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*第4章*

新しい関係(1)

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 和人と手を繋いでるところを見られた次の日、真理恵は学校には来なかった。

 そして、それから二日が経った。


 真理恵の空席を見ていると、胸が痛い。

 先生は真理恵は風邪だと言っていたけれど、本当はあの日のことで学校に来れてないんじゃないかとか考えてしまって、余計に責任を感じていた。 


 真理恵に改めてちゃんと謝りたいし、本当に風邪を引いて寝込んでるならお見舞いに行きたい。

 だけどあれだけ怒らせておいてヌケヌケとお見舞いに行くなんて、真理恵の気持ちがわからないだけに、余計にできなかった。


 和人には『ごめん』と次の日にも改めて謝られたとき以外は、あまり話していない。

 席が前後だから、必要最低限のことで話す程度だ。


 私の気の緩みから、真理恵のことも和人のことも傷つけてしまった。

 守りたかった四人の仲は、私のせいでどんどん壊れていっていくばかりで辛い。

 私は、一体どうしたらいいのだろう……?


「未夢? 大丈夫?」

「え、あ……」


 気づけばさっきまでぼんやり聞いていた英語の授業は終わっていて、教室には私と健しか残っていなかった。


「何回も声かけたんだけど、未夢、全然気づかねーんだもん」

「ごめんね」

「いや、それは別に構わないんだけど……」


 自分でもわかるくらいに、私は真理恵と和人のことに悩んでいるのだから、健もきっと私の様子に気づいてるんだと思う。


 心配そうに私を見る健だけど、何があったのか健から聞いてくることはない。

 きっと健なりに気遣ってくれてるんだと思う。


 だけど、こんな健を見ても、何があったかなんて話せるわけがない。


 和人と手を繋いで歩いてたところを真理恵に見られて、和人とも真理恵とも気まずい状態になってしまっているなんて、それこそ、本当のことを話したら今度は健のことを悲しませてしまうかもしれない。

 これ以上、大切な人を傷つけたくなかった。


「あのさ、未夢……」


 少し間を開けて、どこか思い詰めたように健は口を開く。

 そのとき、間が悪くも教室の外からクラス担任の先生の声が聞こえてきた。


「おー、ちょうどいいところに! 二宮ーっ、ちょっとこれ運ぶの手伝ってくれないか~?」


 見ると、先生は両手一杯に模造紙やらノートパソコンやら何かしらの機材やら抱えている。


「……先生、タイミング悪いっすよ~」


 健はさっきまでの表情を一変して、いつもの表情に戻る。


「悪い悪い。このあと、化学部の成果発表会をするのにいろいろ運んでたんだ。本当なら部員も一緒に連れてきて、手伝わせるべきだったんだけど、まさかこんなに大荷物になるとは思わなくてな」

「今回限りっすよ~?」


 健はそう言うと、ハァと小さくため息を落として私を見る。


「ごめん、ちょっと行ってくるわ」

「うん、仕方ないよ」


 小走りで教室から出ていくと、健は先生が抱えていた荷物の半分を受けとる。


「天野ーっ、ちょっと二宮借りるな」


 そして、先生と健は廊下を歩いていった。


 健もいなくなって、放課後の教室にぽつんと一人残されてしまった。

 夕陽の差し込む教室の中、私はゆっくりと黒板の方へと歩いていく。


 黒板の右上の隅には、相変わらず私と和人の相合い傘がうっすらと残っている。


 誰にも消されずに残ってたらずっと一緒にいられる、だなんて。そんなこと、全然なかった。

 こんなことになる前に、消してしまえば良かったんだ。

 ずっとそこに書かれた本当の気持ちを消せずにいた私を、白いチョークでかかれた相合い傘に笑われているみたいだ。


 私は黒板消しを持つと、意を決してその相合い傘を消した。

 今さら消したってもう手遅れだけど、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。


 もうすでに相合い傘の文字は消えてるのに、何度も何度も同じところを黒板消しでこすった。

 私の中に消えずにある、この気持ちも一緒に消し去ってしまえるように……。


 どのくらいそうしていたのだろう?


「未夢……っ」


 無我夢中で黒板消しで黒板を擦り続けていた私を背後から呼ぶ声が聞こえて、思わずビクリと肩を震わせる。


 だけどその瞬間には、私は後ろから抱きしめられていた。


「健……。もう帰ってきたの……?」


「そりゃ。さっきの先生が持ってた荷物を化学室に運んできただけだもん。それに、あまり元気のない未夢を一人待たせるのも悪いだろ?」


 言われてみれば、健の息は少し上がっていて、ここまで急いで戻ってきてくれたんだと感じさせられる。


「何で。そんなこと、ないのに……」


 健に優しくされる度に、自分の汚い部分が浮き彫りになってくるように感じて辛い。

 そもそも健のことを傷つける要素しか持っていない私が、優しい健に心配してもらう資格なんてないのだ。

 居心地の悪さから、つい健から視線を逸らしてしまう。
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