68 / 75
11.もう俺の前から逃がさない。
(5)
しおりを挟む
私の様子に本郷店長はひとつため息を吐き出すと、今度は私をグイっと引き寄せて、思いきり抱き締めた。
「ったく。それでもお前のことが好きなんだよ。どうしても、諦められないくらいに」
そして、再び私の唇は、本郷店長のそれによって塞がれたのだった。
*
「いつから私が高倉奈緒だって気づいてたんですか?」
今まで騙していた罰のキスを受けたあと、私たちは本郷店長のマンションまでの道のりを歩く。
せっかくだから寄って行けと、本郷店長に言われたからだ。
「その姿のお前と高倉奈緒が完全に結びついたのは、最近だ」
「そうだったんですね……」
本郷店長のことだから、意外と最初の方から何かしら思われていた可能性もあるかもしれないと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
「だけど、もしかしてって思ったことは何度もあった」
一瞬ホッとしたのも束の間、本郷店長のその言葉に胸がドクンと跳び跳ねた。
「初めてお前と出会った次の日。店舗で高倉奈緒を見たとき、なんとなく似てるなって思った」
パッと見の印象は全く違ったけれど、何気ない仕草や話し方が似てると、本郷店長は感じたらしい。
「同じ“高倉”だったし、最初は姉妹かなんかだと思ったんだ」
その言葉を聞いて、ハッと思う。
そういえば、梨緒の姿で二回目に会ったとき、姉妹はいるかって聞かれた。
結局あのときは何もこたえず仕舞いだったけど、あれはこういう経緯で聞かれてたんだ……!
その時点から、いい線を突いてた本郷店長に、思わず感心させられる。
「そして、桜木店で紗枝子の化粧の練習台になったお前を見たとき、化粧の力に目がいった」
本郷店長が、あのときの写真を私に見せて来たときのことが思い返される。
「出会った頃、本当の姿はもっと地味だって、梨緒の姿のお前は俺に言っただろ? 梨緒はいつも化粧をバッチリ決めてたから、素顔はこんな感じなのかなと考えるようになった」
素顔は、って。
一応、高倉奈緒の姿でもメイクはしてるんだけど……。
ほぼすっぴんに近い薄いメイクだし、そう思われても仕方ないのかもしれないけれど。
「それからお前、俺に夜ご飯を作ってくれたとき、やけどしただろ? すると次の日、高倉奈緒も同じ位置にあまりにもそっくりな傷を作って現れた。最初は偶然の一致かと思ったが、治った傷痕の様子を見ていると、まさか、と思うことはあったな」
「そう、だったんですね……」
いくら店舗にいるときはできる限りカットバンを貼るようにしていたとはいえ、完全に治った今でも、うっすらとよく見ないとわからない程度の傷痕が残っている。
それが梨緒の姿の私にも、高倉奈緒にもあるんだから、やっぱりちょっと不自然だったよね……。
「だけど、いつも俺と会ってた梨緒が偽者で、全くの別の奴と会っていたとわかったとき、今まで似てると思っていた点が、全て疑いに変わった。それまではいくら似ている点があっても、頭の中では俺の会ってる梨緒と高倉奈緒が同一人物だなんてあり得ないと思い込んでいたところがあった。でも、そういう目で見れば見るほど、高倉奈緒が梨緒の姿と重なって仕方なかった」
「いつ、私が本郷店長と会ってた梨緒だと確信したんですか?」
話している間に、本郷店長の住むマンションの部屋の前までたどり着いた。
八階の角の部屋のドアを開けた本郷店長に、中に入るように促されて、遠慮がちに足を踏み入れる。
バタンとドアが閉まるなり、私はドアに背をつけるような形で、本郷店長と向き合っていた。
本郷店長の両手は私を囲うようにドアへとつけられている。
「……確信なんてあったわけねぇだろ?」
「え?」
「決定的な証拠は何もつかめなかったんだから。だから、直接高倉奈緒に聞くんじゃなくて、梨緒の姿で教えられてた連絡先に連絡した。ダメ元だったが、正体がわかったと言えばさすがに動揺するかと思ってな」
そうしたら、本郷店長の思惑通り、私は梨緒の姿で本郷店長と会った。
「ったく。それでもお前のことが好きなんだよ。どうしても、諦められないくらいに」
そして、再び私の唇は、本郷店長のそれによって塞がれたのだった。
*
「いつから私が高倉奈緒だって気づいてたんですか?」
今まで騙していた罰のキスを受けたあと、私たちは本郷店長のマンションまでの道のりを歩く。
せっかくだから寄って行けと、本郷店長に言われたからだ。
「その姿のお前と高倉奈緒が完全に結びついたのは、最近だ」
「そうだったんですね……」
本郷店長のことだから、意外と最初の方から何かしら思われていた可能性もあるかもしれないと思ったけど、そうでもなかったみたいだ。
「だけど、もしかしてって思ったことは何度もあった」
一瞬ホッとしたのも束の間、本郷店長のその言葉に胸がドクンと跳び跳ねた。
「初めてお前と出会った次の日。店舗で高倉奈緒を見たとき、なんとなく似てるなって思った」
パッと見の印象は全く違ったけれど、何気ない仕草や話し方が似てると、本郷店長は感じたらしい。
「同じ“高倉”だったし、最初は姉妹かなんかだと思ったんだ」
その言葉を聞いて、ハッと思う。
そういえば、梨緒の姿で二回目に会ったとき、姉妹はいるかって聞かれた。
結局あのときは何もこたえず仕舞いだったけど、あれはこういう経緯で聞かれてたんだ……!
その時点から、いい線を突いてた本郷店長に、思わず感心させられる。
「そして、桜木店で紗枝子の化粧の練習台になったお前を見たとき、化粧の力に目がいった」
本郷店長が、あのときの写真を私に見せて来たときのことが思い返される。
「出会った頃、本当の姿はもっと地味だって、梨緒の姿のお前は俺に言っただろ? 梨緒はいつも化粧をバッチリ決めてたから、素顔はこんな感じなのかなと考えるようになった」
素顔は、って。
一応、高倉奈緒の姿でもメイクはしてるんだけど……。
ほぼすっぴんに近い薄いメイクだし、そう思われても仕方ないのかもしれないけれど。
「それからお前、俺に夜ご飯を作ってくれたとき、やけどしただろ? すると次の日、高倉奈緒も同じ位置にあまりにもそっくりな傷を作って現れた。最初は偶然の一致かと思ったが、治った傷痕の様子を見ていると、まさか、と思うことはあったな」
「そう、だったんですね……」
いくら店舗にいるときはできる限りカットバンを貼るようにしていたとはいえ、完全に治った今でも、うっすらとよく見ないとわからない程度の傷痕が残っている。
それが梨緒の姿の私にも、高倉奈緒にもあるんだから、やっぱりちょっと不自然だったよね……。
「だけど、いつも俺と会ってた梨緒が偽者で、全くの別の奴と会っていたとわかったとき、今まで似てると思っていた点が、全て疑いに変わった。それまではいくら似ている点があっても、頭の中では俺の会ってる梨緒と高倉奈緒が同一人物だなんてあり得ないと思い込んでいたところがあった。でも、そういう目で見れば見るほど、高倉奈緒が梨緒の姿と重なって仕方なかった」
「いつ、私が本郷店長と会ってた梨緒だと確信したんですか?」
話している間に、本郷店長の住むマンションの部屋の前までたどり着いた。
八階の角の部屋のドアを開けた本郷店長に、中に入るように促されて、遠慮がちに足を踏み入れる。
バタンとドアが閉まるなり、私はドアに背をつけるような形で、本郷店長と向き合っていた。
本郷店長の両手は私を囲うようにドアへとつけられている。
「……確信なんてあったわけねぇだろ?」
「え?」
「決定的な証拠は何もつかめなかったんだから。だから、直接高倉奈緒に聞くんじゃなくて、梨緒の姿で教えられてた連絡先に連絡した。ダメ元だったが、正体がわかったと言えばさすがに動揺するかと思ってな」
そうしたら、本郷店長の思惑通り、私は梨緒の姿で本郷店長と会った。
0
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!
むらさ樹
恋愛
娘を嫁に出そうと、お見合い写真を送り続けている母
それに対し、心に決めた男性と同棲中の娘
「最後にこのお見合いをしてダメだったら、お母さんもう諦めるから」
「本当!?」
と、いう事情で
恋人には内緒でお見合いに応じた娘
相川 優
ところが、お見合い相手の男性はなんと年商3億の社長さん
「私の事なんて早く捨てちゃって下さい!」
「捨てるだなんて、まさか。
こんなかわいい子猫ちゃん、誰にもあげないよ」
彼の甘く優しい言動と、優への強引な愛に、
なかなか縁を切る事ができず…
ふたりの馴れ初めは、
“3億円の強盗犯と人質の私!?”(と、“その後のふたり♡”)
を、どうぞご覧ください(^^)
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる