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*第3章*

炎天下のハプニング!?(3)

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「やっぱりすっごい人~」

 炎天下のグラウンドに太陽の光が反射して、思わず目を細める。

 グラウンドには、すでに妹尾先輩の試合を見ようと集まった生徒たちで溢れていた。

 球技大会は基本的には所属している部と同じスポーツには参加できないことになっている。

 妹尾先輩の場合、サッカー部に正式な部員ではなく、助っ人として参加しているから、球技大会でサッカーの試合に出るのには、ルール上何の問題もないんだ。

 ギャラリーには、その妹尾先輩のサッカーを見ようと集まったサッカー部員も多く集まっていた。


「ほんとすっげえ人だよな。みんなこの炎天下の中、よくこんだけ騒げるよなあ~」

 人だかりの中で、妹尾先輩の試合が始まるのを待っていると、聞き慣れた明るい声が背後から響く。


「ひ、広瀬先輩!? に、皆さんお揃いで……」

 振り返ると、フェイスタオルで汗を拭う広瀬先輩と神崎先輩。
 そして、涼しげに紙コップのジュースを飲む、笹倉先輩が立っていた。


「チーッス! 優芽ちゃん見つけたから声かけてみた」

 広瀬先輩は嬉しそうに、顔の前でピースを作ってニッと笑った。


「さすがに今はこの人だかりと陸人の試合前で、みんなの気はそっちにいってるね」

 笹倉先輩が紙コップから口を離して、にっこりと微笑む。


「まあそのくらいの方がいいだろ。何かする度にキャーキャー騒がれたら、うるさくてかなわん」

 神崎先輩は少し疲れたように肩を鳴らした。


「えっと、キミは確か優芽ちゃんの友達の……」

「片桐さんだよな!」

 笹倉先輩の言葉に、広瀬先輩が続ける。


「はい。皆さんの試合も優芽と妹尾先輩と一緒に見てました」

「そっかあ、ありがとな! 二人とも俺らの試合、見ててくれたんだね!」

 結衣の言葉に、さらに嬉しそうに笑う広瀬先輩。


「蓮と達也が同じクラスとか、僕らのクラスとしては運が悪かったとしか言いようがなかったよ」

 眉をハの字に下げる笹倉先輩に、神崎先輩が口を開く。


「そう言う琉生が五組の得点王だったから、こっちとしてはかなり手こずったんだが」

「二人して僕をマークしてたくせに、よく言うよ」

「も~、蓮も琉生も過ぎたことはどうだっていいじゃん。それよりさ、陸人の試合、始まるぜ?」

 神崎先輩と笹倉先輩の肩に手を添えて、二人の間に割って入る広瀬先輩。

 広瀬先輩のそんな明るい声と同時に、試合開始のホイッスルが鳴った。


 ホイッスルが鳴ると同時に、高く宙を舞うサッカーボール。

 あたしが目で追うのに精一杯のボールは、いつの間にか妹尾先輩の元へ。

 敵の攻撃をかわしながら、ゴールの方へと攻める妹尾先輩。
 でも、敵も黙って見ていない。

 向かいから迫り来る敵に、妹尾先輩は他のチームメイトにパスを回す。

 そして、敵の目を見ながら、チームメイトがパスを回しやすい位置に回り込む妹尾先輩。

 そして、妹尾先輩に再び渡ったボール。

 そのままゴールへと突き進み、何のためらいもなく妹尾先輩はシュートを決めた。


 ──ワアアアァァァー。
 その瞬間、わき上がる歓声の渦。


「さすがだな。試合始まってまだ五分も経ってねえぞ?」

「本当に。陸人は正式なサッカー部員じゃないからルールに反してないとはいえ、相手のチームが可哀相なくらい」

 神崎先輩と笹倉先輩がそれぞれ口を開く。

 それからも順調に進む試合。

 妹尾先輩がシュートを決める度に盛り上がるギャラリー。

 真夏のグラウンドに、観客席の熱気も高まる。


「先輩、いけーっ!!」

 いつもの結衣からは想像できないくらいの激しい応援。

 サッカー部のマネージャーになるくらいだもんね。

 そのくらい、サッカーが好きなんだよね。


 周りから聞こえる歓声が、宙を舞うボールが、脳内で渦を巻く。

 あたし、どうしちゃったんだろう……?

 身体が、熱い……。

 その瞬間、視界までぐにゃりと歪み、ぐるりと回転した。

 ふらつく身体に、立っていられなくなって、地面に手をついた。


「優芽、大丈夫!?」

 結衣の声が聞こえる。

 そのとき、誰かの大きな手が、背後からあたしの身体を支えた。


「ちょっ、おい、優芽! しっかりしろ!!」

 低く響く、焦ったような、男性の声。

 あたしを優芽って呼ぶ男子なんて、いたかな……?


「おいっ! 優芽っ!」

 精一杯、あたしにそうやって呼びかけてくれる、あなたは誰……?

 そのままあたしを支える大きな手に身を委ねるようにして、あたしは意識を手放した。
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