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10.本当の姿のお前を見つけ出してやる。
(1)
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結局、昨日は逃げてきちゃった……。
メインのレジに入って業務を行っているものの、お客様の波が切れる度に、昨日の本郷店長との出来事が頭を掠める。
「五点で、1352円でございます」
「じゃあ、これでお願い」
「5000円お預かりいたします」
レジに通した商品の合計金額を告げて、お客様から代金をお預かりする。
そして、自動レジに受け取ったお金を入れて、出てきたお釣りをお返しする。
「3648円のお返しと、レシートでございます。ありがとうございました」
朝一の担当が、レジで本当に良かった。
レジを打っている間だけは、余計なことを考えずに済むから……。
「いらっしゃいませ」
少しレジに並ぶお客様が途切れたとき、健康食品の棚の傍で品出しをしていた本郷店長の声が耳に届いた。
思わず本郷店長の方を見てしまう。
「……すみません」
「はい、どうされましたか?」
本郷店長は、ちょうど傍を通りかかったお客様に声をかけられて、相談を受けている風だ。
昨日あんなことがあったというのに、本郷店長はいつもと何ら変わらない様子で仕事をしている。
さすがというか何というか。
私情を仕事に持ち込むべきではないとはよく言うけれど、私はそこまで器用じゃない。
いくら本郷店長は私の正体に気づくことはなかったとはいえ、梨緒の姿で会っていたことをなかったことにして行動するなんて、私にはできそうになかった。
「いらっしゃいませ」
そうしているうちに、再びお客様が来てレジ打ちへと意識を戻す。
開店から一時間が経った頃には店内のお客様も増えて、レジを待つお客様が列を作り始めた。
レジ応援を呼んで、サブのレジにパートの緑川さんに入ってもらう。
緑川さんは、高校生の息子のいる40代主婦だ。
レジを二台開けたことで、一旦はお客様の列は解消するものの、それは一瞬でしかなかった。
サブのレジを含めても、二台しかないレジ。
今日はセールのチラシの入った日だったことから、いつもよりもお客様が多いみたいで、すぐにまたお客様が列を作って並び出してしまった。
うちの店舗ではレジを待つ列はひとつにしてもらって、次の順番の人は空いた方のレジに入ってもらうようにしている。
会計を済ませてお客様がまた一人帰られたあと、レジを待つ列が無くなったわけではないのに、次のお客様がこちらに来る気配がなかったので、声をかける。
「二番目にお待ちのお客様、こちらにどうぞ」
見ると、次のお客様は、かなり年配の白髪の女性客だった。
私の声に気づいた女性客がカゴを持ってこちらへ来ようと歩みを進めるが、突然三十代くらいの男性客が、さも当たり前のようにレジ台にカゴを置いてきた。
「順番ですので、申し訳ございません」
一先ず男性客にカゴを返して、レジ待ちの列の後ろに並ぶように促して、年配の女性客のカゴを受け取る。
年配の女性客のレジを打ち始めたとき、チッと舌打ちが聞こえてきた。
目だけチラリと舌打ちの聞こえた方へと向けると、さっきの男性客が会計中の年配の女性客の後ろに立ってこちらを睨んでいるのが見えた。
何でレジ待ちの列に並ばずに、そんなところに立ってるのよ。正直、怖いんですけど……。
だけど、私の心配も取り越し苦労で終わったのか、私が年配の女性客の清算を終える頃には、男性客はレジ待ちの列の一番後ろへと並んでくれた。
メインのレジに入って業務を行っているものの、お客様の波が切れる度に、昨日の本郷店長との出来事が頭を掠める。
「五点で、1352円でございます」
「じゃあ、これでお願い」
「5000円お預かりいたします」
レジに通した商品の合計金額を告げて、お客様から代金をお預かりする。
そして、自動レジに受け取ったお金を入れて、出てきたお釣りをお返しする。
「3648円のお返しと、レシートでございます。ありがとうございました」
朝一の担当が、レジで本当に良かった。
レジを打っている間だけは、余計なことを考えずに済むから……。
「いらっしゃいませ」
少しレジに並ぶお客様が途切れたとき、健康食品の棚の傍で品出しをしていた本郷店長の声が耳に届いた。
思わず本郷店長の方を見てしまう。
「……すみません」
「はい、どうされましたか?」
本郷店長は、ちょうど傍を通りかかったお客様に声をかけられて、相談を受けている風だ。
昨日あんなことがあったというのに、本郷店長はいつもと何ら変わらない様子で仕事をしている。
さすがというか何というか。
私情を仕事に持ち込むべきではないとはよく言うけれど、私はそこまで器用じゃない。
いくら本郷店長は私の正体に気づくことはなかったとはいえ、梨緒の姿で会っていたことをなかったことにして行動するなんて、私にはできそうになかった。
「いらっしゃいませ」
そうしているうちに、再びお客様が来てレジ打ちへと意識を戻す。
開店から一時間が経った頃には店内のお客様も増えて、レジを待つお客様が列を作り始めた。
レジ応援を呼んで、サブのレジにパートの緑川さんに入ってもらう。
緑川さんは、高校生の息子のいる40代主婦だ。
レジを二台開けたことで、一旦はお客様の列は解消するものの、それは一瞬でしかなかった。
サブのレジを含めても、二台しかないレジ。
今日はセールのチラシの入った日だったことから、いつもよりもお客様が多いみたいで、すぐにまたお客様が列を作って並び出してしまった。
うちの店舗ではレジを待つ列はひとつにしてもらって、次の順番の人は空いた方のレジに入ってもらうようにしている。
会計を済ませてお客様がまた一人帰られたあと、レジを待つ列が無くなったわけではないのに、次のお客様がこちらに来る気配がなかったので、声をかける。
「二番目にお待ちのお客様、こちらにどうぞ」
見ると、次のお客様は、かなり年配の白髪の女性客だった。
私の声に気づいた女性客がカゴを持ってこちらへ来ようと歩みを進めるが、突然三十代くらいの男性客が、さも当たり前のようにレジ台にカゴを置いてきた。
「順番ですので、申し訳ございません」
一先ず男性客にカゴを返して、レジ待ちの列の後ろに並ぶように促して、年配の女性客のカゴを受け取る。
年配の女性客のレジを打ち始めたとき、チッと舌打ちが聞こえてきた。
目だけチラリと舌打ちの聞こえた方へと向けると、さっきの男性客が会計中の年配の女性客の後ろに立ってこちらを睨んでいるのが見えた。
何でレジ待ちの列に並ばずに、そんなところに立ってるのよ。正直、怖いんですけど……。
だけど、私の心配も取り越し苦労で終わったのか、私が年配の女性客の清算を終える頃には、男性客はレジ待ちの列の一番後ろへと並んでくれた。
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