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4.触れない唇
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翌朝、結局明け方まで眠れなかった私は眠りに就いた瞬間に目覚ましが鳴るという事態に陥り、完全に寝不足になってしまった。
副社長にはきっと私は早くから寝落ちしてしまっていることになっているだろうから、最低限隈だけはファンデーションで目立たなくしておいた。
見た目はなんとかごまかせても、やっぱり寝不足の身体はいつものようにはついていかない。
いつも通りに動いているつもりでも、自然と身体の動きが遅くなるのか時間ばかりが早く過ぎていくように感じた。
今朝のメニューは、トースト、サラダ、ベーコンエッグとオニオンスープだ。
ある程度昨日の晩に下ごしらえを進めておいて本当に良かった。
おかげで、副社長が起きてくるギリギリの時間には何とか全部ダイニングテーブルに並べることが出来た。
「おはよう」
ダイニングテーブルの前で朝食を作るという一仕事を終えてホッとしているところで、副社長の声がリビングの中に入ってきて、思わず肩をビクつかせてしまう。
どうしよう。これじゃあ動揺してるって丸わかりだというのに……。けれど、どんな顔をして副社長と会えばいいのかわからない。
「おはようございます……」
なるべく平常心を装って挨拶を返す。
副社長はいつもと何も変わった様子はなく、片手に持っていた新聞をラックに立てている。
まるで昨夜の出来事は全て夢だったのかと思ってしまう。
副社長がダイニングテーブルの椅子に手をかけたとき、不意に私を見た。
「昨夜のことだが……」
ドキン、と今までにないくらいに心臓が強く音を立てた。
このあと、何を言われるのだろう?
あのキスのことだろうか、それとも……?
ドキンドキンと胸が痛くなるくらいに鳴る心臓の音を聞きながら、副社長の次の言葉を待つ。
「ここで突っ伏して寝てたみたいだから、俺がベッドに運んだから」
「あ……っ! すみませんでした。昨日は副社長の帰りも待たずにこんなところで。本当にありがとうございます」
副社長の顔を見た瞬間に、頭の中が昨夜副社長に抱きしめられたことと、額にキスされたことで一杯になってしまってすっかり抜け落ちてしまっていた。
冷静に考えれば、昨日ここで眠ったしまっていた私を運んでくれた副社長に謝るべきだというのに……。
「別に俺は構わないが。あんな風に無防備に寝てたら、他の男だったら木下さんのこと襲ってるかもな」
「……えっ!?」
「俺も男だってこと、忘れないで」
「はい……」
そう言った副社長の目があまりに色っぽくて、私は目をそらすことができなかった。
副社長は何を思って、昨夜はあんなことをしてきたのだろう?
だけど、当然ながら副社長がそのこたえを言ってくれることはない。
「まぁそれはさておき、風邪引くから気をつけろよ」
「すみません……」
もちろん私を抱きしめてきたことや額にキスしたことについても一切触れることなく、副社長は椅子に腰かけた。
それも当然だ。副社長には、あのとき私は寝ていたことになっているのだから。同じ理由で、私からあのときのことを詳しく聞くこともできない。
親友の妹を傷つけるようなことはしない、と一緒に住み始めるときに言ってた副社長だけど、昨日のは何だったのだろう?
副社長が私に無理やり何かをしてくるような人には思えない。
昨夜は副社長は飲んで帰って来てたのだろうから、ただ単に酔っていただけというやつなのだろうか?
そのあと一緒に朝食を食べて、別々に出社して一緒に仕事をした。その間、副社長は完全に通常運転だったしそれ以上昨夜のことが話題にのぼることはなかった。
副社長にはきっと私は早くから寝落ちしてしまっていることになっているだろうから、最低限隈だけはファンデーションで目立たなくしておいた。
見た目はなんとかごまかせても、やっぱり寝不足の身体はいつものようにはついていかない。
いつも通りに動いているつもりでも、自然と身体の動きが遅くなるのか時間ばかりが早く過ぎていくように感じた。
今朝のメニューは、トースト、サラダ、ベーコンエッグとオニオンスープだ。
ある程度昨日の晩に下ごしらえを進めておいて本当に良かった。
おかげで、副社長が起きてくるギリギリの時間には何とか全部ダイニングテーブルに並べることが出来た。
「おはよう」
ダイニングテーブルの前で朝食を作るという一仕事を終えてホッとしているところで、副社長の声がリビングの中に入ってきて、思わず肩をビクつかせてしまう。
どうしよう。これじゃあ動揺してるって丸わかりだというのに……。けれど、どんな顔をして副社長と会えばいいのかわからない。
「おはようございます……」
なるべく平常心を装って挨拶を返す。
副社長はいつもと何も変わった様子はなく、片手に持っていた新聞をラックに立てている。
まるで昨夜の出来事は全て夢だったのかと思ってしまう。
副社長がダイニングテーブルの椅子に手をかけたとき、不意に私を見た。
「昨夜のことだが……」
ドキン、と今までにないくらいに心臓が強く音を立てた。
このあと、何を言われるのだろう?
あのキスのことだろうか、それとも……?
ドキンドキンと胸が痛くなるくらいに鳴る心臓の音を聞きながら、副社長の次の言葉を待つ。
「ここで突っ伏して寝てたみたいだから、俺がベッドに運んだから」
「あ……っ! すみませんでした。昨日は副社長の帰りも待たずにこんなところで。本当にありがとうございます」
副社長の顔を見た瞬間に、頭の中が昨夜副社長に抱きしめられたことと、額にキスされたことで一杯になってしまってすっかり抜け落ちてしまっていた。
冷静に考えれば、昨日ここで眠ったしまっていた私を運んでくれた副社長に謝るべきだというのに……。
「別に俺は構わないが。あんな風に無防備に寝てたら、他の男だったら木下さんのこと襲ってるかもな」
「……えっ!?」
「俺も男だってこと、忘れないで」
「はい……」
そう言った副社長の目があまりに色っぽくて、私は目をそらすことができなかった。
副社長は何を思って、昨夜はあんなことをしてきたのだろう?
だけど、当然ながら副社長がそのこたえを言ってくれることはない。
「まぁそれはさておき、風邪引くから気をつけろよ」
「すみません……」
もちろん私を抱きしめてきたことや額にキスしたことについても一切触れることなく、副社長は椅子に腰かけた。
それも当然だ。副社長には、あのとき私は寝ていたことになっているのだから。同じ理由で、私からあのときのことを詳しく聞くこともできない。
親友の妹を傷つけるようなことはしない、と一緒に住み始めるときに言ってた副社長だけど、昨日のは何だったのだろう?
副社長が私に無理やり何かをしてくるような人には思えない。
昨夜は副社長は飲んで帰って来てたのだろうから、ただ単に酔っていただけというやつなのだろうか?
そのあと一緒に朝食を食べて、別々に出社して一緒に仕事をした。その間、副社長は完全に通常運転だったしそれ以上昨夜のことが話題にのぼることはなかった。
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