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第2章 フェロル村

13.フェロル村の宴

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 結局、村まで何事もなく到着した。
 林を過ぎてからは自転車に乗ったのだが、リリィや村の三人衆は自転車のスピードにも難無くついてきた。爺さんにしか見えないカサルも余裕の走りだったのには驚いたけど……こっちの世界の人の脚力をなめてました。すみません。

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 門の前に着くと同時に門が開かれた。
 どうやら、我々の到着を待っていてくれたらしい。
 門をくぐり、村長を先頭にまっすぐ進む。その後ろに出迎えてくれた村人が続く。

 しばらく村の中を進むと、広場みたいな所で、大人数の村人が集まっていた。100名程度の村という事なので、ざっと見る限り、ほぼ全員がいるんじゃなかろうか。

 女性衆が、料理などをゴザの上に並べていて、中央では大鍋で何かを煮ている。

「みんな、手を止めてくれ」

 村長が呼びかけた。

「昨日、伝えた通り、聖地に救世主様とそのご家族をお連れした」

 あれ、救世主は俺だけで、あとはその家族という扱いになってるのか?

「聖地である光のカーテンを何度も出入りしているのを、わし達はこの目で確認している。神の社としても、この方たちが別世界から来られた方だという事は認められよう」

 続いてカサルが言葉をつなぐ。

「俺も何度も見た。リリィが救世主様に連れられて光のカーテンの中に入ったのも確認している。その後に続いて入ろうとしたけど、光のカーテンは俺を招き入れてくれはしなかった」

 ルカスも声を上げた。

「シエロ男爵家が従士リリアナ・ヒメノも、この目で確認してきた。また救世主様のご自宅にて、いくつもの奇跡も確認してきている」

 リリィもつなぐ。

「よって、本日、この方々を救世主様として認め、我が村へのご降臨を歓迎し、宴を開きたいと思う」

 村長が、最後に締める。
 唐突に始まったから何かと思ったが、宴会の開会宣言だったのか。
 村長の宣言で皆が動きだす。

 少し太った中年の女性が近づいてきて、木で出来た大きめの杯を手渡された。
 中に白く濁った飲み物が入っている。
 子供達や妻にも同じものが渡された。

 どぶろくみたいなものかな?
 ちょっと舐めてお酒だったら、子供達には別のものをもらおう。

「それではタナカ様、皆に是非、お言葉をいただけないでしょうか?」

 村長から唐突に振られる。
 まぁ、主賓らしいから仕方ないか。こちらも大人なので、こんな場面は何度も経験している。しかし、救世主じゃ無いし、救世主が何をするのかも知らないので、そのあたりで皆に話す様な内容が無いしな……

「えー、初めまして。本日はこのような宴にお招きいただき、ありがとうございます。このたび、村の近くの聖地と呼ばれる所へ引っ越してまいりました。タ・ナ・カと申します」

 名前はゆっくり発音する。
 印象強く覚えてもらうには、これが一番いい。

「こちらとは全く違う環境から引っ越して参りましたので、右も左も分からない状況ではありますが、家族ともども仲良くしていただけたらと思います」

 ここで頭を一度下げる。

「また、救世主というのは村長やカサル殿が言っているだけで、私どもとしては何の事か解ってはおりません。何の理由があってこの世界にやってきたのかも、解らないのです。そんな私どもですが、近くに越してきたのも何かのご縁かと思います。暖かく見守っていただければ幸いです」

 救世主じゃないという事が伝わったらいいのだが……

「それでは家族を紹介します。こちらにいるのが私の家族になります。妻のひとえです」

 妻が頭を下げる。

「長女のユイカに息子の浩太です」

 二人が頭を下げる。

「子供達と同じような年頃のお子様もいらっしゃるみたいですので、ぜひ、友達になってください」

 子供達が集まっている方向にユイカが手を振る。浩太は照れているみたいだ。
 二人とも受け入れてくれたらいいな。

「それでは本日はよろしくお願いします」

 もう一度、家族全員で頭を下げる。

 あれ……反応が薄い。みんな杯を片手に何かを期待するように、こちらを見ている。ああ、そういう事ね。

「えー、それでは僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきます。フェロル村の皆様の今後の益々のご発展を祈願いたしまして……乾杯!」

 持っていた木の杯を上に掲げる。
 一瞬の沈黙……全身に変な汗が出る……あれ、何か外したか? ……皆、何か下を向いて呟いてるよ。怒ってます?
 振り返らなくても、背中に家族の冷たい視線を感じるよ。

 数秒経過後、村人たちは、ほぼ同時に顔を上げ、こちらに満面の笑みで、「「「乾杯!」」」と杯を掲げてくれた。

 それを見て笑顔が少し引きつったが、杯を少しだけ前に出し応える。
 何かお祈りしていたのかな。

 こうして、フェロル村での宴が始まった。
 まだ、お昼前なんだけどね。
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