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第5章
誘惑と友情、魂の交信(6)
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べつに怯えさせたいわけではないのだが、こっちも生身の男――神様の躰借りてる立場だけど――である以上、こうも連日熱烈に言い寄られて、最後まで拒みとおせる自信はない。というか、そんな鉄の理性は、正直、欠片も持ち合わせていないんである。万一うっかり流されでもすれば、今度はディープキス程度で済まないことは目に見えている。それどころか、パートナーであるこの躰の持ち主を差し置いて、俺が初物をすべていただいてしまう、なんてことにもなりかねない。
それはさすがにねぇ、人としてどうかと思うのよ。惚れた腫れたがなくても、男は簡単にその気になれる。ましてや溜まってる(なにがとは言わないが)ところに、同性とはいえ、桁外れの超絶美人がこれでもかってくらいにぐいぐいアプローチしてくるんだから、そりゃうっかり過ちだって犯すこともあるでしょう。だからまあ、天罰が下って地獄行きになるまえに、予防線張っとく必要があったっていうか。
むろん、牽制した理由はそれだけではない。リュシエルは何者かに襲撃されている。その犯人が、身近な人間の中にいないとどうして言えるだろう。だれに対しても、つねに警戒心を持って、ある程度の距離は取るべきなのだ。
「ともかく、男ってのはそういう生き物なんだってことを踏まえたうえで、あんたと恋人のことに話を戻すが」
本題に入ることを前提に声のトーンを変えると、リュシエルはハッとしたように表情をあらためた。
「そういう認識があんたになかったのは、あんた自身の特殊な境遇に加えて身近な人間、ようするにあんたの恋人の影響が大きかったんだろう。あんたの恋人は、あんたに手を出さなかったんじゃない。手を出せなかったんだ」
リュシエルは言葉の意味を吟味するように、わずかに首をかしげた。
「さっきも言ったが、男は愛情がなくても性欲だけで肉体関係を持てる。あんたの恋人にとって、あんたは己のそんな欲を殺すのはわけもないくらい、大事な存在だったってことだよ」
言った途端、白い頬が赤く染まった。
「そっ、それは詭弁ではないか? たんに我のことは、そこまで関心がなかっただけということも――」
「どうでもよかったら、とっくに手ェ出してるでしょ。自分に好意を持ってることがまるわかりな可愛い子ちゃんが目の前にいたら、遠慮なくいただく。それが男というものです」
「でっ、でも、さっきそなたは、我のことを特殊な境遇に生まれついたと言っていたが、それはエルディラントもおなじだと思うのだが」
「そりゃ盟主候補って点ではな。だけどあんたの恋人は、人間でいうところの平民階級の出身だろ? 名門家出身で、周りもあたりまえのように洗練された上流階級の人間っていうあんたと違って、エルディラントはそこそこ世間の荒波にも揉まれてきてるはずだ。なんなら、庶民たちのあけすけな会話ややりとりにだってある程度の免疫はあると俺は踏んでる。どちらかというと、即物的な側面にこそ馴染みがあったかもしれない」
リュシエルは声もなく目を瞠った。
「あんたの恋人は、それでもそういった本質に流されることなく、あんたに誠実な態度で接してきた。あんたに対する興味や関心が薄かったからじゃない。それは、この躰を借りてる俺だから断言できる。まあ、本人の名誉に関わることだし、これ以上くわしいことは言えないが、むしろその真逆だったとだけ伝えておこう」
いくら初心でも、さすがにおおよその意味は伝わったのだろう。首筋から耳もとまで、うっすらと色づいていった。
それはさすがにねぇ、人としてどうかと思うのよ。惚れた腫れたがなくても、男は簡単にその気になれる。ましてや溜まってる(なにがとは言わないが)ところに、同性とはいえ、桁外れの超絶美人がこれでもかってくらいにぐいぐいアプローチしてくるんだから、そりゃうっかり過ちだって犯すこともあるでしょう。だからまあ、天罰が下って地獄行きになるまえに、予防線張っとく必要があったっていうか。
むろん、牽制した理由はそれだけではない。リュシエルは何者かに襲撃されている。その犯人が、身近な人間の中にいないとどうして言えるだろう。だれに対しても、つねに警戒心を持って、ある程度の距離は取るべきなのだ。
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本題に入ることを前提に声のトーンを変えると、リュシエルはハッとしたように表情をあらためた。
「そういう認識があんたになかったのは、あんた自身の特殊な境遇に加えて身近な人間、ようするにあんたの恋人の影響が大きかったんだろう。あんたの恋人は、あんたに手を出さなかったんじゃない。手を出せなかったんだ」
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「さっきも言ったが、男は愛情がなくても性欲だけで肉体関係を持てる。あんたの恋人にとって、あんたは己のそんな欲を殺すのはわけもないくらい、大事な存在だったってことだよ」
言った途端、白い頬が赤く染まった。
「そっ、それは詭弁ではないか? たんに我のことは、そこまで関心がなかっただけということも――」
「どうでもよかったら、とっくに手ェ出してるでしょ。自分に好意を持ってることがまるわかりな可愛い子ちゃんが目の前にいたら、遠慮なくいただく。それが男というものです」
「でっ、でも、さっきそなたは、我のことを特殊な境遇に生まれついたと言っていたが、それはエルディラントもおなじだと思うのだが」
「そりゃ盟主候補って点ではな。だけどあんたの恋人は、人間でいうところの平民階級の出身だろ? 名門家出身で、周りもあたりまえのように洗練された上流階級の人間っていうあんたと違って、エルディラントはそこそこ世間の荒波にも揉まれてきてるはずだ。なんなら、庶民たちのあけすけな会話ややりとりにだってある程度の免疫はあると俺は踏んでる。どちらかというと、即物的な側面にこそ馴染みがあったかもしれない」
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いくら初心でも、さすがにおおよその意味は伝わったのだろう。首筋から耳もとまで、うっすらと色づいていった。
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