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*第3章*

おまえが悪いんだからな(1)

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【蓮Side】


「おい、優芽っ!」

 俺が呼びかけるも、グッタリと俺の腕の中に倒れ込んできた優芽。

 あまりに突然の出来事だったからだろう。

 このときは、自然とこいつの名前が口から飛び出していた。

 腕から伝わる熱に、思わず息を呑んだ。


 すごく、熱い……。


「優芽ちゃん!?」

「優芽っ!?」

 達也と結衣が、悲鳴のように優芽を呼んだ。

 琉生が優芽のそばにしゃがみ込み、額にそっと手を当てる。


「すごい熱だね。この暑さにやられたかな」

「だろうな。恐らく熱中症だろう。俺、こいつを保健室に連れてくわ」

 俺は、いわゆるお姫様抱っこの状態で優芽を持ち上げた。

 その瞬間、こちらの騒ぎに気づいたギャラリーが、キャアァアアと悲鳴を上げる。

 いちいち、うっせえよ。


「あの子、あの生徒会の子じゃない!?」

「ほんとだ。だからって、何で蓮サマにー? 生徒会ってだけで、ずるくない?」

 あー、うるせえ。


「別に普通だよねー。あの子だけ特別扱いされる意味が分からないし!?」

「あたしも今倒れたら、蓮サマにお姫様抱っこしてもらえるかな~? あ~、急にめまいが……」

 うるせえ、うるせえ。

 甲高い醜い声が、耳に障る。


「おまえらなあ、全部聞こえてんだよ。人ひとり倒れてその反応はねえだろ!?」

 さっきから耳障りなくらいに聞こえる声の方へ怒鳴りつけると、視界に映った二人組の女子がびくりと肩を震わせた。


「お、おい、蓮……っ」

 達也が困ったように、優芽を抱く俺の肩に手を添える。


「悪い。つい、イラついて。あとは頼んだ」

 俺は三人を背に、優芽を抱いたまま保健室へと急いだ。




 保健室へたどり着くも、保健の先生はいないようだった。

 ったく、こんなときに役に立たねえ……。

 幸い、保健室にある二つのベッドは空いていた。

 そのうちのひとつに、そっと優芽を横たわらせてやる。


 優芽を離そうとしたときだった。

 優芽の重たそうなまぶたが持ち上げられ、焦点の定まってない、熱っぽい瞳で見つめられる。


「ん……っ、せんぱ……ぃ」

 そう言って、俺の腕を掴んで離そうとしない優芽。

 ったく、しょうがねえ女だ。


「優芽? どうした?」

 しかし、優芽はそのまままぶたを閉じて、スーっと寝息を立てるだけだった。

 寝ぼけてんのか?

 熱も高そうだしな……。

 とりあえず俺は、救急箱から冷却シートを取り出し、優芽の額にそれを貼った。

 そして、首にかけていたフェイスタオルを蛇口で洗って。

 その湿ったタオルを、優芽の首に巻いてやった。


「ちょっとは、マシか?」

 俺の問いに、優芽は何を答えるでもなく、ただ苦しげに熱い吐息を吐き出すだけだった。

 こいつが目覚ましたら、スポーツドリンクでも飲ませてやった方がいいよな?

 そう思い、優芽のそばを離れようとしたとき、優芽の首元のタオルから離そうとした手を、ちょんと掴まれる。


「優芽……?」

 しかし、優芽は何も答えず、相変わらず眠っているようだった。

 若干潤みを増したまつげ。

 火照ったピンクに染まる頬。

 熱い吐息を吐き出す、赤く染まる唇。

 規則正しい呼吸音。

 そして、俺の手を握る、小さな熱い手の平。


 優芽の様子を間近で見ていた俺は、気づいたときには……。

 まるで吸い込まれるかのように、優芽の唇に自分の唇を重ねていた。
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