり取りを見て、あははと笑う笹倉先輩。

 それに、妹尾先輩もウンウンとうなずいた。


「まあ、片桐マネにナンパしても無駄ってことやな」

「はあ? ナンパなんてしてねえだろ? 社交辞令ってやつだよ! な、蓮?」

 広瀬先輩は、少し離れたところからプカプカと浮かびながらこちらを見ていた神崎先輩に言うけれど……

「は? 知るかよ、んなもん」

 神崎先輩は、面倒臭そうにそう答えるだけだった。


「この、蓮の裏切り者!」

 広瀬先輩は大袈裟に泣きまねをして、結衣はハアと大きなため息をついた。

 結衣は女子のあたしから見ても綺麗だ。男子にちやほやされることも多いみたいたけど、軽い感じに見えて嫌いらしい。

 広瀬先輩も、悪気があったわけじゃないと思うんだけどね……。

 いつもより刺々しい雰囲気の結衣に、あたしはただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 そうしていると、すぐに泣きまねを止めた広瀬先輩に、ひょいと右手を掴まれて、引き寄せられる。


「え……?」

「ちょっと付き合ってよ! 一緒に沖の方へ行こ?」

「でも、あたし、あまり泳ぐの得意じゃないです……」

 これ以上深くなると、確実に足が届かない。


「大丈夫! 俺に掴まってたらいいから!」

「きゃっ!?」

 さっきよりも強く引っ張られたかと思えば、あたしの両手は広瀬先輩の後ろから両肩を掴まされていた。


「これで大丈ー夫っ!」

「あ、あの……」

 お互いに水着で、格好が格好なだけに、余計に恥ずかしいよぉぉ~~!!

 それに、結衣は……?

 あたしからこの合宿に結衣を連れてきてるのに、結衣を一人ここに置いていくのは、やっぱり気が引ける。


「片桐さんのことは心配要らないよ。だって、ほら」

 広瀬先輩の指し示す方を向くと、妹尾先輩に何かを言ってる結衣の姿が見える。

 そして、その二人を目の前にして、困ったような笑みを浮かべる笹倉先輩の姿があった。


「いつの間に……」

 思い返してみれば、この状況だというのに結衣は何も言ってきていなかったけど、結衣は妹尾先輩と話してたんだ。

 結衣は妹尾先輩とは、サッカー部で繋がっているもんね。

 あたしが結衣たちを見てぼんやりとそんなことを考えていると、

「じゃあ、優芽ちゃん借りまーすっ!」

 と広瀬先輩はニッと笑って、あたしを背負うようにして沖へと泳ぎ出した。


 視界の隅に、どこかつまらなさそうにあたしたちを見ている、神崎先輩の姿が映った。
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