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第7章
あの頃の気持ち(1)
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季節は早いもので、冬へと移り変わり、あっという間に新年を迎えた。
年末年始はNEVERの活動も忙しく、テレビの向こうのTAKUを見つめる日の方が多かったが、拓人とはメッセージや電話で小まめに連絡は取り合っていた。
いつの間にか、願い叶え隊での仕事にも慣れた桃華。
そんな中、桃華にとって初めてのボランティアの講演の依頼が舞い降りた。
「桃華ちゃん、ちょっと急だけど、今月末の病院主催のイベントの勉強会で簡単な講演をお願いできるかしら?」
「講演……ですか?」
唐突な新井の発言に、桃華は最近やっと扱いに慣れたパソコンで書類を作成する手を止める。
「そうよ。この病院の職員の方たちにね、今の桃華ちゃんの気持ちを伝えて欲しいの」
「え……」
確かにボランティアの講演をお願いをすることもあるとは聞いていたけれど、あまりに唐突な依頼に桃華は戸惑いを隠せない。
第一、桃華はほとんど人前で話したことがなかったのだ。
「病院での小さな講演だし、そんなに重く考えないで。
桃華ちゃんが人前で話すのに慣れるのが1番の目的だから、ね?」
「は、はい。すみません……」
「桃華ちゃんの移植手術前の生活と、移植手術後の生活について話してくれたらいいから」
新井は桃華に大丈夫と言わんばかりの笑みを浮かべる。
(そんな簡単に言われても……)
桃華は新井の勢いに勝てるはずもなく引き受けたが、思わず肩を落とした。
話したいことが無い訳ではない。
伝えたいことが無い訳ではない。
むしろ、たくさんありすぎるくらいだ。
でも、今まであまりそういった経験の少なかった桃華にとっては、酷く難しいことのように感じた。
講演会の依頼を受けてから数日後。拓人はオフを利用して、桃華の家に来てくれていた。
「このイベントか? 桃華が講演会をするっていうのは」
拓人は桃華から手渡されたプリントを見ながら言う。
「うん……。なんか、上手く話がまとまらなくて……」
桃華は手元の温かいお茶を見つめる。
「でも新井さんがそう言ったんなら、本当に桃華の体験談みたいなんでいいんじゃないか?」
「でも……」
「飾らない、ありのままの桃華の“想い”みたいなのを伝えられたらいいんじゃねぇかな?」
「ありのままの想い……か」
拓人はスッと立ち上がる。
「えっ!?」
「ちょっと来いよ」
不思議そうな表情を浮かべる桃華をよそに、優しく微笑んだ拓人は桃華を連れて家を出た。
そして2人、拓人の黒い車に乗り込む。
「ちょっとっ!? 拓人!? どこ行くの?」
「桃華の友達のところ?」
拓人の言葉に、桃華は少し首を捻る。
「……ユウくん?」
「違ぇーよっ!! 桃華が、もう何年も会ってない奴」
(ユウくん以外の友達? しかも何年も会ってない……)
桃華はパッと思い浮かばず、頭を悩ませた。
拓人はそんな桃華を見て、「着いたら分かるよ」とククッと笑った。
少し田舎道の方へ車を走らせること30分。
綺麗な木々に囲まれた駐車場に拓人は車を止める。
小さな昔ながらの小屋が隅に立っていて、向こうに歩く年配の女性は花と桶を持っている。
「お墓……?」
桃華は不思議そうな顔をする。
そう。拓人はジュンの眠る墓地に桃華を連れてきたのだ。
「桃華、何だかんだでジュンの墓参り行けてねぇって前に言ってたろ?」
「そうだけど……なんで今?」
驚きを隠せない桃華を、そっと胸に抱き寄せる。
「あいつは、桃華が入退院を繰り返してた頃の友達だったんだろ?
墓参りに来るとな、自然とその人が生きてた頃の記憶が蘇るだろ?
一緒に辛い入院生活を過ごしたことのあるジュンに会いに来れば、昔の桃華の想いみたいなのを整理できるんじゃねぇかなって思ったんだ」
「そうね……」
「桃華も今の生活になってだいぶ経つ。忘れてしまってることもたくさんあるだろうし」
拓人は優しく桃華の頭を撫でると、「行くぞ」と声をかけた。
年末年始はNEVERの活動も忙しく、テレビの向こうのTAKUを見つめる日の方が多かったが、拓人とはメッセージや電話で小まめに連絡は取り合っていた。
いつの間にか、願い叶え隊での仕事にも慣れた桃華。
そんな中、桃華にとって初めてのボランティアの講演の依頼が舞い降りた。
「桃華ちゃん、ちょっと急だけど、今月末の病院主催のイベントの勉強会で簡単な講演をお願いできるかしら?」
「講演……ですか?」
唐突な新井の発言に、桃華は最近やっと扱いに慣れたパソコンで書類を作成する手を止める。
「そうよ。この病院の職員の方たちにね、今の桃華ちゃんの気持ちを伝えて欲しいの」
「え……」
確かにボランティアの講演をお願いをすることもあるとは聞いていたけれど、あまりに唐突な依頼に桃華は戸惑いを隠せない。
第一、桃華はほとんど人前で話したことがなかったのだ。
「病院での小さな講演だし、そんなに重く考えないで。
桃華ちゃんが人前で話すのに慣れるのが1番の目的だから、ね?」
「は、はい。すみません……」
「桃華ちゃんの移植手術前の生活と、移植手術後の生活について話してくれたらいいから」
新井は桃華に大丈夫と言わんばかりの笑みを浮かべる。
(そんな簡単に言われても……)
桃華は新井の勢いに勝てるはずもなく引き受けたが、思わず肩を落とした。
話したいことが無い訳ではない。
伝えたいことが無い訳ではない。
むしろ、たくさんありすぎるくらいだ。
でも、今まであまりそういった経験の少なかった桃華にとっては、酷く難しいことのように感じた。
講演会の依頼を受けてから数日後。拓人はオフを利用して、桃華の家に来てくれていた。
「このイベントか? 桃華が講演会をするっていうのは」
拓人は桃華から手渡されたプリントを見ながら言う。
「うん……。なんか、上手く話がまとまらなくて……」
桃華は手元の温かいお茶を見つめる。
「でも新井さんがそう言ったんなら、本当に桃華の体験談みたいなんでいいんじゃないか?」
「でも……」
「飾らない、ありのままの桃華の“想い”みたいなのを伝えられたらいいんじゃねぇかな?」
「ありのままの想い……か」
拓人はスッと立ち上がる。
「えっ!?」
「ちょっと来いよ」
不思議そうな表情を浮かべる桃華をよそに、優しく微笑んだ拓人は桃華を連れて家を出た。
そして2人、拓人の黒い車に乗り込む。
「ちょっとっ!? 拓人!? どこ行くの?」
「桃華の友達のところ?」
拓人の言葉に、桃華は少し首を捻る。
「……ユウくん?」
「違ぇーよっ!! 桃華が、もう何年も会ってない奴」
(ユウくん以外の友達? しかも何年も会ってない……)
桃華はパッと思い浮かばず、頭を悩ませた。
拓人はそんな桃華を見て、「着いたら分かるよ」とククッと笑った。
少し田舎道の方へ車を走らせること30分。
綺麗な木々に囲まれた駐車場に拓人は車を止める。
小さな昔ながらの小屋が隅に立っていて、向こうに歩く年配の女性は花と桶を持っている。
「お墓……?」
桃華は不思議そうな顔をする。
そう。拓人はジュンの眠る墓地に桃華を連れてきたのだ。
「桃華、何だかんだでジュンの墓参り行けてねぇって前に言ってたろ?」
「そうだけど……なんで今?」
驚きを隠せない桃華を、そっと胸に抱き寄せる。
「あいつは、桃華が入退院を繰り返してた頃の友達だったんだろ?
墓参りに来るとな、自然とその人が生きてた頃の記憶が蘇るだろ?
一緒に辛い入院生活を過ごしたことのあるジュンに会いに来れば、昔の桃華の想いみたいなのを整理できるんじゃねぇかなって思ったんだ」
「そうね……」
「桃華も今の生活になってだいぶ経つ。忘れてしまってることもたくさんあるだろうし」
拓人は優しく桃華の頭を撫でると、「行くぞ」と声をかけた。
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