44 / 85
第3章
限界(4)
しおりを挟む
「俺、どんな花梨も受け入れられる自信あるよ。だから、怖がらないで」
どんな私、でも……?
「本当?」
「本当」
「絶対?」
「絶対」
仕舞いには、「俺ってそんなに信用ないかな?」なんて笑う奏ちゃん。
「ううん。あのね……」
私は家のこと、お父さんのことを、奏ちゃんに説明した。
「そっか。花梨の家が厳しそうなのはわかってたけど、まさかそこまでだったとはな。ってか、それ、デートに連れ出した俺も原因じゃねぇか」
ごめんな、と申し訳なさげに言う奏ちゃんに、胸が痛む。
「私こそごめんね。奏ちゃんは悪くないから。あの日は私が無理に行こうって言ったようなもんだし。奏ちゃんは、そんな私のワガママを叶えてくれただけでしょ」
「そうは言ってもなぁ……」
奏ちゃんはどこか納得しきれないような表情を浮かべていたけれど、私は言葉を続けた。
「それより、こんな愚痴みたいな話、聞いてもらっちゃってごめんね」
「いや全然。むしろ、すげぇなって思った。俺、そんな生活、絶対無理だもん」
奏ちゃんはそんな風に首を振って、何かを考えてくれてるみたいだけれど。
考えたところで、あのお父さんの考え方を変えるなんて……。
「……へぇ。花梨ちゃんって、思ってた以上に真面目ちゃんだったんだね」
その声に驚いて、私も奏ちゃんもドアの方へとふり返る。
すると、そこにはTシャツにショートパンツというラフな格好をした新島先輩が、壁に背を預けるようにして立っていた。
「咲姉! 居るなら居るって言ってよな」
「だって休憩に来たら、話しかけるのもためらうくらいに深刻そうな話をしてるんだもん」
奏ちゃんの言葉にそう返しながら、新島先輩も壁際にあった椅子をひとつ手に取って、私と奏ちゃんの向かいの位置に腰を下ろす。
「花梨ちゃんは、あたしが思うに我慢強すぎるんだと思うんだよね」
「……え?」
私を大きな猫目でまっすぐ見つめて、新島先輩が口を開く。
「ちょっ、咲姉! 話に割って入ってくんなって!」
「大丈夫。結構前からそこで話聞いてたから」
「そういう問題じゃないから」
奏ちゃんの言葉もよそに、新島先輩は私の方へと身を乗り出して口を開く。
「花梨ちゃんはさ、家の人に自分の意見って言ったことある?」
「……え?」
「なんか聞いてたらさ、花梨ちゃんって言われっぱなしじゃない? まぁよくも悪くも、言われたことを親の期待通りにこなしていく力が優れてるんだろうけど」
「そう、ですか……?」
「そうよ、絶対そう。じゃあ逆に、親に言われた通りにしなかったことってある?」
「そんなことしたら家事も回らないし、みんな困るから……」
「ほら。やっぱり」
新島先輩は、得意気ににっこりと笑う。
「え……?」
「もっとワガママ言ってもいいと思うよ?」
「で、でも……」
「いくら血の繋がった家族とはいえ、言わなきゃ伝わらないことなんてごまんとあるよ」
「確かに咲姉の言う通りかもな。瑛ちゃんと慎ちゃんなんて、いい例だし」
新島先輩のアドバイスに、納得したようにうなずく奏ちゃん。
「ちょっと、瑛ちゃんとあいつの話題は必要なくない?」
「え、そう?」
新島先輩はキッと奏ちゃんを睨みつけるけれど、奏ちゃんはヘラっと笑っている。
奏ちゃんは、北原くんが慎司さんのことを誤解してるって思ってるもんね……。
でも、確かにそうかも。
私が何も言わずに言われた通りにしてるから、今までそれが“当然”のようになってしまっていた。
だけど、そのことに対する私の気持ちと、お父さんやお母さんの気持ちが噛み合っていないのなら……?
そうかもしれない、とは思った。
「でも、そんなこと言ったら……」
そうは思っても、実際に家のことなんかは、私がやってるから回ってる面はあるし。勉強だって、あんな風にきつく言ってくるのは、きっとお父さんなりに私の将来を心配してくれているからなのだろうし。
どんな私、でも……?
「本当?」
「本当」
「絶対?」
「絶対」
仕舞いには、「俺ってそんなに信用ないかな?」なんて笑う奏ちゃん。
「ううん。あのね……」
私は家のこと、お父さんのことを、奏ちゃんに説明した。
「そっか。花梨の家が厳しそうなのはわかってたけど、まさかそこまでだったとはな。ってか、それ、デートに連れ出した俺も原因じゃねぇか」
ごめんな、と申し訳なさげに言う奏ちゃんに、胸が痛む。
「私こそごめんね。奏ちゃんは悪くないから。あの日は私が無理に行こうって言ったようなもんだし。奏ちゃんは、そんな私のワガママを叶えてくれただけでしょ」
「そうは言ってもなぁ……」
奏ちゃんはどこか納得しきれないような表情を浮かべていたけれど、私は言葉を続けた。
「それより、こんな愚痴みたいな話、聞いてもらっちゃってごめんね」
「いや全然。むしろ、すげぇなって思った。俺、そんな生活、絶対無理だもん」
奏ちゃんはそんな風に首を振って、何かを考えてくれてるみたいだけれど。
考えたところで、あのお父さんの考え方を変えるなんて……。
「……へぇ。花梨ちゃんって、思ってた以上に真面目ちゃんだったんだね」
その声に驚いて、私も奏ちゃんもドアの方へとふり返る。
すると、そこにはTシャツにショートパンツというラフな格好をした新島先輩が、壁に背を預けるようにして立っていた。
「咲姉! 居るなら居るって言ってよな」
「だって休憩に来たら、話しかけるのもためらうくらいに深刻そうな話をしてるんだもん」
奏ちゃんの言葉にそう返しながら、新島先輩も壁際にあった椅子をひとつ手に取って、私と奏ちゃんの向かいの位置に腰を下ろす。
「花梨ちゃんは、あたしが思うに我慢強すぎるんだと思うんだよね」
「……え?」
私を大きな猫目でまっすぐ見つめて、新島先輩が口を開く。
「ちょっ、咲姉! 話に割って入ってくんなって!」
「大丈夫。結構前からそこで話聞いてたから」
「そういう問題じゃないから」
奏ちゃんの言葉もよそに、新島先輩は私の方へと身を乗り出して口を開く。
「花梨ちゃんはさ、家の人に自分の意見って言ったことある?」
「……え?」
「なんか聞いてたらさ、花梨ちゃんって言われっぱなしじゃない? まぁよくも悪くも、言われたことを親の期待通りにこなしていく力が優れてるんだろうけど」
「そう、ですか……?」
「そうよ、絶対そう。じゃあ逆に、親に言われた通りにしなかったことってある?」
「そんなことしたら家事も回らないし、みんな困るから……」
「ほら。やっぱり」
新島先輩は、得意気ににっこりと笑う。
「え……?」
「もっとワガママ言ってもいいと思うよ?」
「で、でも……」
「いくら血の繋がった家族とはいえ、言わなきゃ伝わらないことなんてごまんとあるよ」
「確かに咲姉の言う通りかもな。瑛ちゃんと慎ちゃんなんて、いい例だし」
新島先輩のアドバイスに、納得したようにうなずく奏ちゃん。
「ちょっと、瑛ちゃんとあいつの話題は必要なくない?」
「え、そう?」
新島先輩はキッと奏ちゃんを睨みつけるけれど、奏ちゃんはヘラっと笑っている。
奏ちゃんは、北原くんが慎司さんのことを誤解してるって思ってるもんね……。
でも、確かにそうかも。
私が何も言わずに言われた通りにしてるから、今までそれが“当然”のようになってしまっていた。
だけど、そのことに対する私の気持ちと、お父さんやお母さんの気持ちが噛み合っていないのなら……?
そうかもしれない、とは思った。
「でも、そんなこと言ったら……」
そうは思っても、実際に家のことなんかは、私がやってるから回ってる面はあるし。勉強だって、あんな風にきつく言ってくるのは、きっとお父さんなりに私の将来を心配してくれているからなのだろうし。
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる