上 下
6 / 79
第1章

◆同居人は学校の……!?-広夢Side-(3)

しおりを挟む
「あのさ、ヒメって男が苦手、とか?」


 俺が近づく度、ましてや触れようなら指先でさえ過剰に反応したヒメ。


 まさかヒメに限って、こんな俺のことを好きだなんてことはないだろうし……。

 そのことからも、考えられることはこれくらいしかなかった。



「──え、っと。それは……」


 俺の問いに応えるかのように再び小さく身体を震わせるヒメ。


 だけど、彼女の弱々しい言葉からも態度からも、俺の思った通りヒメは男が苦手なんだと確信するのに充分だった。


 俺が見ても明らかなくらいにヒメの色白の頬が真っ赤に染まっていくのは、自分の秘密を俺に知られてしまったからなのだろう。


 何これ、可愛いんだけど……。



「だってヒメ、俺が近づく度に震えてる」


「震えてなんてない、から」


 “震えてなんてない”まで勢いよく言ったわりに、語尾の“から”が異様に弱々しい。俺を怖がっているのかもしれないヒメには悪いけど、笑えてくる。



「そこは即座に否定するんだ。男が苦手なのは否定しないくせに」


「そ、それは……っ。夏川くんとの距離が近すぎるからで……」


 キッと睨むように俺を見たかと思えば、再びオロオロと視線を逸らしてしまうヒメ。


 学校での“ヒメ”としてのイメージと違いすぎるだろ。


 俺との距離が近いって、別に俺、意図的にヒメにくっついてるわけでもないんだけど?


 少なくとも今の俺らの立ち位置は、普通に人と人が話す距離だと思う。



「別に普通だと思うけど。それは男が苦手だからそう感じるんじゃね?」


 不服そうに視線を逸らすヒメ。

 ヒメでも、こんないじけた表情するんだ。
 面白い……。


 こんなに男が苦手なくせに素直に認めなくて。

 そんな男に対しても、オムライスを作ってくれるヒメ。


 ヒメの口から俺のオムライスかどうかは聞いてないが、目の前に並ぶそれなりの大きさの二つのオムライスを、まさか両方ともヒメが食べるわけではないだろう。


 なんだかそんなヒメを見ていると、つい出来心から意地悪したくなる。


 俺はあえてヒメの方へと一歩踏み込むと、細い腰を抱き寄せて、あごを俺の方へと向けた。


 その瞬間、これまでにないくらいにヒメの身体が強張るのを感じる。



「それに近づき過ぎるっていうのは、例えばこんな感じにされることを言うんだよ?」


「……あ、っや……」


 だけど、ヒメが今にも泣きそうな表情を浮かべたのが見えて、俺はすぐさまその手を解いた。

 ちょっとからかうつもりのはずが、失敗したと思った。


「……夏川くんの、意地悪」


 再びもとあった距離感に戻るなり、ヒメの口から放たれたのはそんな言葉。


 今にも泣いてしまいそうだったというのに、口調といい俺を見る目付きといい、まだ強がってるのが見てとれて内心ホッとしたのも事実。



「ヒメが素直に認めないからだろ~?」


 それでもまだ認めたくないのか膨れっ面を崩さないヒメ。



「もう夕飯の準備はできたから、そこに座っててもらえる?」


 ヒメは何でもないかのようにそう言って、形のいいオムライスを二つダイニングテーブルの方へ持っていく。


 強がりっていうか、きっと負けず嫌いなんだろうな。


 そんな一面を見せられると、もっとちょっかいを出したくなる俺がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

初恋*幼なじみ~歪に絡み合う想いの四重奏~

美和優希
恋愛
高校二年生の未夢、和人、健、真理恵の四人は、小さい頃からの幼なじみで、お互いに家族のような存在だった。 未夢は、四人の仲はいつまでも変わらないと信じていたが、ある日真理恵に和人のことが好きだと告げられる。 そこから、少しずつ四人の関係は変化し始めて──!? 四人の想いが歪に絡み合う、ほろ苦い初恋物語。 初回公開*2016.09.23(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.03.29 *表紙イラストは、イラストAC(sukimasapuri様)のイラストに背景と文字入れをして使わせていただいてます。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

処理中です...