41 / 90
第5章
第2話(4)
しおりを挟む
「おじいちゃんに受け容れてほしいなんて、虫のいいことは言わない。心配ばっかりかけちゃってるから、いますぐは無理でも、いつか必ず、おじいちゃんたちに莉音はもう大丈夫だって安心してもらえるように頑張るね」
言いながら、洟を啜る莉音に祖母がボックスティッシュを差し出した。自分もそれで、目もとを拭っている。礼を言って受け取った莉音は、祖母と視線を見交わして照れ笑いした。
「……おまえ」
ずっと黙っていた祖父が、重い口を開いた。
「おまえ、こん記事んこたあ本当に気にしちょらんのか。蒼い顔しち、食事も喉ぅ通らん様子やったやろうが」
「あ、うん、心配かけちゃってごめんなさい」
莉音はあわてて謝った。
「全然気にしなかったって言えば嘘になるけど、でも、アルフさんのことは疑ったりしてないよ? あんなふうに成功してて容姿にも恵まれて、地位も名誉もある素敵な人だもん。それこそスクープされたような綺麗なモデルさんとか女優さんとか、取引先の会社のご令嬢とか、いくらでも選び放題だったと思う。そんな人が、社会的地位もなくて同性でっていう僕みたいな人間を弄んでも、なんのメリットもないでしょ? むしろ男と付き合ってるって世間に知れたら、失うもののほうが多いはず。それなのにそれでも僕を選んで、揺るぎない気持ちを示してくれてる。だからそこはね、疑う余地はないって思ってる。あんまり食欲がなかったのは、この記事に関することをいろいろ調べて内容を確認しながら、いま話したようなことを、ずっと頭の中で整理してたから」
東京の家飛び出してきちゃってから、ずっと悶々としたままだったしと莉音は笑った。
「あのまま喧嘩別れにならないで、大分に来てよかったなって、いまは思ってる。時間かかっちゃったけど、こうやってちゃんと自分の思ってること整理して、おじいちゃんたちにも話せたし。それから優子さんに頼まれて引き受けた料理教室も、やってみてよかったなって。自分がなにをすべきか、ちゃんと見極められたから」
自分の言葉に納得したように、大きく頷く。
「僕、やっぱりちゃんと学校行って、基礎から学びなおします。自分なりにいろいろ調べて決めた進学先だから、そこに行きたいです。だからそのためにも、東京に戻ります」
あとやっぱり、アルフさんとも仲直りしたいし、と照れたように付け加えた。
「僕が一方的に怒って癇癪起こしちゃっただけなんだけど、そんなふうに安心して感情をぶつけられるくらい、アルフさんには甘えさせてもらってたんだなって、すごく実感しちゃった。おじいちゃんたちにもいっぱい心配かけたけど、アルフさんもずっと心配してくれてると思うから、東京に帰って、僕の気持ちとか、いまおじいちゃんたちに話したこととかも含めてふたりで話し合って、これからどうするか決めていきたいと思ってます」
莉音の出した結論に、祖父はじっと耳を傾けていた。
「それでね、ちゃんと自分の生活の基盤も固めて、それでまた、おじいちゃんたちにも会いにくるから」
言った途端、祖父の仏頂面が崩れて面食らったような顔をした。目が合うなり、莉音はにっこりとする。
「さっき、僕たちのこと受け容れてほしいなんて言わないって言ったけど、それはいまこの場でっていう意味だから」
すぐに理解してもらうのは難しいっていうのは僕もわかってるから、と莉音が言うと、祖父はふたたび仏頂面になった。
「……そりゃあ、いつかは認めろっちゅうことか?」
「うん。でも強制とかじゃなくて、いつか自然に受け容れてもらえたらいいなって思うから、たまに顔見せにきて、知ってもらえる機会を増やせたらなって。疎遠になったままだと、理解も深め合えないでしょ? だから東京には帰るけど、飛行機代貯めて、また年末とか時間に余裕ができたときに様子を知らせにくるね?」
いいかな、と意向を窺うように莉音は祖父を顔を見た。祖母もまた、傍らで祖父の反応を見る。
長い沈黙。
やがて深い息をつくと、祖父は目の前にあった湯飲みのお茶を飲み、静かに目を閉じた後にゆっくり開いて低く応じた。
「わかった」
言いながら、洟を啜る莉音に祖母がボックスティッシュを差し出した。自分もそれで、目もとを拭っている。礼を言って受け取った莉音は、祖母と視線を見交わして照れ笑いした。
「……おまえ」
ずっと黙っていた祖父が、重い口を開いた。
「おまえ、こん記事んこたあ本当に気にしちょらんのか。蒼い顔しち、食事も喉ぅ通らん様子やったやろうが」
「あ、うん、心配かけちゃってごめんなさい」
莉音はあわてて謝った。
「全然気にしなかったって言えば嘘になるけど、でも、アルフさんのことは疑ったりしてないよ? あんなふうに成功してて容姿にも恵まれて、地位も名誉もある素敵な人だもん。それこそスクープされたような綺麗なモデルさんとか女優さんとか、取引先の会社のご令嬢とか、いくらでも選び放題だったと思う。そんな人が、社会的地位もなくて同性でっていう僕みたいな人間を弄んでも、なんのメリットもないでしょ? むしろ男と付き合ってるって世間に知れたら、失うもののほうが多いはず。それなのにそれでも僕を選んで、揺るぎない気持ちを示してくれてる。だからそこはね、疑う余地はないって思ってる。あんまり食欲がなかったのは、この記事に関することをいろいろ調べて内容を確認しながら、いま話したようなことを、ずっと頭の中で整理してたから」
東京の家飛び出してきちゃってから、ずっと悶々としたままだったしと莉音は笑った。
「あのまま喧嘩別れにならないで、大分に来てよかったなって、いまは思ってる。時間かかっちゃったけど、こうやってちゃんと自分の思ってること整理して、おじいちゃんたちにも話せたし。それから優子さんに頼まれて引き受けた料理教室も、やってみてよかったなって。自分がなにをすべきか、ちゃんと見極められたから」
自分の言葉に納得したように、大きく頷く。
「僕、やっぱりちゃんと学校行って、基礎から学びなおします。自分なりにいろいろ調べて決めた進学先だから、そこに行きたいです。だからそのためにも、東京に戻ります」
あとやっぱり、アルフさんとも仲直りしたいし、と照れたように付け加えた。
「僕が一方的に怒って癇癪起こしちゃっただけなんだけど、そんなふうに安心して感情をぶつけられるくらい、アルフさんには甘えさせてもらってたんだなって、すごく実感しちゃった。おじいちゃんたちにもいっぱい心配かけたけど、アルフさんもずっと心配してくれてると思うから、東京に帰って、僕の気持ちとか、いまおじいちゃんたちに話したこととかも含めてふたりで話し合って、これからどうするか決めていきたいと思ってます」
莉音の出した結論に、祖父はじっと耳を傾けていた。
「それでね、ちゃんと自分の生活の基盤も固めて、それでまた、おじいちゃんたちにも会いにくるから」
言った途端、祖父の仏頂面が崩れて面食らったような顔をした。目が合うなり、莉音はにっこりとする。
「さっき、僕たちのこと受け容れてほしいなんて言わないって言ったけど、それはいまこの場でっていう意味だから」
すぐに理解してもらうのは難しいっていうのは僕もわかってるから、と莉音が言うと、祖父はふたたび仏頂面になった。
「……そりゃあ、いつかは認めろっちゅうことか?」
「うん。でも強制とかじゃなくて、いつか自然に受け容れてもらえたらいいなって思うから、たまに顔見せにきて、知ってもらえる機会を増やせたらなって。疎遠になったままだと、理解も深め合えないでしょ? だから東京には帰るけど、飛行機代貯めて、また年末とか時間に余裕ができたときに様子を知らせにくるね?」
いいかな、と意向を窺うように莉音は祖父を顔を見た。祖母もまた、傍らで祖父の反応を見る。
長い沈黙。
やがて深い息をつくと、祖父は目の前にあった湯飲みのお茶を飲み、静かに目を閉じた後にゆっくり開いて低く応じた。
「わかった」
40
あなたにおすすめの小説
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる