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第4章

仕上げ(2)

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「へぇ。絶好調じゃん」


 いつの間にか桃華の後ろに居たユウスケに耳元でそう言われ、桃華は思わずビクッと飛び上がった。


「わわっ!? びっくりしたぁ!?」


「モモ、驚きすぎ~」


 ユウスケはいつものようにお腹を抱えてケラケラ笑った。


 さっきユウスケの涙を見てしまった桃華は、その姿に少しホッとした。


「その調子で明日も吹けばバッチリだよ。モモは良く頑張ったと思うよ」


「そうかな。ユウくんにそう言ってもらえると、自信出るよ」


「まぁ、俺程じゃないけどね~」


 ユウスケは得意げに笑った。


「もしかしてモモ、この前TAKUと俺のことで揉めて、愛が深まっちゃったとか?」


 ユウスケに見抜かれて、みるみる内に頬が赤く染まる桃華。


「やっぱり! モモのフルートの音聴いたら分かるよ」


「え……っ」


 そしてユウスケは桃華の両肩に両手を添えた。


「明日は頑張ってな。TAKUに嫌なことされたら、いつでも俺のとこ来て良いんだよ」


 最後にそう言って、ユウスケは意地悪な笑みを浮かべる。


「ユ、ユウくん……」


「まぁ何となく、あのまま仲直りして、2人の仲が進展したなら大丈夫だとは思うけど」


 ユウスケはそう笑った後、明日に向けての注意点やアドバイスをいろいろ話してくれた。


 こうして、桃華の拓人への『桃色恋華』は後は本番の明日を控えるのみとなった。



「ここまで来れたのも、ユウくんのおかげだよ。本当にありがとう」


 そう言って、桃華は小さなブルーのラッピング袋に包まれたプレゼントをユウスケに渡す。


「これ、良かったら……」


 一応カレンダーでは、今日がバレンタイン。


 義理だけど、いつもお世話になっているユウスケへの感謝の気持ちを込めて作ったチョコだった。


「え? 俺に……?」


 目を見開いて驚くユウスケに、桃華は少し申し訳なさそうに頷いた。


「モモからもらえるとか! 義理でも失敗作でも嬉しいよ! ありがとうっ!!」


「し、失敗作じゃないもん」
(確かに、義理だけど……)


 桃華の少し怒ったような姿を、ユウスケは本当におかしそうに笑った。



「モモはさ、TAKUにあの曲聴かせた後も、フルート続ける?」


 桃華の心臓が少しだけ反応したような気がした。


「え……、うん」


 そして、桃華の返事に桃華の心臓も微笑んだような感じがした。


 桃華自身、フルートを始めて、いつの間にかフルートを好きになっていた。


 でも、やっぱりそれ以上に桃華の中で感じる物があった。



 フルートを吹く度に感じる、桃華の中のもうひとつの魂。


 桃華に“今”を与えてくれている、心臓。



 自分のためだけじゃなく、自分の中に居るもうひとつの魂のためにも、続けたいって思った。



 ユウスケは桃華の返事に安心したように微笑んだ。


「良かった。そのフルート、もうモモにあげるよ」


「えっ!? で、でも……」


「貸す時にも言ったじゃん! それは卒業した中学にあげる予定でいたフルートだったって。あげる相手をモモに変えただけだよ」


 桃華は何も言い返せず、「ありがとう……」とフルートをギュッと握りしめた。



「そのかわり、モモが卒業するまでは、こうやって一緒にフルート吹こうな?」


 ユウスケは甘えるような瞳で桃華を見つめ、甘えるような声で桃華に言った。


「うん」


 桃華が小さく返事をすると、ユウスケは嬉しそうに笑った。

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