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第1章
胸のドキドキと現実 (1)
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昨日の塾の学力テストは思うような手応えは得られなかった。
自分としては一昨日の夜まで毎日遅くまで勉強して臨んだつもりだったのにな……。
昨日は柳澤くんとのことに浮かれてしまったというのに、さらにこの現実に私は罪悪感を感じる。
始業時間が近づいて教室はにぎやかになってきたけれど、まだ朝のホームルームの時間まで15分もある。
少しでもこの現状を打破するために、私は教室の自分の席で塾の課題に黙々と取りかかっていた。
「いいんちょー、おっはよ!」
少しして頭上から聞こえた声に思わずどきんと胸が跳ねた。
その声に顔を上げると、教室内はほとんどの生徒が登校してきているようだった。
「や、柳澤くん……、おはよう」
いつの間にか私の前に立っていた柳澤くんは、ニッと無邪気な可愛らしい笑みを浮かべる。
やだ、私ったら、何ドキドキしてるの……?
「朝から頑張ってるんだね。それ何? 委員長の?」
「あ、これは塾の教材で……」
「そうなんだ。ってか、委員長っていっつも勉強してるよな」
「そ、そうかな?」
確かに私は学校でも時間の許す限りは机に向かってる気がする。そうでもしないと塾の課題まで終わりきらないのが現状だから。
家に帰ったら、学校の課題もしないといけないし……。
「してるしてる。そんなに勉強ばっかりしてたら息詰まりそうだなーって思うくらい。いいんちょーが勉強好きならいいんだけどさ」
「別に勉強が好きなわけじゃなくて、やらなきゃいけないからやってるだけ」
ドキドキしておきながら、我ながら可愛くない言い方。
これじゃあ、うっとうしがってるみたいに聞こえそう……。
だけど柳澤くんは全くそんなことは思ってないのか、可愛い笑みを崩さずに口を開いた。
「それならそんな無理しなくてもいいんじゃねーの? ってか、今日の昼休み、来てくれるんだよな?」
「え、っと……」
どうするべきなのかな……。
どうするべきも何も、柳澤くんと居てまた浮かれた気持ちを抱くくらいなら、行かない方がいいに決まってる。
そうは思うのに……。
「……ちゃんと、行くから」
やっぱり私はそうこたえていた。
「良かった。委員長の気が変わってたらどうしようかと思った」
「奏ちゃーん、何朝っぱらから委員長の邪魔してんだよー」
「別に邪魔してないしー! じゃ、委員長、また」
そう言って柳澤くんは、彼に声をかけた男子の群れの中へと溶け込んでいった。
私ったら、何やってるんだろう。
また私、柳澤くんと話してドキドキしてるし……。
こんな浮かれた気持ちを持つ資格、私にはないはずなのに……。
何とか胸のドキドキを抑えようとするけれど上手くいかなくて、結局塾の課題もそこそこにしか進めることができなかった。
*
お昼休み、約束通り、私は柳澤くんの居る屋上に来ていた。
「いいんちょー、来てくれたんだ!」
屋上の扉を開けるなりギターを弾く手を止め、歌うのをやめてニッとこちらに笑いかける柳澤くん。
「続けてくれてても良かったのに」
「だってー、せっかく委員長が来てくれたんだから、話したいじゃん」
そう言って口を尖らせる柳澤くんは、やっぱり可愛い。
「でもいつも教室で弁当食べてる委員長が急に教室を出てお昼だなんて、クラスの子とか怪しまなかった?」
「全然。みんなは私がまた委員長の仕事が忙しいんだと思ってるみたいだったし」
ちょっと寂しいけど、委員長の特権。
「でも良かった。他の人にここで歌ってるの知られて先生とかにバレたら厄介で、いつも一人で居たからさ。まぁ、委員長なら誰にも見つからないように来てくれるって信じてたけど!」
そのわりには、今朝みんなの前で来てくれるよね、だなんて堂々と確認してきたよね……?
心の中でそんなことを突っ込みながら、柳澤くんの隣に腰を下ろしてお弁当を広げる。
自分としては一昨日の夜まで毎日遅くまで勉強して臨んだつもりだったのにな……。
昨日は柳澤くんとのことに浮かれてしまったというのに、さらにこの現実に私は罪悪感を感じる。
始業時間が近づいて教室はにぎやかになってきたけれど、まだ朝のホームルームの時間まで15分もある。
少しでもこの現状を打破するために、私は教室の自分の席で塾の課題に黙々と取りかかっていた。
「いいんちょー、おっはよ!」
少しして頭上から聞こえた声に思わずどきんと胸が跳ねた。
その声に顔を上げると、教室内はほとんどの生徒が登校してきているようだった。
「や、柳澤くん……、おはよう」
いつの間にか私の前に立っていた柳澤くんは、ニッと無邪気な可愛らしい笑みを浮かべる。
やだ、私ったら、何ドキドキしてるの……?
「朝から頑張ってるんだね。それ何? 委員長の?」
「あ、これは塾の教材で……」
「そうなんだ。ってか、委員長っていっつも勉強してるよな」
「そ、そうかな?」
確かに私は学校でも時間の許す限りは机に向かってる気がする。そうでもしないと塾の課題まで終わりきらないのが現状だから。
家に帰ったら、学校の課題もしないといけないし……。
「してるしてる。そんなに勉強ばっかりしてたら息詰まりそうだなーって思うくらい。いいんちょーが勉強好きならいいんだけどさ」
「別に勉強が好きなわけじゃなくて、やらなきゃいけないからやってるだけ」
ドキドキしておきながら、我ながら可愛くない言い方。
これじゃあ、うっとうしがってるみたいに聞こえそう……。
だけど柳澤くんは全くそんなことは思ってないのか、可愛い笑みを崩さずに口を開いた。
「それならそんな無理しなくてもいいんじゃねーの? ってか、今日の昼休み、来てくれるんだよな?」
「え、っと……」
どうするべきなのかな……。
どうするべきも何も、柳澤くんと居てまた浮かれた気持ちを抱くくらいなら、行かない方がいいに決まってる。
そうは思うのに……。
「……ちゃんと、行くから」
やっぱり私はそうこたえていた。
「良かった。委員長の気が変わってたらどうしようかと思った」
「奏ちゃーん、何朝っぱらから委員長の邪魔してんだよー」
「別に邪魔してないしー! じゃ、委員長、また」
そう言って柳澤くんは、彼に声をかけた男子の群れの中へと溶け込んでいった。
私ったら、何やってるんだろう。
また私、柳澤くんと話してドキドキしてるし……。
こんな浮かれた気持ちを持つ資格、私にはないはずなのに……。
何とか胸のドキドキを抑えようとするけれど上手くいかなくて、結局塾の課題もそこそこにしか進めることができなかった。
*
お昼休み、約束通り、私は柳澤くんの居る屋上に来ていた。
「いいんちょー、来てくれたんだ!」
屋上の扉を開けるなりギターを弾く手を止め、歌うのをやめてニッとこちらに笑いかける柳澤くん。
「続けてくれてても良かったのに」
「だってー、せっかく委員長が来てくれたんだから、話したいじゃん」
そう言って口を尖らせる柳澤くんは、やっぱり可愛い。
「でもいつも教室で弁当食べてる委員長が急に教室を出てお昼だなんて、クラスの子とか怪しまなかった?」
「全然。みんなは私がまた委員長の仕事が忙しいんだと思ってるみたいだったし」
ちょっと寂しいけど、委員長の特権。
「でも良かった。他の人にここで歌ってるの知られて先生とかにバレたら厄介で、いつも一人で居たからさ。まぁ、委員長なら誰にも見つからないように来てくれるって信じてたけど!」
そのわりには、今朝みんなの前で来てくれるよね、だなんて堂々と確認してきたよね……?
心の中でそんなことを突っ込みながら、柳澤くんの隣に腰を下ろしてお弁当を広げる。
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