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第2章

◆弁当と嫉妬心-広夢Side-(3)

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「うんまいっ!」


 目を瞬かせながら幸せそうな笑みを浮かべるこいつに、無償に腹が立つ。

 いつもの俺なら、たかだかハンバーグひと欠片で腹を立てるなんてないのだけれど……。


「料理ができる同居人とか最高じゃん。やっぱり可愛いんだよな? なぁ、今度俺にも紹介しろよ」


 だけど、俺のそんなイライラも気づかずニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべる結人に、冷たく俺は言ってやった。


「やだね」

「何だよケチだな。なら、お前の帰り道をこっそりついてってだな……」

「ストーカーかよ!」


 だけど、こいつならやりかねないと思った。


 俺と結人ではどういうわけか俺の方がチャラそうとか言われてるが、実際のところ結人の方が俺なんかよりずっとこの手の話題に食い付くのだから。


 見た目はクール系男子らしいけど、中身を知ってる俺としてはどこがって感じだ。


 みんな、見た目に騙されてるよなって、つくづく思う。



「……紹介もなにも、お前も知ってる奴だから」

「は? マジで!? 誰だよ」


 目をギラギラと輝かせながら、俺の首もとをつかむ結人。

 マジで苦しい、殺す気かよ。


 とはいえ、そんな結人は悪気なんてさらさらなさそうだ。


 そんな結人を押し退けるようにしながら、俺はぼそりと呟いた。


「学園のヒメ、だよ」

「は……?」


 同居人が美姫だということは本当は結人にも黙っておこうと思ったけれど、こいつの性格を考えたらそれは不可能だと思った。


 だけど、結人はきょとんとした感じの表情を浮かべて聞き返してくる。

 きっと聞き取れなかったんじゃなくて、信じられなかったんだろう。


「だから同居人。うちのクラスの篠原美姫」

「はあぁぁぁあっ!?」

「バカ! いちいち声がでけぇよ!」


 再び大声を出した結人のせいで、また近くの席の人がチラチラとこちらを見てくる。

 まるで、何事とでも言わんばかりに。


 とりあえず笑ってその場をごまかすと、落ち着きを取り戻した結人が小声で再び口を開いてくる。


「お前なぁ、今年のエイプリールフールはとっくの昔に終わったぞ?」

「嘘だと思うなら、信じなくていい」

「いやいやいやいや。でも、本当に!? だって、あの!?」


 結人は興奮気味に、何度も小声でそんなことを口走っている。


 そんな結人の姿は、はたから見れば相当怪しかったが、気持ちはわからなくはない。

 俺も、正直最初は相当焦ったのだから。


 そのとき、制服のズボンの中に入れていたスマホが震えて取り出した。


 見ると、美姫からメッセージを受信したようだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 広夢くんへ。

 今日は生徒会の集まりがあるので、帰りが遅くなります。

 夜ご飯は心配しなくても私が作るので、よければ次のものを買っておいてもらえると助かります。

 ・…………
 ・…………
 ・…………


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 美姫は成績もトップで男女問わずみんなからの信頼も厚いことから、生徒会なんてものを引き受けている。


 だから、度々こうして帰りが遅くなってしまうことがあるようだ。


 部活にも入ってなければそんな面倒な委員関係の仕事も引き受けてない俺は、料理を美姫に任せたかわりに、美姫が遅くなる日は買い物を引き受けることにしたんだ。


「うっわ、マジだったんだ」


 頭上から聞こえた声に顔を上げたら、結人が自分の席から乗り出すようにして、俺のスマホを覗き込んでいたのだ。


「お前、勝手に覗くなよな?」

「だってさっきの話聞いたら気になるだろ? 一緒に住んでるならもしかして、って」

「だああ! そうだけどさ。ったく、誰にも言うなよ?」



 一応、俺と美姫の同居については、極力秘密の方向でいくことにしている。

 バレると面倒だし。


 結人には話したけど、結人は俺が小学生の頃からの長い付き合いだし、なんだかんだ言って口も固い。

 だから、その点は心配要らない。はずなのだが……。


「わかってるって! なぁ、新しいお前ん家に遊びに行っていい?」

「それは無理」

「はぁあ!? 何だよ、それ!」


 わかってるのか、わかってないのか。

 まぁ、結人らしいっちゃ結人らしいのだけれど。


 俺は美姫にOKとスタンプを送って、再びスマホをポケットの中にしまいこんだ。
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