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第3章

聖なる夜(2)

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「でも、桃華のお父さんもお母さんも心配するだろ?」


 しかし、桃華は一向に拓人から離れようとしない。


「もーもーかっ?」

 拓人がそっと桃華の肩を揺さぶる。


「……今夜、拓人の家、泊まってもいい?」


「え……?」


「……やっぱり、ダメ?」


「いや、俺は構わねぇけど、桃華の家の人が何て言うか……」


 さすがに桃華の両親から信頼のある拓人でも、男の家に泊まるとなると、無理って言われるだろうなと拓人は感じた。


「……私、お願いしてくる。ちょっと待ってて」

 桃華はそう言うと、家の中に入って行った。


 拓人はしばらく1人静かな車内で、言われた通り桃華を待つ。


 なかなか帰って来ないあたりだと、やっぱり反対されてるんだろうな、と拓人は感じた。



 しばらくして、桃華の家の扉が開く音がした。


「拓人ーっ! 良いって言われたぁ」

 そう言って小さなボストンバッグを抱えて再び車に乗り込む桃華に、拓人は驚きを隠せない。


「えぇっ!? マジで!?」
(何てお願いしたんだよ……)


「あ、もしかして、迷惑だった……?」

 今更のようにシュンとする桃華。


「そんな訳ねぇだろ? 俺も、嬉しいよ」

 拓人は少しはにかんで言うと、静かに車を発進させた。


 拓人の家に着き、拓人の部屋に通される桃華。


「拓人の家っていつ来ても広いね~」


「そうか? まぁ、元々父さんがこの辺りの地主だったらしいからな」


 部屋の隅に荷物を置く桃華に、拓人が言う。


「俺、風呂入れてくるわ」


「えっ? う、うん」


 拓人の部屋に1人残される桃華。


 改めて1人になって考えると、この部屋にはもう何回も足を運んでいるけれど、お泊りは初めてな訳で……


 桃華は初めて過ごす拓人との夜を想像して、頬をピンクに染めた。

(や、やっぱり……、エッチとか、しちゃうのかな……)


 マキとそういう話題が出たのもあり、1人興奮する桃華。

(わ、私ったら何考えてるんだろ……。そういうつもりでワガママ言ったみたいじゃない)





 ──ガチャ。



「桃華、これな……」


「きゃあぁっ!? ……あ、ごめんなさ……」


 突然戻って来た拓人に、桃華は思わず飛び上がってしまった。


 拓人は柔らかい笑みを浮かべ、桃華に淡いピンクのバスタオルを渡す。


「驚かせてごめんな。これ、良かったら使って」


「わわっ! あ、ありがとうぅ……」

 桃華の挙動不審さはさすがに拓人も気になった。


「どうした、桃華?」

 桃華の顔を心配そうに覗き込む拓人に、さすがに桃華は今までの恥ずかしい妄想を話せる訳もなく

「ううん。何でもない。大丈夫」

 と恥ずかしそうに首を横に振った。




 桃華がお風呂を済ませて部屋に戻ると、拓人は桃華手作りのシュトーレンを頬張っていた。


「桃華、これすげぇ美味い」


「えっ!? ほ、本当?」


「おぅ! 今まで食った食い物の中で1番美味いと思う」


(もう、拓人ったら、大げさなんだから……)

 桃華は顔をほころばせながら、拓人の隣に腰を下ろす。


「桃華も食べる?」


「えっ!? ううん。私、歯磨きしちゃったし」


「そうか。じゃあ俺も風呂入ってくるわ。桃華も疲れただろうし、あれだったら先寝ててくれていいからな」


 拓人はシュトーレンの残りを綺麗に箱に片付けると、部屋を後にした。


(あれ……? なんか、拓人、素っ気ない?)
特別冷たい言葉を浴びせられた訳ではない。

 夜もだいぶ遅くなっているからだろう。桃華を気遣うような言葉だった。


 桃華は何となく寂しい気持ちになりながら、拓人のベッドの中に潜り込んだ。


 頭まで布団を被り、大きく息を吸う。

(わぁ、拓人の香りがする……)

 全身が拓人の香りに包まれた桃華は、そっと目をつむる。

(何だか、拓人に抱きしめられてるみたい……幸せ……)
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