47 / 59
7.繋がる想い
(4)
しおりを挟む
「紗和……?」
そのとき、私のすぐそばにいた誰かが私の名前を呼んだ。
声の聞こえた方向に振り向いて、視界に映った人物に思わず目を見開くとともに、全身の力が一気に抜けたようだった。
そこには、思い出した記憶の中にある姿よりもずっと頼もしい大人の姿になった彼がいたのだから。
私が今、一番会いたいと思っていた亮也の姿だ。
「良かった……」
また私のせいで大きな傷を負ったり、それ以上に酷い状態になっていたらと思うと気が気じゃなかったけれど、いつもと変わらない副社長としての亮也の姿がそこにあって、思わず安堵する。
その瞬間、涙がこめかみの方に伝っていくのがわかった。
「それはこっちのセリフだよ。今度こそきみが俺の前から本当に居なくなってしまうと思ったら、とても平常心ではいられなかった」
「本当にごめんなさい。怪我は……?」
「意識を失ってしまってたから心配したが、どこにも異常はないそうだ。あのとき、きみが俺に手を伸ばしてくれたから、間一髪できみをあのトラックの前から引っ張り出せたんだ」
「私じゃなくて、亮也は?」
「俺は、どこも怪我はないから。心配する必要はない……」
思わず“亮也”と呼んでしまった私に、彼は驚きと戸惑いの入り交じったような表情を浮かべる。
何とか私の問いかけにこたえた彼は、私の両肩に手を添えて、私を真っ直ぐに見つめた。
「紗和。まさかとは思うが、もしかして何か思い出したのか?」
「……はい。すみません。私が高校生のとき、命がけで助けていただいたのに忘れてしまっていたなんて……。副社長には本当に良くしていただいたのに。今回は副社長に怪我がなかったからよかったものの、私、高校生のときから全然成長してないですね。また同じことを繰り返してしまって、本当に申し訳ありませんでした」
さっきは夢の余韻もあって思わず昔呼んでた呼び方で呼んでしまったけれど、今の私の立ち位置を思い直して、副社長である亮也に深く頭を下げる。
「何かしこまってるの。思い出したんだろ? 呼び方も仕事以外では亮也でいいし、堅苦しい言葉遣いももういいから」
亮也はそう言って、優しく私の頭を撫でてくれる。
「紗和は高校生のときに遭った事故のショックで、俺と付き合う少し前くらいから事故までの記憶がすっぽり抜けてしまってたんだ。もちろん俺のことも。だから自分を責める必要はない。仕方なかったんだ」
「亮也は覚えてくれてたんだよね。最初から、私のことを」
「まぁ。騙してたみたいな形になったのは悪かったと思ってる。でも、それでもまた紗和と一緒に居たかったんだ」
「……本当に?」
「ああ。それなのに上手くいかなくて、結局今度はきみを傷つけて、また危ない目に遭わせてしまった」
それは、亮也が悪いんじゃない。
過去の事故も今回の事故も、私の不注意が起こしたものだ。
私は何とか手を伸ばしたところにあった亮也の片手を取り、両手で包み込んだ。
亮也の手は昔と変わらず大きくて、温かくて、こうして手を取ると懐かしい気持ちと愛しい気持ちでいっぱいになって、堪らなくなる。
「亮也は悪くないよ。全部、私のせい。昔も今も、私の注意不足が原因だよ。一度どころか二度までも、亮也のことを巻き込んでしまってごめんなさい」
だから、亮也は何も悪く思わないでほしい。
そして私は自分が無知だったために、どれだけ勘違いして亮也に当たってしまっていたかを、素直に亮也に告げる。
「私、今の亮也のことも好きなの。だから、亮也の“大切な人”の存在が気になって、あんなことを言ってしまって、事故にまで……」
全てを思い出した今ならわかる。
亮也の“大切な人”は私だったんだって。
私があんな風に取り乱す必要なんてなかったんだって。
「いいんだ、もう。紗和が無事だったんだからそれでいい。それより……」
亮也はそう言うと、一気に私との距離を縮めてくる。
「今の話。紗和は記憶がない状態でも、俺のことを好きになってくれてたって思ってもいいってこと?」
「そうだよ、好きだよ」
だから私は、亮也の“大切な人”の存在に嫉妬してしまったんだ。
嫉妬して、自分には敵わないって決めつけて……。
そのとき、私のすぐそばにいた誰かが私の名前を呼んだ。
声の聞こえた方向に振り向いて、視界に映った人物に思わず目を見開くとともに、全身の力が一気に抜けたようだった。
そこには、思い出した記憶の中にある姿よりもずっと頼もしい大人の姿になった彼がいたのだから。
私が今、一番会いたいと思っていた亮也の姿だ。
「良かった……」
また私のせいで大きな傷を負ったり、それ以上に酷い状態になっていたらと思うと気が気じゃなかったけれど、いつもと変わらない副社長としての亮也の姿がそこにあって、思わず安堵する。
その瞬間、涙がこめかみの方に伝っていくのがわかった。
「それはこっちのセリフだよ。今度こそきみが俺の前から本当に居なくなってしまうと思ったら、とても平常心ではいられなかった」
「本当にごめんなさい。怪我は……?」
「意識を失ってしまってたから心配したが、どこにも異常はないそうだ。あのとき、きみが俺に手を伸ばしてくれたから、間一髪できみをあのトラックの前から引っ張り出せたんだ」
「私じゃなくて、亮也は?」
「俺は、どこも怪我はないから。心配する必要はない……」
思わず“亮也”と呼んでしまった私に、彼は驚きと戸惑いの入り交じったような表情を浮かべる。
何とか私の問いかけにこたえた彼は、私の両肩に手を添えて、私を真っ直ぐに見つめた。
「紗和。まさかとは思うが、もしかして何か思い出したのか?」
「……はい。すみません。私が高校生のとき、命がけで助けていただいたのに忘れてしまっていたなんて……。副社長には本当に良くしていただいたのに。今回は副社長に怪我がなかったからよかったものの、私、高校生のときから全然成長してないですね。また同じことを繰り返してしまって、本当に申し訳ありませんでした」
さっきは夢の余韻もあって思わず昔呼んでた呼び方で呼んでしまったけれど、今の私の立ち位置を思い直して、副社長である亮也に深く頭を下げる。
「何かしこまってるの。思い出したんだろ? 呼び方も仕事以外では亮也でいいし、堅苦しい言葉遣いももういいから」
亮也はそう言って、優しく私の頭を撫でてくれる。
「紗和は高校生のときに遭った事故のショックで、俺と付き合う少し前くらいから事故までの記憶がすっぽり抜けてしまってたんだ。もちろん俺のことも。だから自分を責める必要はない。仕方なかったんだ」
「亮也は覚えてくれてたんだよね。最初から、私のことを」
「まぁ。騙してたみたいな形になったのは悪かったと思ってる。でも、それでもまた紗和と一緒に居たかったんだ」
「……本当に?」
「ああ。それなのに上手くいかなくて、結局今度はきみを傷つけて、また危ない目に遭わせてしまった」
それは、亮也が悪いんじゃない。
過去の事故も今回の事故も、私の不注意が起こしたものだ。
私は何とか手を伸ばしたところにあった亮也の片手を取り、両手で包み込んだ。
亮也の手は昔と変わらず大きくて、温かくて、こうして手を取ると懐かしい気持ちと愛しい気持ちでいっぱいになって、堪らなくなる。
「亮也は悪くないよ。全部、私のせい。昔も今も、私の注意不足が原因だよ。一度どころか二度までも、亮也のことを巻き込んでしまってごめんなさい」
だから、亮也は何も悪く思わないでほしい。
そして私は自分が無知だったために、どれだけ勘違いして亮也に当たってしまっていたかを、素直に亮也に告げる。
「私、今の亮也のことも好きなの。だから、亮也の“大切な人”の存在が気になって、あんなことを言ってしまって、事故にまで……」
全てを思い出した今ならわかる。
亮也の“大切な人”は私だったんだって。
私があんな風に取り乱す必要なんてなかったんだって。
「いいんだ、もう。紗和が無事だったんだからそれでいい。それより……」
亮也はそう言うと、一気に私との距離を縮めてくる。
「今の話。紗和は記憶がない状態でも、俺のことを好きになってくれてたって思ってもいいってこと?」
「そうだよ、好きだよ」
だから私は、亮也の“大切な人”の存在に嫉妬してしまったんだ。
嫉妬して、自分には敵わないって決めつけて……。
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!
むらさ樹
恋愛
娘を嫁に出そうと、お見合い写真を送り続けている母
それに対し、心に決めた男性と同棲中の娘
「最後にこのお見合いをしてダメだったら、お母さんもう諦めるから」
「本当!?」
と、いう事情で
恋人には内緒でお見合いに応じた娘
相川 優
ところが、お見合い相手の男性はなんと年商3億の社長さん
「私の事なんて早く捨てちゃって下さい!」
「捨てるだなんて、まさか。
こんなかわいい子猫ちゃん、誰にもあげないよ」
彼の甘く優しい言動と、優への強引な愛に、
なかなか縁を切る事ができず…
ふたりの馴れ初めは、
“3億円の強盗犯と人質の私!?”(と、“その後のふたり♡”)
を、どうぞご覧ください(^^)
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
同居人の一輝くんは、ちょっぴり不器用でちょっぴり危険⁉
朝陽七彩
恋愛
突然。
同居することになった。
幼なじみの一輝くんと。
一輝くんは大人しくて子羊みたいな子。
……だったはず。
なのに。
「結菜ちゃん、一緒に寝よ」
えっ⁉
「結菜ちゃん、こっちにおいで」
そんなの恥ずかしいよっ。
「結菜ちゃんのこと、どうしようもなく、
ほしくてほしくてたまらない」
そんなにドキドキさせないでっ‼
今までの子羊のような一輝くん。
そうではなく。
オオカミになってしまっているっ⁉
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
如月結菜(きさらぎ ゆな)
高校三年生
恋愛に鈍感
椎名一輝(しいな いつき)
高校一年生
本当は恋愛に慣れていない
。・.・*.・*・*.・。*・.・*・*.・*
オオカミになっている。
そのときの一輝くんは。
「一緒にお風呂に入ったら教えてあげる」
一緒にっ⁉
そんなの恥ずかしいよっ。
恥ずかしくなる。
そんな言葉をサラッと言ったり。
それに。
少しイジワル。
だけど。
一輝くんは。
不器用なところもある。
そして一生懸命。
優しいところもたくさんある。
そんな一輝くんが。
「僕は結菜ちゃんのこと誰にも渡したくない」
「そんなに可愛いと理性が破壊寸前になる」
なんて言うから。
余計に恥ずかしくなるし緊張してしまう。
子羊の部分とオオカミの部分。
それらにはギャップがある。
だから戸惑ってしまう。
それだけではない。
そのギャップが。
ドキドキさせる。
虜にさせる。
それは一輝くんの魅力。
そんな一輝くんの魅力。
それに溺れてしまう。
もう一輝くんの魅力から……?
♡何が起こるかわからない⁉♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる