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第3章
初デート(4)
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動物園を出た私たちは、再び電車に揺られて喫茶店バロンに向かう。
近くの駅まで帰ってきた時点では日が暮れかけていたけれど、いつも塾が終わる時間までは、さすがにまだ時間があるから。
「花梨、注文決まった?」
「えっと、じゃあカルボナーラにしようかな」
「ん。了解。おっちゃーん、注文~!」
私の返事を聞くなり、頭上で手をヒラヒラさせて、店長の北原くんのお父さんを呼ぶ奏ちゃん。
奏ちゃんは一通り注文内容を告げると、北原くんのお父さんが厨房の方へと姿を消すのを見届けてから口を開く。
「本当にここで良かった?」
「うん。一度、ここの料理も食べてみたかったし」
喫茶店バロンは、喫茶店と言うだけあってそれほど品数は多くはないけれど、入り口のところのショーケースにパスタやらサンドイッチやらが飾られてるのを見て、一度食べてみたいなって思ってたんだ。
それに、このあと二階で奏ちゃんのバンドの練習があることを考えても、いいかなって思って。
「なら、いいんだけど。気遣わせてたらごめんな」
しばらくして、私の前にはカルボナーラ、奏ちゃんの前にはナポリタンが届く。
「ここのパスタ、喫茶店にしては美味いんだぜ?」
そう言いながら、届いたパスタを口へと運ぶ奏ちゃん。
「わぁ、本当! 美味しい!」
私も一口食べた瞬間に、感嘆の声が漏れる。
「だろ? 変なパスタ専門店よりいけると俺は思うんだ。花梨のも味見させて」
「え? ああ、うん」
「実は俺、そう言いながらここのカルボナーラは食べたことなくて。花梨も、俺の食べていいよ」
奏ちゃんのフォークが、私のカルボナーラを絡め取る。
私も、奏ちゃんのナポリタンをフォークに巻きつけるけれど……。
なんだか今更だけど、こういうのって、いわゆる恋人同士って感じで緊張するよ……。
そう、ドキドキとしていたとき、
「あれ? 奏ちゃんに委員長。こんなところで何してんだよ」
一際強く、ドキンと胸が跳ねた。
「び、びっくりした~! 瑛ちゃんかよ。まだ早くね?」
さすがの奏ちゃんも、北原くんの登場に目を見張る。
「まぁ夕飯でも食おうかなと。家帰っても誰もいねぇし」
そう言って、私たちの座るボックス席からも近いカウンター席に腰を下ろす北原くん。
「瑛司、注文は?」
「カツカレー」
いつの間にかカウンター前に来ていた北原くんのお父さんは、それだけ聞くと、再び奥へと入っていった。
「なんか悪いな。邪魔しに来たみたいで」
「ほんとだよ~。瑛ちゃん、空気読めよなぁ~」
いかにも申し訳なさそうにこちらに言う北原くんに、奏ちゃんはふてくされたように返す。
「ま、俺はいないもんだとして、“あーん”でも“口移し”でもしながら続きを食べてくれよ」
「え、……っ!?」
あ、あーんに、口移しっ!?
「ちょっ、瑛ちゃん。花梨をからかうの、やめろよな!」
「まさか委員長、今の真に受けたの? これだから真面目ちゃんは」
奏ちゃんの言葉に、しれっと返す北原くん。
真面目ちゃんって……。
なんだかそんな風に言われるのはちょっと悲しい。
私のイメージからして、仕方ないんだろうけど。
「瑛ちゃん! 花梨も気にしなくていいからな。花梨の良さは、俺が一番知ってるから」
「あ、ありがとう……」
嬉しいような、情けないような……。
鼻腔をくすぐるカレーの匂いを感じながらそう言うと、再び北原くんの鼻で笑うような声が耳に届いた。
「へーへー。お熱いことで。ごちそうさん」
「瑛司、食べるときは“いただきます”だろうが」
タイミングよくそんな突っ込みが入って、視線を北原くんの方へと戻すと、ちょうど北原くんのお父さんがカツカレーを持ってきたところだった。
「ったく、親父、勝手に俺らの話に入ってくんじゃねぇよ」
「なんだ。誰が厚意でいつもお前らに場所提供してやってると思ってんだ」
さすがにそう言い返されたとなれば、北原くんは何も言わずにひとつため息を落とした。
近くの駅まで帰ってきた時点では日が暮れかけていたけれど、いつも塾が終わる時間までは、さすがにまだ時間があるから。
「花梨、注文決まった?」
「えっと、じゃあカルボナーラにしようかな」
「ん。了解。おっちゃーん、注文~!」
私の返事を聞くなり、頭上で手をヒラヒラさせて、店長の北原くんのお父さんを呼ぶ奏ちゃん。
奏ちゃんは一通り注文内容を告げると、北原くんのお父さんが厨房の方へと姿を消すのを見届けてから口を開く。
「本当にここで良かった?」
「うん。一度、ここの料理も食べてみたかったし」
喫茶店バロンは、喫茶店と言うだけあってそれほど品数は多くはないけれど、入り口のところのショーケースにパスタやらサンドイッチやらが飾られてるのを見て、一度食べてみたいなって思ってたんだ。
それに、このあと二階で奏ちゃんのバンドの練習があることを考えても、いいかなって思って。
「なら、いいんだけど。気遣わせてたらごめんな」
しばらくして、私の前にはカルボナーラ、奏ちゃんの前にはナポリタンが届く。
「ここのパスタ、喫茶店にしては美味いんだぜ?」
そう言いながら、届いたパスタを口へと運ぶ奏ちゃん。
「わぁ、本当! 美味しい!」
私も一口食べた瞬間に、感嘆の声が漏れる。
「だろ? 変なパスタ専門店よりいけると俺は思うんだ。花梨のも味見させて」
「え? ああ、うん」
「実は俺、そう言いながらここのカルボナーラは食べたことなくて。花梨も、俺の食べていいよ」
奏ちゃんのフォークが、私のカルボナーラを絡め取る。
私も、奏ちゃんのナポリタンをフォークに巻きつけるけれど……。
なんだか今更だけど、こういうのって、いわゆる恋人同士って感じで緊張するよ……。
そう、ドキドキとしていたとき、
「あれ? 奏ちゃんに委員長。こんなところで何してんだよ」
一際強く、ドキンと胸が跳ねた。
「び、びっくりした~! 瑛ちゃんかよ。まだ早くね?」
さすがの奏ちゃんも、北原くんの登場に目を見張る。
「まぁ夕飯でも食おうかなと。家帰っても誰もいねぇし」
そう言って、私たちの座るボックス席からも近いカウンター席に腰を下ろす北原くん。
「瑛司、注文は?」
「カツカレー」
いつの間にかカウンター前に来ていた北原くんのお父さんは、それだけ聞くと、再び奥へと入っていった。
「なんか悪いな。邪魔しに来たみたいで」
「ほんとだよ~。瑛ちゃん、空気読めよなぁ~」
いかにも申し訳なさそうにこちらに言う北原くんに、奏ちゃんはふてくされたように返す。
「ま、俺はいないもんだとして、“あーん”でも“口移し”でもしながら続きを食べてくれよ」
「え、……っ!?」
あ、あーんに、口移しっ!?
「ちょっ、瑛ちゃん。花梨をからかうの、やめろよな!」
「まさか委員長、今の真に受けたの? これだから真面目ちゃんは」
奏ちゃんの言葉に、しれっと返す北原くん。
真面目ちゃんって……。
なんだかそんな風に言われるのはちょっと悲しい。
私のイメージからして、仕方ないんだろうけど。
「瑛ちゃん! 花梨も気にしなくていいからな。花梨の良さは、俺が一番知ってるから」
「あ、ありがとう……」
嬉しいような、情けないような……。
鼻腔をくすぐるカレーの匂いを感じながらそう言うと、再び北原くんの鼻で笑うような声が耳に届いた。
「へーへー。お熱いことで。ごちそうさん」
「瑛司、食べるときは“いただきます”だろうが」
タイミングよくそんな突っ込みが入って、視線を北原くんの方へと戻すと、ちょうど北原くんのお父さんがカツカレーを持ってきたところだった。
「ったく、親父、勝手に俺らの話に入ってくんじゃねぇよ」
「なんだ。誰が厚意でいつもお前らに場所提供してやってると思ってんだ」
さすがにそう言い返されたとなれば、北原くんは何も言わずにひとつため息を落とした。
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