43 / 60
第6章
第2話
しおりを挟む
イベント終了後、莉音は地域振興課の職員に誘われ、施設内のレストランに移動した。
イベントの成功を祝して打ち上げをするということで、店内の一角に予約席が設けられ、企画に携わった地域振興課と広報課、それぞれの職員が集まりはじめていた。
「あ、莉音ちゃ~ん! こっちこっち! お疲れさま~!」
打ち上げの準備をはじめていた優子が、莉音に気づいて笑顔で手を振った。その傍には、今日までずっと、運転手役を務めてくれた達哉の姿もあった。
「お疲れさまです」
近づいて挨拶をすると、優子は莉音の抱える荷物を見て目をまるくした。
「わあっ、すごい荷物やなあ! 生徒さんたちからんプレゼント?」
「はい。なんか、こんなにたくさんいただいてしまって」
全然たいしたことはしてないのに、と恐縮する莉音に、優子は満面の笑みを浮かべた。
「莉音ちゃんが一生懸命やってくれたんが、みんなに伝わった証拠ちゃ。みんな、本当に楽しそうやったもんね。ほんとにありがとね、無理なお願い聞いてくれて」
「いいえ、僕こそ楽しかったです。はじめてだったので、とにかく必死でしたけど、やってみてよかったなって。貴重な機会をいただけて、すごく勉強になりました。誘ってくださってありがとうございました」
優子は「もう、ほんとにいい子なんやけん」と、感極まった様子で涙ぐんだ。
「今日はお礼も兼ねた打ち上げやけん、遠慮のう、ぎょうさん食べていって」
「はい、ありがとうございます。達哉さんも、ずっと送り迎えしてくださって、ありがとうございました」
「いや、俺は全然。なんも……」
歯切れ悪く応じた達哉は、気まずそうに視線を逸らした。雑誌の件を祖父母にリークしたことを気にしているのだろう。
今日、会場に来る車中で謝罪を受けたが、かえって気まずくなっていた祖父との関係が修復できたので気にしないでほしいと伝えた。それでもやはり、達哉の中では割り切れない部分があるのだろう。
「ちょっとあんた、なんなん、そんシャキッとせん返事は! 年下ん莉音ちゃんが礼儀正しゅうお礼言うてくれちょるんにっ」
そんな息子の背中をバシッと叩いた優子は、莉音に向かってごめんねぇと謝った。
「お盆休み終わって明日大阪に帰るけん、しょぼくれちょんのちゃ」
「やけん違うって! ガキじゃねえんだけんっ」
不機嫌そうに達哉は反論したが、莉音は「えっ?」と目を瞠った。
「達哉さん、明日大阪に戻られちゃうんですか? あ、でもそうですよね。お仕事されてるんですもんね。すみません、お休みのあいだ、ずっと僕に付き合っていただいて」
「あ、いやっ! それは全然!」
ほらぁ、あんたがそげな態度やけん、と優子に言われて、達哉は慌てた様子で両手を振った。
「むしろ俺も大人になって再会できち、いろいろ話せち楽しかったし。それに作った料理まで食べさせてもろうて役得やったっちいうか、逆にこっちからやらせてもろうたようなもんやったっちいうか……」
「そうそう。莉音ちゃんの送り迎えん話したら、ほいだら自分がやろうけって、こん子から言い出したんよ。どうせ暇だしって言うて」
優子の言葉に、達哉はうんうんと頷いた。
「やけん、莉音くんな気にせんで大丈夫やけん」
「莉音ちゃんなむしろ、達哉ん希望叶えてくれたっちゃがねえ」
「え?」
「ちょっ……、おふくろっ!」
「こん子ね、莉音ちゃんの料理が食べとうて帰ってきたと」
「母ちゃんっ! なんでそれ、いま言うんちゃっ!!」
叫んだあとで、達哉はしまった、という顔をした。
「いやっ、あの莉音くんっ、そげな――そういうんじゃなくて……いや、違っ…くはない、んやけど、その……っ」
「あ~、ガラにものう照れちょるよ、こん子。やっぱし莉音ちゃんな、初恋ん相手やかぃねえ」
「だから、マジでそげなんやめろってっ!」
「え、なになに? なんかいま、楽しそうな話題聞こえた気がするんやけど」
達哉と優子の後ろから、数名の職員が近づいてくる。達哉は真っ赤になってあたふたと弁解した。
賑やかなその様子を、莉音は笑いながら見守っていた。
イベントの成功を祝して打ち上げをするということで、店内の一角に予約席が設けられ、企画に携わった地域振興課と広報課、それぞれの職員が集まりはじめていた。
「あ、莉音ちゃ~ん! こっちこっち! お疲れさま~!」
打ち上げの準備をはじめていた優子が、莉音に気づいて笑顔で手を振った。その傍には、今日までずっと、運転手役を務めてくれた達哉の姿もあった。
「お疲れさまです」
近づいて挨拶をすると、優子は莉音の抱える荷物を見て目をまるくした。
「わあっ、すごい荷物やなあ! 生徒さんたちからんプレゼント?」
「はい。なんか、こんなにたくさんいただいてしまって」
全然たいしたことはしてないのに、と恐縮する莉音に、優子は満面の笑みを浮かべた。
「莉音ちゃんが一生懸命やってくれたんが、みんなに伝わった証拠ちゃ。みんな、本当に楽しそうやったもんね。ほんとにありがとね、無理なお願い聞いてくれて」
「いいえ、僕こそ楽しかったです。はじめてだったので、とにかく必死でしたけど、やってみてよかったなって。貴重な機会をいただけて、すごく勉強になりました。誘ってくださってありがとうございました」
優子は「もう、ほんとにいい子なんやけん」と、感極まった様子で涙ぐんだ。
「今日はお礼も兼ねた打ち上げやけん、遠慮のう、ぎょうさん食べていって」
「はい、ありがとうございます。達哉さんも、ずっと送り迎えしてくださって、ありがとうございました」
「いや、俺は全然。なんも……」
歯切れ悪く応じた達哉は、気まずそうに視線を逸らした。雑誌の件を祖父母にリークしたことを気にしているのだろう。
今日、会場に来る車中で謝罪を受けたが、かえって気まずくなっていた祖父との関係が修復できたので気にしないでほしいと伝えた。それでもやはり、達哉の中では割り切れない部分があるのだろう。
「ちょっとあんた、なんなん、そんシャキッとせん返事は! 年下ん莉音ちゃんが礼儀正しゅうお礼言うてくれちょるんにっ」
そんな息子の背中をバシッと叩いた優子は、莉音に向かってごめんねぇと謝った。
「お盆休み終わって明日大阪に帰るけん、しょぼくれちょんのちゃ」
「やけん違うって! ガキじゃねえんだけんっ」
不機嫌そうに達哉は反論したが、莉音は「えっ?」と目を瞠った。
「達哉さん、明日大阪に戻られちゃうんですか? あ、でもそうですよね。お仕事されてるんですもんね。すみません、お休みのあいだ、ずっと僕に付き合っていただいて」
「あ、いやっ! それは全然!」
ほらぁ、あんたがそげな態度やけん、と優子に言われて、達哉は慌てた様子で両手を振った。
「むしろ俺も大人になって再会できち、いろいろ話せち楽しかったし。それに作った料理まで食べさせてもろうて役得やったっちいうか、逆にこっちからやらせてもろうたようなもんやったっちいうか……」
「そうそう。莉音ちゃんの送り迎えん話したら、ほいだら自分がやろうけって、こん子から言い出したんよ。どうせ暇だしって言うて」
優子の言葉に、達哉はうんうんと頷いた。
「やけん、莉音くんな気にせんで大丈夫やけん」
「莉音ちゃんなむしろ、達哉ん希望叶えてくれたっちゃがねえ」
「え?」
「ちょっ……、おふくろっ!」
「こん子ね、莉音ちゃんの料理が食べとうて帰ってきたと」
「母ちゃんっ! なんでそれ、いま言うんちゃっ!!」
叫んだあとで、達哉はしまった、という顔をした。
「いやっ、あの莉音くんっ、そげな――そういうんじゃなくて……いや、違っ…くはない、んやけど、その……っ」
「あ~、ガラにものう照れちょるよ、こん子。やっぱし莉音ちゃんな、初恋ん相手やかぃねえ」
「だから、マジでそげなんやめろってっ!」
「え、なになに? なんかいま、楽しそうな話題聞こえた気がするんやけど」
達哉と優子の後ろから、数名の職員が近づいてくる。達哉は真っ赤になってあたふたと弁解した。
賑やかなその様子を、莉音は笑いながら見守っていた。
30
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる