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第6章 Call your name

57.不撓不屈 vs 戦意喪失

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===== Hitoe =====

「すぐ助けに戻るから、抵抗しないで捕まってなさい!」

 そう言い残し、私は夫とチコを残し子供達と一緒にクロロ神殿の光のカーテンに飛びこんだ。飛び込んだ先は見慣れた自宅である。

「みんないる?」

 リリィとユイカが抱き合って玄関に転がっていた。二人につまずいたのか浩太が靴を履いたまま廊下で転がっている。ミントだけがその先で尻尾をピンと立ててこちらを見ていた。

「大丈夫ね、それじゃ……」

 子供達の無事を確認して私はすぐに光のカーテンからクロロ神殿に戻ろうとする。

「ママ、まだ外には!」

 それは解っているけど、向こうには夫とチコが捕まっている。光のカーテンから用心をしつつ顔を出す。その瞬間に何か黒い影のようなものが顔に向かってきて……

 ガン!

 と、音を立てて砕け散った。

「ひっ、化け物……」

 思わず閉じた目を開けて様子を見ると、黒い鎧を着た兵士が光のカーテンを囲んでいた。私は、そのうちの一人に、どうやら鉄の棒のようなもので殴られたらしい。殴った兵士を睨みつけながら、ゆっくりと光のカーテンから出た。殴った兵士の後ろにいる男には見覚えがある。

「あなたは……ギゼさんとか言ってましたね……どうやら門でのやり取りは、欺かれた……みたいですね」
「救世主に攻撃が通じないとはアニアから報告を受けてましたが……これほどとは、驚きましたよ」

 アニアの名前が出た事で、お互いの立ち位置がハッキリした。

「夫は?」

 兵士たちの後ろに広がっている大広間に、まだいるはずだ。

「いえ、あっちはまた別口が動いています。我々はここから誰も出すな……現在は、そう命じられています」
「そう、でも無理やり通させてもらうわよ」
「攻撃が効かなくても、救世主様達を捕まえる方法はいくらでもありますよ?」

 そう言ってギゼは少し横にずれた。その後ろから投網らしきものを持った兵士が近く。私はまだ抜き身で持っていた刀を少し持ち上げた。

「できる?」
「どうでしょう?」

 さらにその後ろから何人も投網を持ち近づいてきている。一体、何人いるのよ!

「どうします? 私たちも救世主様は怖いので、できればこのままお引き取りいただくのが一番なのですが……」
「夫との安全は保障してくれるんでしょうね」
「ここで奥様が暴れたりしなければ、大丈夫だと思いますよ……そうですね、2週間ほどおとなしく待っていていただければ、ちゃんと解放する算段になっているはずです」
「2週間後に何があると言うの?」

 何か要求されるのかと思えば、2週間、ただ待っていろというだけなのか?

「ええ、2週間静かにしていただければ、保護・・させていただいたお二人の身の安全はマシアス伯爵が保障する……らしいですよ。むしろ、伯爵邸にて歓待する準備があるそうです。よろしければ皆様もどうですか?」
「……わかったわ。そちらの条件通り、ここから出ないようにするから、夫と娘の安全は必ず守ってね」

「お約束は勿論、守らさせていただきます」

 ギゼは恭しく頭を下げた。

 ファビオにアニア、それにマシアスにギゼ。このツケは高いわよ。私はギゼから目をそらさず、そのまま後ろに一歩下がり、光のカーテンの中へ入った。

----------

 玄関では、子供達とリリィがそのまま待っていてくれた。

「奥様、額に粉が……」

 リリィが近づいて、額を擦ってくれた。さっき殴られた時のカスだろう。

「ママ、パパとチコは?」
「人質に取られたわ……少しお母さんに考えさせて……」

 リビングに戻り、椅子に腰をかける。リリィと子供達も後からついてきて、腰をかける。

「あのギゼという兵士がアニア達の仲間だったみたい。外で待ち伏せされていたわ。そして今回もマシアス絡みよ」
「それでは、やっぱり王位継承権の……奥様、本当に申し訳ございません……」

 リリィが私の言葉を聞いて、椅子から降りて、床に膝を付き頭を下げた。

「気にしないで。襲われることは予想していたのだから、あの人も覚悟はしていた筈よ。チコは兎も角、カズトが捕まったのはあの人のミス」

 それと私のミス。一番、捕まっちゃいけない二人を最後尾にするなど痛恨の極みだ。

「とりあえず、クロロ神殿から出なければ、二人を2週間後に解放するらしいわ」
「2週間後ですか……何か意味が……?」
「そうね……そこは何も言っていなかったけど、これまでの流れを考えれば、間違いなく王位継承絡みでしょうね」

「奥様」

 それを聞いてリリィはホッとしたように顔を上げた。

「それでしたら2週間、じっと待ちましょう」

 確かにタナカ家にとって王位継承権は興味のある話では無い。リリィがいいのであれば、2週間何もしないという事も選択肢の中の一つだ。でも……

「リリィ、あなたはそれでいいの?」

 私の言葉にリリィは目を反らす。

「あなたが王位を継承するという事に、まだ覚悟を持っていないのは理解しているわ。今回、夫とチコが人質に取られた事で、それを反対の方向に後押ししてしまっているのも理解できる。でも、こんな事で決めてしまっていいの? あなたの人生だけじゃない。この国の全ての人々の人生に影響する話なのよ」

「で、でも奥様……それだとタナカ様と、チコの安全が……」
「その事なら気にしないで。私は何にせよクロロ神殿からは出ないわ」
「そ、それじゃ」

 リリィが何かを期待する様に私に視線を戻す。ああ、この表情は嫌いだ。あなたリリィの人生の大事な決断を、私たち家族に委ねないで。あなたリリィが王にならなくていい言い訳に、私の夫を使わないで。

「あなたは、それでいいの? リリアナ・ヒメノ・・・・・・・

 私の強い言葉でリリィはまた顔を伏せてしまった。私の角度からは表情が見えなくなったが、膝の上でポツポツと水染みが出来ていた。

----------

 これ以上、私がリリィに話すべき言葉は思いつかなかった。日本だったら、まだ高校生くらいの年齢のリリィには酷だったかもしれないけど、ここが彼女の踏ん張りどころだと思う。リリィ自身で考えてもらわないと。

「ユイカ、浩太。今日はこのままここで寝るわ」
「お父さんとチコは?」

 浩太が不満の声を出す。

「もちろん、助けるわよ」

 私の声にユイカと浩太の表情が明るくなる。リリィも目を真っ赤にしながら私の顔を見た。

「クロロ神殿からは出ない……あいつらと約束したしね。でも、他から出ないとは言っていない」
「え、じゃぁ」
「2週間も時間があるなら上等よ。イエーロ神殿から、もう一度を王都を目指すわ!」
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