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 ちくしょう、ちくしょう、なんなんだよ一体、俺が何したっていうんだよ。しかも、冤罪だったと判明したのに俺を犯罪者扱いしやがって。

 信じていた友人も、俺のそばから離れて会社もクビになって、俺に残ったのはほんの僅かな貯金だけだ。

 だがこれだけで、生きていくの厳しいのがこの世界の真実だ。もう生きていくのもしんどいし誰も俺のことを求めることはないだろう。だったらいっそのこと死んで来世に期待するしかないのかな?

 だけど俺が死んだことで再び人前に晒されのが嫌だった。なんの関係の無い冤罪のせいでネットなどで、犯罪者として全国に晒されたので死ぬ時くらい誰にも見つからない静かな場所で最後を過ごそうと身の回りを整理して誰も来ないであろう森の奥を目指して歩き出した。

 は~は~と全身から滝のような汗を流しながら森の奥に進んでいく。
 これだけ奥に来たら人なんて誰も来ないだろうな。完全に人の気配は無いし獣道がたまに見つかるくらいだ。
 
 更に奥に進むと、どこからか分からないが苦しそうな声が聞こえてきた。どうにも俺はその声が気になり聞こえてくる方向に向けて足を進める。

「くっく~こーん」鳴き声の先に居たのは全身が血まみれでぐったりと弱りきっていた子狐が一匹いた。

 おいおい今にも死にそうじゃないかよこの狐、こんなに血だらけになって、だけどこいつの目はなんだろう?生きることを諦めず必死に生きようとあがこうとしているのを感じる。
 まるで今の俺とは正反対だな。俺は生きることを諦めてこんな山奥に一人で逃げ出したの対してこいつは必死に血まみれになっても生きようとしている。

 死ぬ前に、いいことしたら来世できっといいことあるかもしれないよな?今ならまだこいつを救ってやることが出来るかもしれない。
 
 俺は体が汚れるのを気にせず、傷ついた子狐を優しく抱きかかえてさっきまで歩いてきた険しい山道を必死に戻り、山を下りたら近くにある動物病院を探してすぐさま向かい治療してもらった。

「衰弱はしていますが治療はしましたので安静にしていればまた元気になるでしょう。しばらくはこちらで預かっておきますので元気になりましたら迎えに来てあげてください」

 助けた子狐は、ギリギリ治療が間に合い命を無事取り留めることができた。あと1時間遅かったら助かったかわからないらしい。
 神様死ぬ前に、いいことしたんだから来世は頼むぜーと祈りつつ、子狐を引き取らなければきっと保健所に連絡がいき再び山に放されるか、殺処分になるかもしれない。せっかく助けた命が消えてしまっては俺の来世への投資が無駄になる。
 結果俺はすぐに死ぬことはできなくなってしまった。
 子狐を引き取り元気になったらまた山に返してそれから死にに行くとしようと改めて考えた。

 その日は一旦家に帰ると慣れない山歩きをしたせいか部屋に着いた途端すぐに眠ってしまった。
 翌日、動物病院から思わぬ連絡が朝早く届く。助けた狐が、朝に来た職員が確認すると忽然と消え去ってしまったというのだ。
 ケージ破壊された形跡も鍵を開けられた形跡もなく摩訶不思議な状況だという。病院からは、管理の甘さを謝罪されたが俺は子狐が無事ならいいなと思ったくらいで特に気にしなかった。まさかこのあと助けた狐と思わぬ形で再開するとはこのときは思いもよらなかった、そして再会すると同時に俺の人生が再び動き出す。


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