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第1章 4歳児、奴隷になる
12. 開幕
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僕が師匠と別れ、蒼龍の間から出てくると、そこには数十人の凶悪そうな男達が待っていました。
「え、えーと?」
僕が首を傾げ、その男達を見回した。
「……」
男達も僕の事を睨みつけている。
あまり雰囲気は良くない。
「あの……すみません」
僕は男達から滲み出る威圧感に負け、思わず頭を下げ謝ってしまった。
「……おい!」
その声に男達は二つに分れ、中央から背の高い細身の男が出てきた。髪は白髪でロングヘア。頭にバンダナを巻き、片目は黒い眼帯。雰囲気から察するに、この集団のリーダーのようだ。黒く陽に焼けた肌のため若くみるが、よくみれば皺も多い。そこそこの年齢なのだろう。
「小僧」
リーダーは僕に向かって静かに話しかけてきた。
「はい」
「お前、なんでその部屋から出てこれた? いや、どうやって入った?」
「え、どうやってって……?」
僕はとりあえず反対側のドアから入って、ここから出て来た事を告げた。雰囲気からドラゴンと特訓をしていた話しはしない方がいいだろうと、直感的に思っていた。
「そこは蒼龍がいるために、国が封印していたはずだ」
「そ、そうだんですか」
僕はチラッと僕の後ろに立っているスンを見て、また視線を戻し、
「黒蜘蛛に追いかけられ、必死に逃げているうちに、いつの間にか部屋みたいな所に立ってました。ドアがこっちにあったので、開けてみたら、みなさんがいて……」
「気持ち悪い話し方をするガキだな」
「へっ?」
あ、そういえば僕はまだ4歳児だった。
「そ、そうかな……へへっ……!」
とりあえず幼児っぽく誤魔化そうとした所に、突然、リーダからの蹴りが飛んできた。
まぁ、師匠に散々鍛えられた僕は、最小限の動きであっさりと避けるけど。
「ボスの蹴りを避けやがった!」
「偶然だろ!」
「いや、見切っていたぞ!」
リーダーじゃなくてボスだったんだね。
一体何の集団かは気になるけど、とりあえず蹴りの速度を見る限り、問題は無い。少なくとも師匠よりは弱い。
「……小僧、お前何者だ?」
「……」
僕は何者なんだろうね。
転生した身としては少し悩んでしまった。だけど、その時間をボスは黙秘と取ったのか、
「まぁ、いい」
あ、返事しなくてもよかったんだ……そう思っていたら、腰に挿していた曲刀を振り上げ、
「依頼は鎧の回収だ、悪いが貰っていく」
そう言って、曲刀を僕の首筋めがけて振り下ろした。
「ほっ」
僕はその攻撃も最小限の動きで躱してみる。そして、ボスに確認をした。
「依頼って、ちなみにジャンユーグさんだったりします?」
「……ああ、そうだ。鎧が消えたって大騒ぎしてな。俺達に依頼があったっていう訳だ」
答えてくれないかなと思ったが、あっさりと顧客の秘密を暴露してくれたよ。
「鎧を回収するために、お前を落とした穴から辿ったんだが、足取りがつかめなくてな」
「はぁ」
「鎧が消える訳はないという事で、今度は表の入り口から探索隊を組んで、ここまで来たっていう訳だ」
救助隊じゃないんだ……まぁ、必要なのは、この鎧だけだって事なんだろうな。知ってたけど。
「ダンジョン内を細かく調べながら来たから、かなり時間が経ってしまったが、ようやく最後のポイントまで来て、封印のため先へ進めず困っていたら、お前が出てきたという訳だ」
こんな事を呑気に話しながらも、ボスは何度も僕に斬り付けてきていた。
「ちなみに、ここまで来るのにどのくらい掛かっているんですか?」
「約1ヶ月だ!」
どうりで皆さん、臭いわけだ。陽に焼けてると思ったけど、もしかして汚れているだけ?
それにしても、師匠は時間が止まっているって言っていたけど、充分に時間が経過しているじゃん! まぁ、体感的には数ヶ月以上は籠もっていたので、別にいいんだけどさ。
とか考えつつ、また斬りかかってきたボスの刃を、さっと避ける。
「くそ! 小さなガキだから気絶させるだけで済ませてやろうと思っていたが、もう構わねぇ! お前ら全員でいくぞ! 殺せ!」
え?
殺されるの?
僕?
僕は後ずさりをして、スンを背中に庇う。
「主様?」
スンが僕の肩に手をかけ、変化するかどうかを聞いてくるが、僕は静かに首を振り断る。根拠はまだ無いが、こいつらが何十人いようと脅威になるとは思えない。なにせついさっき僕は蒼龍に傷を付けてきた男なのだ……男の子だし、付けたのは、かすり傷だけど。
「ちなみに皆さんはどういった集まりで」
それでも僕は確認をした。
僕を殺すっていう相手にも、生活もあるだろうし、家族がいるかもしれない。
「俺達は、この近く一体を取り仕切る山賊ガルハ様と四十七士だ!」
ボスの回りにいた連中がそう叫んだ。
四十七士って、赤穂浪士か!
そう思いながらも、
「山賊って事は……悪い人達でいいんですよね」
僕はそう確認して、心の中の良心スイッチをオフにする。
僕はもう決めていたんだ。
この世界は、日本の価値観で生きていくには危険過ぎる。
僕は僕の思った通りに行動する。もう誰かの勝手な都合に巻き込まれるのは御免だ!って。
「そうだ、悪いおじさん達だ! ぎゃははは!」
最前列にいた一人の山賊がそう言って、自分が持っていた刀を舐める。
うわっ! 漫画の悪役キャラそのものじゃん!
僕はそう思い、とりあえず刀を持っている手を払ってみる。
「ははは……はぁ!?」
「あっ」
刀が飛び、ダンジョンの壁に深々と突き刺さる。
その刀の柄は、きちんと左腕で握られていた。そう、僕が軽く払った山賊の左肘から先が一緒にくっついていたのだ。
「ぎゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ」
その男は悲鳴を上げながら転がり始めた。
僕も思わずやてしまった事に泡を食ってしまう。
「くそ! 野郎ども、本気で行くぞ! こいつは見かけと違う! 化物だ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
うわぁ……ちょっと払っただけなのに、腕が飛んでいった。多少攻撃する意思は籠めたのは確かだけど、それにしてもパワーありすぎじゃないか? 恐るべし、蒼龍の試練。しかし、化物って言われてしまったしなぁ、どうやら僕のことを殺しにかかってくるみたいなので、容赦しなくてもいいって事か。
ただ、さすがに全力はまずいので、
「逃げないなら、手加減しかしないよ!」
そう言って僕は襲ってくる集団に飛び込んでいった。
----- * ----- * ----- * -----
「ふぅ……」
僕は顔についている返り血を振り払った。
「主様、怖い……」
「そうだよね」
一応、動ける人は逃げ出してしまったみたい。
動けない人と、動かなくなった人が、そこら中に散らばっている。
「やっちまった」
周囲を見回し、思わずそう呟いた。
いやぁ……首がありえない方向に曲がっている人もいるし、確実に何人……十人以上はお亡くなりになっているね。
とりあえず、良心スイッチON!
「うわぁぁぁぁ! スン、どうしよう! 僕、人殺しになっちゃった!」
「……主様、生き生きとしていた」
「え……てへ」
ちょっと誤魔化してみる。
いや、たしかに日本人30歳の『俺』としては、取り返しのつかない事をしてしまったっていう事は理解しているんだけど、僕としてで考えてみると、実のところ、大きな感情のブレは無い。むしろ、ようやく自分に降り掛かった火の粉を、自分で打ち消せて満足だ……そういう達成感の方が大きい。
「とりあえず、逃げた奴らを追いかけようか。うまくすれば、ダンジョンを抜け出せるかも」
「ん」
「じゃぁ、行こうか」
そういって、僕は逃げた山賊達を追いかけ始めた。
勿論、全滅させようとか考えていないよ。
逃げた方向が出口だと思うから、向かっているだけだ。なにせあいつらが1ヶ月はかかっていうダジョンだ。適当に動いていたら、土地勘の無い僕では迷い続ける事になりかねない。
「という事で、待てぇ! あははははは」
血の後が結構な数、点々としているので、追いかけるのも楽だ。
さっさとダンジョンを出たいので、プレッシャーをかけるように、声を出しながら僕は駆け出した。
「うわ! もう追いついてきた!」
「逃げろ! 逃げろ! 走れないやつは置いていけ!」
「置いていかないでくれ! 頼む! 頼む!」
「お、俺はここを無事に逃げたら、更生して……げふぅ」
「おい! 死ぬな! 死ぬなぁ!」
まだ20人くらいはいる集団が、僕の声に驚き、必死に走り出した。
すぐに走れなくなって倒れた人もいたが、そんなのは無視して、僕は追いつかないように走り続ける。
「くそ、やってや、ガベっ」
たまに何を勘違いしたか、走るのをやめ、こちらに向かってくる山賊もいるので、それは蹴り飛ばして沈黙させた……ん? 今のは眼帯をしていたような……もしかして、ボスだったのか。蹴った衝撃で上半身と下半身が別々に飛んでいってしまったが……みなかった事にしよう。
「ほら! 逃げないと、ああなっちゃうよ」
「ひぃぃぃ」
涙に鼻水を垂らしながら全力で走る山賊達。
それを笑いながら追いかける4歳児。ちなみにスンも表情を変えずに僕と同じペースで走っている。
「ほら、ほら、ほらぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
----- * ----- * ----- * -----
「そ、外だ!」
「た、助かったんだ!」
「母ちゃん……グス」
結局、最後まで走りきったのは3人の山賊だけだった。
泡を吹いて倒れたり、変な奇声をあげてダンジョンに転がっている岩を舐め始めた奴とかは、全部置いてきた。
とりあえず頑張った3人に背後から労いの声を掛けた。
「お疲れ様です」
「「「ぎゃあぁぁぁぁ! 悪魔が来たぁぁ!」」」
まだ力が残っていたみたいで、僕の方を振り返りもせず、走り出した。だが……
ダンジョンの入り口は険しい山の中腹にあったみたいで、あたりは急な斜面になっていた。そんな所で3人一塊に走り出したものだから、
「転がり落ちた。主様、背後から突然声をかけるのは良くないと思う」
「そうみたいだね。あー。うん、忘れよう」
「ん」
山賊が1ヶ月かけて探索して辿り着いた場所から、だいたい4時間くらいで入り口に戻った……という事は相当ハイペースだったのだろう。多分、15キロ位は走っていたはずだ。
「魔物も随分走りながら倒せたしね」
僕の力だけでは、あれ程苦労した蜘蛛も、素手で一発だった。
猿っぽいの、熊っぽいの、牛っぽいのと、他にも新手が出てきたけど、邪魔なので蹴り飛ばしながら進んできた。
「でも、ずっと走っていたので疲れたかな。それに、久しぶりの……」
僕はそこで身体一杯で伸び上がり、
「空と、おいしい空気!」
めいいっぱい、深呼吸をした。
しばらく堪能した後、自分の強さについてスンと話しをする。
「やっぱり、僕はかなり強くなったんだね」
「主様、冒険者カードを確認する」
「ああ、そうだね」
そういえば、すっかり忘れていたよ。冒険者カードの事。
「ググ、出してみて」
鎧にお願いすると、僕の手元に冒険者カードが現れる。
「さてと……げっ、なんじゃこりゃ」
『
HP(体力):invalid status
MP(魔力):1240,000
PP(力):invalid status
IP(賢さ): 145
DP(素早さ):invalid status
EP(耐久力):invalid status
LP(幸運):0
SP:
』
「スン、これ、どういう事だろう?」
「……問題無い。強くなった」
「問題無い?」
「蒼龍に傷を付ける事が出来る4歳児など存在しない。そういう事」
「基準が4歳児なんだ」
「主様が4歳だから当然」
ステータスって、少し上がって一喜一憂したりするもんじゃないんだ。いきなりステータス無効っていう表示はショックだな。それに何で英語? 疑問は増える。
あと、力や速さはいいんだけど、魔力と賢さはステータス据え置き。運に至ってはゼロって……ゼロって……
「僕、そんなに運が無いのかな」
「あると思う?」
「無いね」
「ん」
まぁ、そんなものだろう。
ここは仕方ないと諦めよう。
「でも、このステータスって相対値みたいな感じだよね。実際の強さは、どうなってしまったの?」
「冒険者カードのステータスをみて、世界が強さを決める」
「世界を誤魔化すって言っていたよね」
「ん」
「じゃぁ、今は誤魔化せた状態?」
「……ん」
スンは僕の質問に答えつつも、あまりこの話を続けたく無さそうにした。
世界を誤魔化すってどういう事だろう。ここは現実の世界で、ゲームの中じゃない。スンはそう言っていた。僕もそうだと思う。これがゲームの世界とは到底思えない。匂いも味も、温もりも、痛みも、全て本物だ。
女子高生だった師匠の事もそうだ。
宿題があるといって、どこかへ消えたりしていた。
この世界はなんだ?
僕はなぜ、転生してきた?
冒険者カードをしまいながら、僕はそんな事を考えていたが、
「主様、今は考える時間じゃない。ほら」
「あ、ああ……」
僕がこの世界について考えようとしたのを逸らされた気もするが、確かにスンが指差したはるか先に大きな都市が見える。
ダンジョンに棄てられた日、僕は麻袋に入れられながら心を閉じていたため、どのくらいの時間、馬車の中にいたのかが解らないが、街の大きさから考えれば、あそこが公都に間違いないだろう。なんか、それっぽい塔なんかも、いくつも見えるし。
ここからだと、かなり距離はありそうだが……
「もうすぐ陽が落ちそうだし、今日は野宿して、明日、公都まで移動する?」
公都に行って、やる事はあるのだが、それほど急ぐ必要も無い。明日でも充分に間に合う。
「明日でいい」
「わかった。それじゃぁ、適当に寝床を作って休みますか」
空を見る限り天気は良さそうだけど、雨に降られたりしても困るので、僕達はダンジョンの入り口に草で寝床を作り、そこで休む事にした。
さて、明日は復讐の時間だ!
「え、えーと?」
僕が首を傾げ、その男達を見回した。
「……」
男達も僕の事を睨みつけている。
あまり雰囲気は良くない。
「あの……すみません」
僕は男達から滲み出る威圧感に負け、思わず頭を下げ謝ってしまった。
「……おい!」
その声に男達は二つに分れ、中央から背の高い細身の男が出てきた。髪は白髪でロングヘア。頭にバンダナを巻き、片目は黒い眼帯。雰囲気から察するに、この集団のリーダーのようだ。黒く陽に焼けた肌のため若くみるが、よくみれば皺も多い。そこそこの年齢なのだろう。
「小僧」
リーダーは僕に向かって静かに話しかけてきた。
「はい」
「お前、なんでその部屋から出てこれた? いや、どうやって入った?」
「え、どうやってって……?」
僕はとりあえず反対側のドアから入って、ここから出て来た事を告げた。雰囲気からドラゴンと特訓をしていた話しはしない方がいいだろうと、直感的に思っていた。
「そこは蒼龍がいるために、国が封印していたはずだ」
「そ、そうだんですか」
僕はチラッと僕の後ろに立っているスンを見て、また視線を戻し、
「黒蜘蛛に追いかけられ、必死に逃げているうちに、いつの間にか部屋みたいな所に立ってました。ドアがこっちにあったので、開けてみたら、みなさんがいて……」
「気持ち悪い話し方をするガキだな」
「へっ?」
あ、そういえば僕はまだ4歳児だった。
「そ、そうかな……へへっ……!」
とりあえず幼児っぽく誤魔化そうとした所に、突然、リーダからの蹴りが飛んできた。
まぁ、師匠に散々鍛えられた僕は、最小限の動きであっさりと避けるけど。
「ボスの蹴りを避けやがった!」
「偶然だろ!」
「いや、見切っていたぞ!」
リーダーじゃなくてボスだったんだね。
一体何の集団かは気になるけど、とりあえず蹴りの速度を見る限り、問題は無い。少なくとも師匠よりは弱い。
「……小僧、お前何者だ?」
「……」
僕は何者なんだろうね。
転生した身としては少し悩んでしまった。だけど、その時間をボスは黙秘と取ったのか、
「まぁ、いい」
あ、返事しなくてもよかったんだ……そう思っていたら、腰に挿していた曲刀を振り上げ、
「依頼は鎧の回収だ、悪いが貰っていく」
そう言って、曲刀を僕の首筋めがけて振り下ろした。
「ほっ」
僕はその攻撃も最小限の動きで躱してみる。そして、ボスに確認をした。
「依頼って、ちなみにジャンユーグさんだったりします?」
「……ああ、そうだ。鎧が消えたって大騒ぎしてな。俺達に依頼があったっていう訳だ」
答えてくれないかなと思ったが、あっさりと顧客の秘密を暴露してくれたよ。
「鎧を回収するために、お前を落とした穴から辿ったんだが、足取りがつかめなくてな」
「はぁ」
「鎧が消える訳はないという事で、今度は表の入り口から探索隊を組んで、ここまで来たっていう訳だ」
救助隊じゃないんだ……まぁ、必要なのは、この鎧だけだって事なんだろうな。知ってたけど。
「ダンジョン内を細かく調べながら来たから、かなり時間が経ってしまったが、ようやく最後のポイントまで来て、封印のため先へ進めず困っていたら、お前が出てきたという訳だ」
こんな事を呑気に話しながらも、ボスは何度も僕に斬り付けてきていた。
「ちなみに、ここまで来るのにどのくらい掛かっているんですか?」
「約1ヶ月だ!」
どうりで皆さん、臭いわけだ。陽に焼けてると思ったけど、もしかして汚れているだけ?
それにしても、師匠は時間が止まっているって言っていたけど、充分に時間が経過しているじゃん! まぁ、体感的には数ヶ月以上は籠もっていたので、別にいいんだけどさ。
とか考えつつ、また斬りかかってきたボスの刃を、さっと避ける。
「くそ! 小さなガキだから気絶させるだけで済ませてやろうと思っていたが、もう構わねぇ! お前ら全員でいくぞ! 殺せ!」
え?
殺されるの?
僕?
僕は後ずさりをして、スンを背中に庇う。
「主様?」
スンが僕の肩に手をかけ、変化するかどうかを聞いてくるが、僕は静かに首を振り断る。根拠はまだ無いが、こいつらが何十人いようと脅威になるとは思えない。なにせついさっき僕は蒼龍に傷を付けてきた男なのだ……男の子だし、付けたのは、かすり傷だけど。
「ちなみに皆さんはどういった集まりで」
それでも僕は確認をした。
僕を殺すっていう相手にも、生活もあるだろうし、家族がいるかもしれない。
「俺達は、この近く一体を取り仕切る山賊ガルハ様と四十七士だ!」
ボスの回りにいた連中がそう叫んだ。
四十七士って、赤穂浪士か!
そう思いながらも、
「山賊って事は……悪い人達でいいんですよね」
僕はそう確認して、心の中の良心スイッチをオフにする。
僕はもう決めていたんだ。
この世界は、日本の価値観で生きていくには危険過ぎる。
僕は僕の思った通りに行動する。もう誰かの勝手な都合に巻き込まれるのは御免だ!って。
「そうだ、悪いおじさん達だ! ぎゃははは!」
最前列にいた一人の山賊がそう言って、自分が持っていた刀を舐める。
うわっ! 漫画の悪役キャラそのものじゃん!
僕はそう思い、とりあえず刀を持っている手を払ってみる。
「ははは……はぁ!?」
「あっ」
刀が飛び、ダンジョンの壁に深々と突き刺さる。
その刀の柄は、きちんと左腕で握られていた。そう、僕が軽く払った山賊の左肘から先が一緒にくっついていたのだ。
「ぎゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ」
その男は悲鳴を上げながら転がり始めた。
僕も思わずやてしまった事に泡を食ってしまう。
「くそ! 野郎ども、本気で行くぞ! こいつは見かけと違う! 化物だ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って」
うわぁ……ちょっと払っただけなのに、腕が飛んでいった。多少攻撃する意思は籠めたのは確かだけど、それにしてもパワーありすぎじゃないか? 恐るべし、蒼龍の試練。しかし、化物って言われてしまったしなぁ、どうやら僕のことを殺しにかかってくるみたいなので、容赦しなくてもいいって事か。
ただ、さすがに全力はまずいので、
「逃げないなら、手加減しかしないよ!」
そう言って僕は襲ってくる集団に飛び込んでいった。
----- * ----- * ----- * -----
「ふぅ……」
僕は顔についている返り血を振り払った。
「主様、怖い……」
「そうだよね」
一応、動ける人は逃げ出してしまったみたい。
動けない人と、動かなくなった人が、そこら中に散らばっている。
「やっちまった」
周囲を見回し、思わずそう呟いた。
いやぁ……首がありえない方向に曲がっている人もいるし、確実に何人……十人以上はお亡くなりになっているね。
とりあえず、良心スイッチON!
「うわぁぁぁぁ! スン、どうしよう! 僕、人殺しになっちゃった!」
「……主様、生き生きとしていた」
「え……てへ」
ちょっと誤魔化してみる。
いや、たしかに日本人30歳の『俺』としては、取り返しのつかない事をしてしまったっていう事は理解しているんだけど、僕としてで考えてみると、実のところ、大きな感情のブレは無い。むしろ、ようやく自分に降り掛かった火の粉を、自分で打ち消せて満足だ……そういう達成感の方が大きい。
「とりあえず、逃げた奴らを追いかけようか。うまくすれば、ダンジョンを抜け出せるかも」
「ん」
「じゃぁ、行こうか」
そういって、僕は逃げた山賊達を追いかけ始めた。
勿論、全滅させようとか考えていないよ。
逃げた方向が出口だと思うから、向かっているだけだ。なにせあいつらが1ヶ月はかかっていうダジョンだ。適当に動いていたら、土地勘の無い僕では迷い続ける事になりかねない。
「という事で、待てぇ! あははははは」
血の後が結構な数、点々としているので、追いかけるのも楽だ。
さっさとダンジョンを出たいので、プレッシャーをかけるように、声を出しながら僕は駆け出した。
「うわ! もう追いついてきた!」
「逃げろ! 逃げろ! 走れないやつは置いていけ!」
「置いていかないでくれ! 頼む! 頼む!」
「お、俺はここを無事に逃げたら、更生して……げふぅ」
「おい! 死ぬな! 死ぬなぁ!」
まだ20人くらいはいる集団が、僕の声に驚き、必死に走り出した。
すぐに走れなくなって倒れた人もいたが、そんなのは無視して、僕は追いつかないように走り続ける。
「くそ、やってや、ガベっ」
たまに何を勘違いしたか、走るのをやめ、こちらに向かってくる山賊もいるので、それは蹴り飛ばして沈黙させた……ん? 今のは眼帯をしていたような……もしかして、ボスだったのか。蹴った衝撃で上半身と下半身が別々に飛んでいってしまったが……みなかった事にしよう。
「ほら! 逃げないと、ああなっちゃうよ」
「ひぃぃぃ」
涙に鼻水を垂らしながら全力で走る山賊達。
それを笑いながら追いかける4歳児。ちなみにスンも表情を変えずに僕と同じペースで走っている。
「ほら、ほら、ほらぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ」
----- * ----- * ----- * -----
「そ、外だ!」
「た、助かったんだ!」
「母ちゃん……グス」
結局、最後まで走りきったのは3人の山賊だけだった。
泡を吹いて倒れたり、変な奇声をあげてダンジョンに転がっている岩を舐め始めた奴とかは、全部置いてきた。
とりあえず頑張った3人に背後から労いの声を掛けた。
「お疲れ様です」
「「「ぎゃあぁぁぁぁ! 悪魔が来たぁぁ!」」」
まだ力が残っていたみたいで、僕の方を振り返りもせず、走り出した。だが……
ダンジョンの入り口は険しい山の中腹にあったみたいで、あたりは急な斜面になっていた。そんな所で3人一塊に走り出したものだから、
「転がり落ちた。主様、背後から突然声をかけるのは良くないと思う」
「そうみたいだね。あー。うん、忘れよう」
「ん」
山賊が1ヶ月かけて探索して辿り着いた場所から、だいたい4時間くらいで入り口に戻った……という事は相当ハイペースだったのだろう。多分、15キロ位は走っていたはずだ。
「魔物も随分走りながら倒せたしね」
僕の力だけでは、あれ程苦労した蜘蛛も、素手で一発だった。
猿っぽいの、熊っぽいの、牛っぽいのと、他にも新手が出てきたけど、邪魔なので蹴り飛ばしながら進んできた。
「でも、ずっと走っていたので疲れたかな。それに、久しぶりの……」
僕はそこで身体一杯で伸び上がり、
「空と、おいしい空気!」
めいいっぱい、深呼吸をした。
しばらく堪能した後、自分の強さについてスンと話しをする。
「やっぱり、僕はかなり強くなったんだね」
「主様、冒険者カードを確認する」
「ああ、そうだね」
そういえば、すっかり忘れていたよ。冒険者カードの事。
「ググ、出してみて」
鎧にお願いすると、僕の手元に冒険者カードが現れる。
「さてと……げっ、なんじゃこりゃ」
『
HP(体力):invalid status
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』
「スン、これ、どういう事だろう?」
「……問題無い。強くなった」
「問題無い?」
「蒼龍に傷を付ける事が出来る4歳児など存在しない。そういう事」
「基準が4歳児なんだ」
「主様が4歳だから当然」
ステータスって、少し上がって一喜一憂したりするもんじゃないんだ。いきなりステータス無効っていう表示はショックだな。それに何で英語? 疑問は増える。
あと、力や速さはいいんだけど、魔力と賢さはステータス据え置き。運に至ってはゼロって……ゼロって……
「僕、そんなに運が無いのかな」
「あると思う?」
「無いね」
「ん」
まぁ、そんなものだろう。
ここは仕方ないと諦めよう。
「でも、このステータスって相対値みたいな感じだよね。実際の強さは、どうなってしまったの?」
「冒険者カードのステータスをみて、世界が強さを決める」
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「ん」
「じゃぁ、今は誤魔化せた状態?」
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スンは僕の質問に答えつつも、あまりこの話を続けたく無さそうにした。
世界を誤魔化すってどういう事だろう。ここは現実の世界で、ゲームの中じゃない。スンはそう言っていた。僕もそうだと思う。これがゲームの世界とは到底思えない。匂いも味も、温もりも、痛みも、全て本物だ。
女子高生だった師匠の事もそうだ。
宿題があるといって、どこかへ消えたりしていた。
この世界はなんだ?
僕はなぜ、転生してきた?
冒険者カードをしまいながら、僕はそんな事を考えていたが、
「主様、今は考える時間じゃない。ほら」
「あ、ああ……」
僕がこの世界について考えようとしたのを逸らされた気もするが、確かにスンが指差したはるか先に大きな都市が見える。
ダンジョンに棄てられた日、僕は麻袋に入れられながら心を閉じていたため、どのくらいの時間、馬車の中にいたのかが解らないが、街の大きさから考えれば、あそこが公都に間違いないだろう。なんか、それっぽい塔なんかも、いくつも見えるし。
ここからだと、かなり距離はありそうだが……
「もうすぐ陽が落ちそうだし、今日は野宿して、明日、公都まで移動する?」
公都に行って、やる事はあるのだが、それほど急ぐ必要も無い。明日でも充分に間に合う。
「明日でいい」
「わかった。それじゃぁ、適当に寝床を作って休みますか」
空を見る限り天気は良さそうだけど、雨に降られたりしても困るので、僕達はダンジョンの入り口に草で寝床を作り、そこで休む事にした。
さて、明日は復讐の時間だ!
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魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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