ひろいひろわれ こいこわれ ~華燭~

九條 連

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第4章

第2話(4)

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 迎えに来てくれた達哉も含め、皆でスタジオをきれいにして明日の準備を調えた後、簡単な打ち合わせをしてその日は終了となった。

「あ、莉音くん、帰り、ちいと寄り道してんいい? 本屋寄りてえんやけど」

 職員たちと挨拶を交わしてスタジオをあとにしたところで達哉に言われ、莉音はふたつ返事で了承した。

「もちろん大丈夫です。僕もちょうど欲しい本があったので、逆に嬉しいです」
「ほんとに? ならよかった。なんかおふくろに、週刊誌買うちきちくれって頼まれちゃってさ。美容系ん特集記事?かなんかが載っちょんらしゅうて」

 莉音くんは?と訊かれて、料理本ですと笑った。
「あの、本来担当される予定だった料理研究家の先生の本があるって聞いたので」
「うわ、メッチャ勉強熱心!」
 達哉は、ハンドルを握ったままおどけたようにけ反った。
「あげえ料理うまいのに、まだ勉強するんや」
「本格的な勉強はまだこれからです。僕のは、素人の趣味の領域を出ていないので」
「いやいや、充分すごいって」

 やりとりをしているうちに、道路沿いにある書店の看板が見えてくる。駐車場に車を駐めて入店したふたりは、あとで落ち合うことにして、それぞれの目的のコーナーに向かった。

 ひろびろとした明るい空間に、ジャンルごと、出版社ごとに分けられたたくさんの書物がきれいなレイアウトで陳列されているさまは、いつ見ても心躍る。地域や立地によっても客層が変わるからか、店ごとに異なるフェアを開催したりしていて、眺めているだけでも楽しかった。
 最近は来年から通う専門学校をどこにするか決めるのに、情報収集の目的で足を運ぶことが多かったため、こんなふうに気楽な気分でいろんな棚を見てまわれるのはひさしぶりだった。とはいえ、達哉も一緒に来ているのであまり待たせるわけにもいかない。文芸書の棚などをざっと見たあとで、すぐに実用書の料理関連のコーナーに向かった。

 講師を務めることになっていた料理研究家は、やはり地元では有名な人なのだろう。過去にも何度か料理教室を開催しているらしく、目当ての本はポップ付きで目立つ場所に陳列されていた。ほかにも何冊か並べてあったので、ひととおり見比べて、どれを購入するか吟味する。自分が普段、あまり手がけないレシピがなるべく多く載っているものにしようと思った。


「莉音くん、探してた本あった?」
 新刊雑誌のコーナーに行っていた達哉が、こちらに向かってくる。
「あ、はい、ありました。ほかにも何冊か出されてたみたいなので、どれがいいかなって」
 応えながら手にしていた一冊をもう一度パラパラと見て、すぐそばに来た達哉を振り返る。

「決まりました。これにしようと思います。達哉さんはありましたか?」
「あったあった。たぶんこれでいいはず」
 達哉は笑って脇に抱えていた雑誌を莉音に見せる。よかったですねと言いかけたその目が、不意にこちらに向けられた表紙に吸い寄せられた。そのまま、口の中で言葉が消えた。

「まったく、週刊誌ん特集くらいで充分な情報が得らるるかっての。金ん無駄やろっち言いよんのに、うちんおふくろ、人ん言うことなんかまるで聞きゃせ……莉音くん?」

 声をかけられても、莉音は反応できなかった。
 達哉の手にしている雑誌から、目を離すことができない。

【人気モデル茉梨花まりか、熱愛発覚! 深夜のお忍びデート。お相手は、ホテル業界に君臨する若き帝王V氏 結婚秒読みか!?】

 達哉がなにかを言っているのはわかったが、その声に莉音は反応することができなかった。

 目を引く派手な見出しとともに、暗闇の中に写し出される男女の姿。
 目もとは黒いラインで隠されているが、スラリとした長身の美女と、その女性に親密な様子で寄り添う身なりのいい紳士。

 そこに写っていたのは、莉音が決して見まがうはずのない人物――ヴィンセントその人だった。
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