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10.本当の姿のお前を見つけ出してやる。

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「いらっしゃいませ」

 それから二人のお客様のレジを終えたあと、私の前に乱暴にカゴを置いてきたお客様を見て、内心悲鳴を上げた。

 だって、そのお客様こそ、さっきの順番飛ばしの男性客だったのだから。


 表情は相変わらずイライラしている様子だけど、ちゃんと並んでくれたし、順番で私の方のレジに来ただけだ。

 内心ビクビクとしながら、平然を装ってレジ業務を進める。


「六点で、1898円でございます」

 あとは無事に会計を終えれば終了といったところで、男性客はレジ台に叩きつけるように、千円札を二枚置いてきた。


「それでは、二千円お預かりいたします」


 男性客の態度に内心ビクリとしながらも、何とか態度に出さないようにお預かりした二千円を自動レジへと入れる。


「口の聞き方もなってねぇのに、偉そうに……」


 何となく嫌な予感はしていたけれど、そのとき、目の前の男性客がイラついた口調で独り言のように言うのが聞こえてきた。

 まさか、私に対して言ってるわけじゃない、よね……?


「……102円のお返しとレシートでございます」


 早くこのお客様のレジを終わらせてしまいたい一心でお釣りをお渡しすると、男性客は私から引ったくるようにお釣りを受け取って、大声で怒鳴った。


「人の話聞いてんのか、おいっ!」

 ひいぃっ!
 やっぱり、さっきのは私に対して言ってたんだ……。

 男性客の勢いに、思わず頭を下げた。


「も、申し訳、ございません……」

「申し訳ございませんで済んだら警察なんていらねぇんだよ。順番があるのは仕方ないにせよ、言い方が気に入らねぇ。待って当然のように言いやがって。人に物を頼むときはなぁ、もっと申し訳なさそうに言うのが筋ってもんだろうが」

「……そうですね。申し訳ございません」


 な、何この人……。
 完全に言いがかりな気がしなくもないんですけど……っ!


「さっきから聞いてりゃ、申し訳ございませんばかり言いやがって。申し訳ございませんしか言えねぇのかよ! しかも、心がこもってねぇんだよ、心が!」

「も、申し訳ございません……」

「ほらまた言った。申し訳ございません人形か、お前はっ!」


 ううぅ、どうしよう……。
 何て言えば、この人の怒りは収まってくれるのだろう……?

 レジ待ちのお客様が、何事かと遠慮がちにこちらを見ているのがわかる。


 早くこの人のレジを終わらせて、どんどん次のお客様のレジへと回していかないといけないのに、目の前の男性客は、くどくどとお叱りを続けている。


 何もできないまま、男性客に頭を下げ続けていたときだった。


 ──ピロピローン。

『店長、レジお願いします』


 そんな、呼び出し音と店内放送が耳に届く。


 ……え? でも、どうして?

 レジ台の裏には、ワンタッチで店内放送のかかるボタンが二種類ある。

 “レジ応援お願いします”と流れるものと、“店長、レジお願いします”と流れるものだ。

 それらは、今、私の入っているメインのレジからでも、隣のサブのレジからでも押せるようになっている。


 基本的には、メインのレジが混んできたときに、サブのレジの担当者を呼び出すためにレジ応援のアナウンスを使うくらいだ。

 店長を呼び出すのは、基本的に店長に対応してもらわないといけない事態が発生したときのみ。だから、そうそう使うものではなかった。


 目の前の男性客の勢いに圧巻されて、私は店長を呼び出すボタンを押そうか押さまいか悩む程の余裕もなかった。

 となると、店長を呼び出したのは、隣のサブのレジに入っている緑川さん……?

 ちらりと緑川さんの方を見ると、こちらに近づいて来た店長に手で私の方のレジを指して合図している。 

 緑川さんが、店長を呼んでくれたんだ。


「お前、よそ見してんじゃねぇよ。ったく、どうなってんだ、ここの店員は……」


 私が一瞬緑川さんの方へと視線を向けたのを、目の前の男性客は見逃してはくれなかった。

 今のは、完全に私に非がある。

 お客様がお怒りになっている中、店内アナウンスに気を取られてしまったのだから。
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