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*第1章*
きっかけ(2)
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「自分のことしか考えられない野郎に、未夢を渡せるかよ」
「ちょ、ちょっと、和人……っ!?」
和人、すごい力。抜け出せないよ……。
「わかりました。天野さんは、新谷くんと付き合ってるってわかっただけでも充分です」
「井村くん……っ、誤解だから!」
「天野さん、無理しなくていいですよ。今度こそあきらめます、ごめんなさい」
井村くんは私と和人に背を向けると、あっという間に走り去っていってしまった。
完全に誤解された……。どうしよう。
「ちょっと、和人! 井村くん、誤解しちゃったじゃない!」
「別にいいだろ? それで未夢のことあきらめてくれるなら」
「そうじゃなくて……っ」
誰と誰が付き合っているという内容は、ウワサになったら流れるのが早いって、前、真理恵が言ってた。
もし、井村くんが私と和人が付き合ってるなんてウワサを流して、それが真理恵の耳に届いたらどうなるだろう?
私と和人は付き合ってないって知ってはいても、きっと真理恵はいい気はしないと思う。
「何だよ。あいつ、なんか粘着質な感じだったし、今後付きまとわれることを思えば良かったんじゃねーの?」
「そ、そうだけど……」
「それより、あいつに何もされてないか?」
和人は、心配そうに私を見つめてくる。
どうしたんだろう?
さっきから、私は変だ。
和人の切れ長の瞳に見られてるだけなのに、なんか異様にドキドキする。
「だ、大丈夫だよ。それより、離して……」
未だに和人は私の肩に腕をまわして、身体を密着させていた。
もし真理恵に見られたら、最近そればっかり考えているけれど、この状況で気にせずに居られるわけがない。
「ああ、悪い」
パッと私から距離を取るように離れる。どことなくぎこちない和人の動作に、ちょっと冷たく言い過ぎたかなと反省した。
和人に助けてもらったというのに、これじゃあ恩を仇で返しているみたいだ。
「ごめんね。ところで、何で和人がここに?」
「昼練してたときにあいつに連れて行かれる未夢が見えて、何となく嫌な予感がしてあとを追ったんだ。やっぱり、来て正解だったな」
ふぅ、と和人は小さく息を吐き出す。
言われて見れば、和人の格好はバスケ部の練習着のタンクトップとハーフパンツ姿だ。
私が本当に困ったとき、和人は昔からいち早く私の前に現れて、いつも助けてくれるんだ。
「そっか、ありがとう」
「ってか最近、未夢、俺にそっけなくね?」
和人に思わぬ言葉をもらって、内心びくりとする。
やっぱり少なからず態度に出てしまっていたのだろう。
「え、そうだっけ?」
「そうだって。何か今もだけど、よそよそしくね? 俺、何かしたか?」
確かに最近の私は、自分でもおかしいと思うくらいに和人のことを意識している。和人に私の違和感に気づくなっていう方が無理があったのかもしれない。
でも、本当の理由は和人に悟られちゃダメだ。
隠し通さなければならない。
「ううん、そんなことないよ。和人の気のせいじゃない?」
「そうか? まぁ何かあったらすぐに言えよ。俺でよければ力になるからさ」
ふわりと私の頭を撫でてくれる、大きな手。
和人は優しい。
「……うん」
だけど、私がいつまでも和人に甘えていたら、きっと真理恵は良く思わないよね。きっと、和人の優しさからも卒業した方がいいんだ。
そう思うと、胸がかつてないくらいに苦しくなった。
「ちょ、ちょっと、和人……っ!?」
和人、すごい力。抜け出せないよ……。
「わかりました。天野さんは、新谷くんと付き合ってるってわかっただけでも充分です」
「井村くん……っ、誤解だから!」
「天野さん、無理しなくていいですよ。今度こそあきらめます、ごめんなさい」
井村くんは私と和人に背を向けると、あっという間に走り去っていってしまった。
完全に誤解された……。どうしよう。
「ちょっと、和人! 井村くん、誤解しちゃったじゃない!」
「別にいいだろ? それで未夢のことあきらめてくれるなら」
「そうじゃなくて……っ」
誰と誰が付き合っているという内容は、ウワサになったら流れるのが早いって、前、真理恵が言ってた。
もし、井村くんが私と和人が付き合ってるなんてウワサを流して、それが真理恵の耳に届いたらどうなるだろう?
私と和人は付き合ってないって知ってはいても、きっと真理恵はいい気はしないと思う。
「何だよ。あいつ、なんか粘着質な感じだったし、今後付きまとわれることを思えば良かったんじゃねーの?」
「そ、そうだけど……」
「それより、あいつに何もされてないか?」
和人は、心配そうに私を見つめてくる。
どうしたんだろう?
さっきから、私は変だ。
和人の切れ長の瞳に見られてるだけなのに、なんか異様にドキドキする。
「だ、大丈夫だよ。それより、離して……」
未だに和人は私の肩に腕をまわして、身体を密着させていた。
もし真理恵に見られたら、最近そればっかり考えているけれど、この状況で気にせずに居られるわけがない。
「ああ、悪い」
パッと私から距離を取るように離れる。どことなくぎこちない和人の動作に、ちょっと冷たく言い過ぎたかなと反省した。
和人に助けてもらったというのに、これじゃあ恩を仇で返しているみたいだ。
「ごめんね。ところで、何で和人がここに?」
「昼練してたときにあいつに連れて行かれる未夢が見えて、何となく嫌な予感がしてあとを追ったんだ。やっぱり、来て正解だったな」
ふぅ、と和人は小さく息を吐き出す。
言われて見れば、和人の格好はバスケ部の練習着のタンクトップとハーフパンツ姿だ。
私が本当に困ったとき、和人は昔からいち早く私の前に現れて、いつも助けてくれるんだ。
「そっか、ありがとう」
「ってか最近、未夢、俺にそっけなくね?」
和人に思わぬ言葉をもらって、内心びくりとする。
やっぱり少なからず態度に出てしまっていたのだろう。
「え、そうだっけ?」
「そうだって。何か今もだけど、よそよそしくね? 俺、何かしたか?」
確かに最近の私は、自分でもおかしいと思うくらいに和人のことを意識している。和人に私の違和感に気づくなっていう方が無理があったのかもしれない。
でも、本当の理由は和人に悟られちゃダメだ。
隠し通さなければならない。
「ううん、そんなことないよ。和人の気のせいじゃない?」
「そうか? まぁ何かあったらすぐに言えよ。俺でよければ力になるからさ」
ふわりと私の頭を撫でてくれる、大きな手。
和人は優しい。
「……うん」
だけど、私がいつまでも和人に甘えていたら、きっと真理恵は良く思わないよね。きっと、和人の優しさからも卒業した方がいいんだ。
そう思うと、胸がかつてないくらいに苦しくなった。
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