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第4章
突然の別れ(1)
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昨日は、無我夢中で喫茶店バロンを飛び出して、気づいたら家にいて。いつの間にか、朝を迎えて学校への道のりを歩いていた。
……足が重たい。
奏ちゃんに、会いたくないな……。
だけど、そんな理由で学校を休むわけにもいかないから、こうしていつもと同じように登校してるんだけど。
教室に着くと、今も隣の席の奏ちゃんの席はまだ空席。
私は自分の席に腰を下ろすと、まだ終わりきっていない塾の課題を机の上に広げて、はぁとひとつため息を落とした。
「委員長。おい、委員長!」
「……あ、ごめんね。おはよ、う?」
廊下側の窓がガララと開くのと同時に誰かに呼ばれて窓の方を見ると、北原くんの姿があった。
「どうしたの? 奏ちゃんならまだ来てないよ?」
「そんなのどうだっていい。俺は、委員長に用があってきたんだから」
「私に?」
まばらに登校してくる生徒の視線が、おのずと窓越しに話している私たちの方へと注がれる。
「ここじゃ話しにくいし、ちょっと場所変えようか」
着いてきて、と言われて、北原くんのあとを追う。
連れてこられたのは、いつも奏ちゃんと過ごす屋上。
いつも奏ちゃんが使ってるのと同じような鍵で、北原くんはここの鍵を開けたんだ。
「北原くんの鍵も、以前風紀委員だった先輩からもらったスペアキー?」
「ああ。風紀委員だった先輩っつっても、駿ちゃんのことだけどな」
「あ、そうだったんだ……!」
以前、奏ちゃんの言ってた“先輩”が、意外と自分の知ってる人で驚く。
屋上へと出ると、北原くんは閉じたドアに背をもたれて、じっと私を見据えた。
「で、奏ちゃんと何があったんだよ」
「……え」
「昨日、奏ちゃんに委員長が菓子置いて帰ったこと話したら、すげぇ嘆いてたぞ。なんで俺を呼んでくれなかったんだって、散々俺を責め立ててさ」
「ごめんね」
「別に、謝ってほしいわけじゃねぇし」
はぁ、と疲れたようにため息を吐き出す北原くん。
「だけど、委員長は昨日サプライズで奏ちゃんに会いに来たけど、急に辞めにした。そのとばっちりを受けた俺が理由を聞くことくらい、許されるんじゃねぇの?」
そうだよね。
いくら私が怪しまれないようにしてたつもりでも、誰がどう見ても行動そのものがおかしいとなれば、そうなるよね。
でも、何て聞けばいいの……?
「……奏ちゃんと新島先輩の関係って」
悩んだ末、口から出たのは、あまりに遠回り過ぎる問いかけ。
「奏ちゃんと咲姉? あの二人は、俺らと同じように幼なじみでWild Wolfの仲間」
いや、それは知ってるってば!
これじゃあ、私が新島先輩にやきもち妬いてるみたいじゃない……。
って、実際、妬いてるようなものよね。
でも、何て言ったら伝わるんだろう?
奏ちゃんと新島先輩が抱き合ってたのを見ただなんて、あまりにも直接的過ぎるよね……?
「そうだけど。でも、私……」
その先をどう説明しようか、言葉を選びながら口を開きかけたとき。
「委員長が何を勘違いしてるかは知らねぇけど、奏ちゃんのことを信じてやってほしい」
北原くんは、はっきりとそう言った。
「……え?」
「確かに奏ちゃんと咲姉の関係は、今俺が言っただけじゃない。だけど、委員長が思ってるのとは違うから」
「それってどういう……」
私が突っ込んで聞こうとするも、北原くんは静かに首を横に振る。
「それ以上は、奏ちゃんの口から聞いて。俺の口からはこれ以上話せない」
「……ごめんね」
「ううん。その様子だと、奏ちゃんにも問題がありそうだし。でも、奏ちゃんの委員長への想いは本物だから。信じてあげて」
「……うん」
奏ちゃんのことを、信じる、か。
「で、昨日の理由はそれだけ?」
「え? あ、うん」
「そ。じゃあ、そういうことだから。戻ろっか」
それだけ、って聞かれたら、それだけなんだけど。
一体、奏ちゃんと新島先輩の関係って、何なんだろう……?
一番肝心なところが伏せられてて、余計にモヤモヤが増すばかりだ。
……足が重たい。
奏ちゃんに、会いたくないな……。
だけど、そんな理由で学校を休むわけにもいかないから、こうしていつもと同じように登校してるんだけど。
教室に着くと、今も隣の席の奏ちゃんの席はまだ空席。
私は自分の席に腰を下ろすと、まだ終わりきっていない塾の課題を机の上に広げて、はぁとひとつため息を落とした。
「委員長。おい、委員長!」
「……あ、ごめんね。おはよ、う?」
廊下側の窓がガララと開くのと同時に誰かに呼ばれて窓の方を見ると、北原くんの姿があった。
「どうしたの? 奏ちゃんならまだ来てないよ?」
「そんなのどうだっていい。俺は、委員長に用があってきたんだから」
「私に?」
まばらに登校してくる生徒の視線が、おのずと窓越しに話している私たちの方へと注がれる。
「ここじゃ話しにくいし、ちょっと場所変えようか」
着いてきて、と言われて、北原くんのあとを追う。
連れてこられたのは、いつも奏ちゃんと過ごす屋上。
いつも奏ちゃんが使ってるのと同じような鍵で、北原くんはここの鍵を開けたんだ。
「北原くんの鍵も、以前風紀委員だった先輩からもらったスペアキー?」
「ああ。風紀委員だった先輩っつっても、駿ちゃんのことだけどな」
「あ、そうだったんだ……!」
以前、奏ちゃんの言ってた“先輩”が、意外と自分の知ってる人で驚く。
屋上へと出ると、北原くんは閉じたドアに背をもたれて、じっと私を見据えた。
「で、奏ちゃんと何があったんだよ」
「……え」
「昨日、奏ちゃんに委員長が菓子置いて帰ったこと話したら、すげぇ嘆いてたぞ。なんで俺を呼んでくれなかったんだって、散々俺を責め立ててさ」
「ごめんね」
「別に、謝ってほしいわけじゃねぇし」
はぁ、と疲れたようにため息を吐き出す北原くん。
「だけど、委員長は昨日サプライズで奏ちゃんに会いに来たけど、急に辞めにした。そのとばっちりを受けた俺が理由を聞くことくらい、許されるんじゃねぇの?」
そうだよね。
いくら私が怪しまれないようにしてたつもりでも、誰がどう見ても行動そのものがおかしいとなれば、そうなるよね。
でも、何て聞けばいいの……?
「……奏ちゃんと新島先輩の関係って」
悩んだ末、口から出たのは、あまりに遠回り過ぎる問いかけ。
「奏ちゃんと咲姉? あの二人は、俺らと同じように幼なじみでWild Wolfの仲間」
いや、それは知ってるってば!
これじゃあ、私が新島先輩にやきもち妬いてるみたいじゃない……。
って、実際、妬いてるようなものよね。
でも、何て言ったら伝わるんだろう?
奏ちゃんと新島先輩が抱き合ってたのを見ただなんて、あまりにも直接的過ぎるよね……?
「そうだけど。でも、私……」
その先をどう説明しようか、言葉を選びながら口を開きかけたとき。
「委員長が何を勘違いしてるかは知らねぇけど、奏ちゃんのことを信じてやってほしい」
北原くんは、はっきりとそう言った。
「……え?」
「確かに奏ちゃんと咲姉の関係は、今俺が言っただけじゃない。だけど、委員長が思ってるのとは違うから」
「それってどういう……」
私が突っ込んで聞こうとするも、北原くんは静かに首を横に振る。
「それ以上は、奏ちゃんの口から聞いて。俺の口からはこれ以上話せない」
「……ごめんね」
「ううん。その様子だと、奏ちゃんにも問題がありそうだし。でも、奏ちゃんの委員長への想いは本物だから。信じてあげて」
「……うん」
奏ちゃんのことを、信じる、か。
「で、昨日の理由はそれだけ?」
「え? あ、うん」
「そ。じゃあ、そういうことだから。戻ろっか」
それだけ、って聞かれたら、それだけなんだけど。
一体、奏ちゃんと新島先輩の関係って、何なんだろう……?
一番肝心なところが伏せられてて、余計にモヤモヤが増すばかりだ。
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