上 下
108 / 115
第7章

結婚前夜(2)

しおりを挟む
 桃華の中にいろんな思いが駆け巡り、溢れそうになる涙を堪えきれなくなり、箸を止める。



「桃華……?」


 桃華の父親も母親も驚いた様子で桃華を見つめる。


「お父さん……。お母さん……」


 と言葉を漏らすのみで、ポロポロと涙をこぼす桃華に、「あらあら」と桃華の母親は桃華の傍に来て、そっと桃華を抱きしめた。



 そして、母親にぎゅうっとしがみつく桃華に、母親はゆっくり口を開いた。


「桃華、お父さんもお母さんも嬉しいのよ。だって、明日は桃華の結婚式。桃華の晴れ舞台なのよ。


健康で丈夫な子どもに産んであげられなくて、いっぱい辛い思いや我慢をさせちゃってごめんなさい。


桃華が無事こうして大きくなって、成人して、結婚する、これ以上に嬉しいことなんてないわ。ねぇ、お父さん」


 桃華の父親も桃華の頭に手を添え、口を開く。


「そうだぞ、桃華。
嬉しい気持ちとともに、新しい生活への不安もあるだろう。


でも、拓人くんなら安心して桃華を任せられる。


彼は職業柄、正直言うと初めは不安だった。


でも桃華が1番よく分かってるだろうけど、彼は、どんなに忙しくても桃華との時間を大切にしてくれる男性だ。


それに、桃華の身体のことも理解してくれて、桃華にどんな運命が待っていても、受け入れる覚悟までしてくれている。


なかなかあそこまで強い眼差しで意思を示す人はそういない。


彼の気持ちは生半可なものではない。きっと何があっても、桃華を幸せにしてくれると信じてる。


だから、安心して拓人くんのところへ行きなさい。


お父さんたちはいつでもこの家に居るから、寂しくなったり何か困ったことがあったら、いつでも会いに来てくれたらいい」


 桃華はわぁっと子どものように声を上げて泣いた。


 両親に甘えられる最後の日のように感じて、桃華は思いっきり甘えた。



 たくさん泣いて、たくさん両親の愛を感じて、落ち着きを取り戻した桃華は、少し恥ずかしそうにうつむくと、用意していたプレゼントを差し出した。


 父親にはネクタイ、母親には可愛らしいデザインのエプロン。


 どちらも、桃華が今までの感謝の気持ちを込めて一生懸命選んだ贈り物。



「ここまで大切に育ててくれて、ありがとう。


重い病気だったのに、見捨てないでくれてありがとう。


いっぱい苦労とかお金とかかかる子どもだったのに、本当に……ありがとう」


 桃華なりの精一杯の感謝の言葉だった。


 再び大粒の涙をこぼす桃華。


 桃華の父親も母親も目にいっぱい涙を浮かべて、目の前で涙を流しながら感謝の言葉を述べる桃華に言う。


「お父さんたちはな、桃華が少しでも元気に幸せになってくれることが1番なんだ。


桃華が幸せになる、それが1番の親孝行だ。


だから桃華、拓人くんと幸せになるんだぞ」


 桃華はコクコクと力強く頷きながら涙を拭うと


「……うんっ!」


 と力強く返事を返した。


 そして、

「私、お父さんとお母さんの子どもとして、桃華として生まれて来て、本当に良かった……ありがとう……」

 と言い、父親と母親の手をぎゅっと握った。




 泣いても笑っても、明日はいよいよ結婚式。


 拓人との幸せな未来を描きながら。


 拓人との今までを振り返りながら。


 桃華はその夜はゆっくり眠りに就いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】悪女のなみだ

じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」 双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。 カレン、私の妹。 私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。 一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。 「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」 私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。 「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」 罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。 本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...