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*第3章*

聖なる夜の誓い(2)

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「写真写りたいって言っておきながら、すっごい顔で写ってるな」

「ああ~! もう、見ないで!」

「見ないでって言うわりには、しっかり写真も購入してるし」

「いいじゃん、これも記念なんだから!」


 問題の水の絶叫系アトラクションを無事に終えたのはいいものの、出来上がった写真を見て、散々健と和人にからかわれていた。


 それもそのはずだ。

 滝から落ちる瞬間に自動的に撮影された写真に写る私は、この世の終わりのような、自分でも笑えてしまうような表情で写っているのだから。

 健の温もりに包まれていたからか、今回は不思議と平気だったと感じていたのに、何でこんな顔で写っちゃうかな、私……。


 というのも、滝から落ちる苦手な場所にさしかかったところから、ずっと健は私の肩を抱いていてくれたのだ。

『大丈夫だから。俺につかまってて』

 写真に写る私を見てゲラゲラと笑っている健からは想像もつかないけれど、耳元でそう囁いた健の存在にかなり救われたはずだった。


「まぁそう怒んなって。そんな未夢も可愛いから、健は未夢にベタ惚れなんだし」

「まぁな。ってか、和人、さりげなく未夢に可愛いとか言って口説くなよな?」

「はぁ? そんなつもりねーし。もしかして健って結構嫉妬深い?」

「そんなんじゃねぇって!」


 ぎゃいぎゃいと健と和人は言い合いを続ける。


 “そんな未夢も可愛い”か。

 全然フォローになってないような気もするけど、和人の口からそんな言葉を聞くと、バカな私は勘違いしそうになる。


「はいはい。和人には私がいるんだから、健もそうムキにならなくたって大丈夫よ」


 そうだ。和人には、今、二人の間に入って和人と手を繋ぐ真理恵っていう美人な彼女がいるっていうのに、ちょっとした言葉に過剰反応してしまう自分に嫌気がさす。


「次はどうしようか。クリスマス限定のショーもやってるみたいよ。とりあえずさっきは私たちの希望聞いてもらったし、次は未夢が行きたいところ決めていいよ」

「え、あ、ありがとう」


 真理恵にテーマパーク内のマップと、ショーのタイムスケジュールを渡されて我に返る。


 いけないいけない。

 せっかくのクリスマスイブに、また暗い気持ちになってしまうところだった。

 私は気持ちを切り替えて、マップを見る。


「じゃあ、このアイスショーを見に行きたいな」

 その中で気になった水と氷をモチーフにしたショーのタイムスケジュールのところを指さした。



 それからは、私の希望するショーを見て、いくつかアトラクションに並んで乗るうちに、時間は過ぎていった。


 夕陽が西にほぼ姿を隠して薄暗くなった頃、テーマパークのクリスマスシーズンの最大のイベント、巨大ツリーのライトアップが行われようとしていた。

 巨大ツリーのライトアップのイベントでは、同時にツリーの周りで大規模なクリスマスのショーが行われることになっている。


「じゃあ、そろそろ別行動にしようか」


 ぞろぞろとツリーの周りに人が集まってくる中、真理恵がみんなに提案した


 四人で過ごすクリスマスは楽しいけれど、やっぱり恋人と二人きりで過ごす時間もほしいと思うのは、普通の感覚では当たり前のことなんだと思う。


「私たちは、あそこの高台で見ようと思うんだ。未夢たちは?」

「ん~、俺らはまだ決めてないな~。まぁ、これから考えるよ」


 私のかわりに健がこたえてくれる。


「じゃあ、健も未夢も夜遅くなりすぎないようにな」

「お前なぁ、その言葉、俺らの父親じゃあるまいし」


 あたかも親が子どもに注意するような言い方の和人に、健はどこか不服そうだ。


「言われなくても、未夢のことはちゃんと最後までエスコートするから。くれぐれも俺らの邪魔しに来るなよな?」

「ちょ、た、健!」


 その言い方、恥ずかしいってば……っ!


「それなら安心ね。じゃあ、そろそろ私たち行くね」

「じゃあな」


 高台の方もだんだんと人で埋まっていくのを見て、真理恵と和人は少し急ぐように私たちの前をあとにした。


「どうする? 和人たちについていくわけじゃないけど、俺らも高台の方で見る?」


 もうすでにツリー付近は早々とたくさんの人に陣取られていて、今いる位置だと、ツリーの上半分くらいしか見えない。


 背の高い健はともかく、そんなに背の高くない私には全くもって、ツリーの目の前で行われるというショーは見えそうになかった。


「そうだね。二人と鉢合わせないように行ってみよっか」


 私たちが高台のところにたどり着いたときには、少し出遅れていたことから、もうすでに人であふれかえっていた。


 だけど、なだらかな丘のように傾斜があることから、さっきまでいた場所に比べるとずっとツリーもショーが行われる様子も見渡すことができそうだった。
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