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プロポーズ(大学生・社会人
ピンキーリング
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クリスマスのプレゼント。
ない知恵を絞るのに、僕はいつも間違えてるようだ。
彼女は、なぜか喜ばない。
話題の映画のチケットを手に入れても。
ブレイク中のミュージシャンのチケットを手に入れても。
流行りのレストランに予約を入れても。
抱えきれない程の大きさの薔薇の花束を渡しても。
「ありがと」
つまらなそうに、そう言って終わる。
「これ、嫌いだった?」
「そんなことないわ。多分、好き」
多分?
僕は彼女の言うことが、よくわからない。
僕は何を間違えてるのか、ちっともわからない。
それでも、僕は彼女が好きなんだ。
違和感を感じるのは、僕が贈り物をした時だけ。
寄り添って公園を歩いたり。
カフェで会話をしたり。
普段は微笑みを絶やさない、穏やかな彼女。
特別なことは何もないけど、自然な空気が愛しいと思う。
ちゃんと笑ってほしいな。
そんなふうに願っているのに。
僕が贈り物をした時だけは、ハッキリとわかるつまらない顔になるんだ。
今日もまた、間違えたらしい。
赤い宝石のついたピンキーリング。
店員が今年の売れ筋で宝石の嫌いな女の子はいない、なんて言うから奮発したのに。
馴染みのカフェでコーヒーを飲みながら渡すと、彼女は少し眼差しをかげらせた。
「ピンキー?」
うん、とうなずくと、彼女は肩をすくめる。
「ねぇ、どうして小指な訳?」
まるで、不本意だわ、なんて言いたげな眼差しに、僕はまたわからなくなった。
彼女は、どうして喜ばないんだろう?
「ダメだった?」
うん、とあっさり彼女はうなずいた。
「指輪、嫌い?」
「好きでも嫌いでもないけど、ピンキーは嫌」
ゴメン、と僕が謝ると彼女は眼差しをとがらせた。
「どうして謝るの?」
どうしてと問われても。
君が怒っているから、なんて言いにくい。
「ねぇ、どうして小指にしたの?」
ふてくされたような彼女の問いに、今年のお勧めだって、と小さな声で応える。
彼女は、やっぱり、と小さく呟いた。
しばらく黙っていたけれど、フウッとため息をついた。
「この前、そろそろ先のことも考えようって、あなたが言ったのよ?」
うん、まぁ、そろそろ結婚したいよなぁなんて話したけど。
空気みたいに馴染んでいるから、自然にそう思っただけで。
それが今、怒られている理由だろうか?
「なのに、ピンキー? 普通、薬指じゃないの?」
ああ、なるほど。
そこまで言われて、ようやく僕は気がついた。
「そっか、普通は薬指なんだ」
もう! と彼女は肩をすくめた。
「ゴメン、気がつかなかった」
「知ってるわ、そういう人だって」
「ごめん、でもほら、赤い糸みたいでいいだろ?」
苦し紛れで、僕は適当なことを言う。
運命の恋人どうしみたいに、小指で繋がると思えばいい。
なんて言うと、彼女は少しだけ絶句した。
「なに、それ!」
うわ、やっぱり御不満?
続く文句を覚悟したけど、彼女ははじけるように笑いだした。
「なに、それ」
優しくてやわらかな口調で、何度か「なにそれ」を繰り返す。
それでも鮮やかに笑っていた。
彼女が左手を僕に差し出した。
思わせぶりな眼差しに、お気に召してくれたみたいだとホッとする。
彼女の小指にピンキーリングをはめた。
赤い石が、キラリと光った。
「仕方ないか、赤い糸なら小指でも」
贈りものをしたことでは、初めてかもしれない。
僕に向けられたのは、彼女の本物の微笑みだった。
「ありがと。これからもよろしくね」
ない知恵を絞るのに、僕はいつも間違えてるようだ。
彼女は、なぜか喜ばない。
話題の映画のチケットを手に入れても。
ブレイク中のミュージシャンのチケットを手に入れても。
流行りのレストランに予約を入れても。
抱えきれない程の大きさの薔薇の花束を渡しても。
「ありがと」
つまらなそうに、そう言って終わる。
「これ、嫌いだった?」
「そんなことないわ。多分、好き」
多分?
僕は彼女の言うことが、よくわからない。
僕は何を間違えてるのか、ちっともわからない。
それでも、僕は彼女が好きなんだ。
違和感を感じるのは、僕が贈り物をした時だけ。
寄り添って公園を歩いたり。
カフェで会話をしたり。
普段は微笑みを絶やさない、穏やかな彼女。
特別なことは何もないけど、自然な空気が愛しいと思う。
ちゃんと笑ってほしいな。
そんなふうに願っているのに。
僕が贈り物をした時だけは、ハッキリとわかるつまらない顔になるんだ。
今日もまた、間違えたらしい。
赤い宝石のついたピンキーリング。
店員が今年の売れ筋で宝石の嫌いな女の子はいない、なんて言うから奮発したのに。
馴染みのカフェでコーヒーを飲みながら渡すと、彼女は少し眼差しをかげらせた。
「ピンキー?」
うん、とうなずくと、彼女は肩をすくめる。
「ねぇ、どうして小指な訳?」
まるで、不本意だわ、なんて言いたげな眼差しに、僕はまたわからなくなった。
彼女は、どうして喜ばないんだろう?
「ダメだった?」
うん、とあっさり彼女はうなずいた。
「指輪、嫌い?」
「好きでも嫌いでもないけど、ピンキーは嫌」
ゴメン、と僕が謝ると彼女は眼差しをとがらせた。
「どうして謝るの?」
どうしてと問われても。
君が怒っているから、なんて言いにくい。
「ねぇ、どうして小指にしたの?」
ふてくされたような彼女の問いに、今年のお勧めだって、と小さな声で応える。
彼女は、やっぱり、と小さく呟いた。
しばらく黙っていたけれど、フウッとため息をついた。
「この前、そろそろ先のことも考えようって、あなたが言ったのよ?」
うん、まぁ、そろそろ結婚したいよなぁなんて話したけど。
空気みたいに馴染んでいるから、自然にそう思っただけで。
それが今、怒られている理由だろうか?
「なのに、ピンキー? 普通、薬指じゃないの?」
ああ、なるほど。
そこまで言われて、ようやく僕は気がついた。
「そっか、普通は薬指なんだ」
もう! と彼女は肩をすくめた。
「ゴメン、気がつかなかった」
「知ってるわ、そういう人だって」
「ごめん、でもほら、赤い糸みたいでいいだろ?」
苦し紛れで、僕は適当なことを言う。
運命の恋人どうしみたいに、小指で繋がると思えばいい。
なんて言うと、彼女は少しだけ絶句した。
「なに、それ!」
うわ、やっぱり御不満?
続く文句を覚悟したけど、彼女ははじけるように笑いだした。
「なに、それ」
優しくてやわらかな口調で、何度か「なにそれ」を繰り返す。
それでも鮮やかに笑っていた。
彼女が左手を僕に差し出した。
思わせぶりな眼差しに、お気に召してくれたみたいだとホッとする。
彼女の小指にピンキーリングをはめた。
赤い石が、キラリと光った。
「仕方ないか、赤い糸なら小指でも」
贈りものをしたことでは、初めてかもしれない。
僕に向けられたのは、彼女の本物の微笑みだった。
「ありがと。これからもよろしくね」
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