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第5章

誘惑と友情、魂の交信(3)

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「そなたっ、なにをするっ!」
「なにをするっ、じゃねえわ! ダメだっつってんだろ!? 真面目な話題のふりして、なに都合よく誘導しようとしてんだ。俺ら、赤の他人同士なのよ」

 そうなのだ。なんでリュシエルがこんなにもエロ――もとい、濃厚接触を要求するのかというと、全部、こないだの件が関係していたりする。こないだの件っていうのは、例のエネルギーが過飽和になってリュシエルが倒れた件なんだけども。


 あのとき、リュシエルの体調不良の原因となっているエネルギーを中和するには、ハグ程度のスキンシップでは症状を改善するのが難しかった。そのため、口移しで処置を試みたわけだが、その結果、俺がちょっと――というか、エルディラントの躰がものすごく――暴走してしまい、そのせいで予期せぬ事態が発生した。
 加減がわからないまま、思いっきりディープにエネルギーをやりとりしてしまったのがよくなかった。
 貪るように互いのエネルギーを交わらせた結果、リュシエルは一種のトランス状態に陥り、朦朧とした意識の奥でエルディラントの魂と繋がったという。

 俺はその気配を感じとることさえなかったから、それが事実なのかどうかわからない。ひょっとしたらリュシエルの願望が見せた夢なのではと疑う部分もある。だが、相手はまがりなりにも神である。しかも、ゆくゆくは神族の頂点に立つ存在なのだ。あながちデタラメとも言いきれない。というか、真実である可能性はそれなりにある。あるのだが、リュシエル自身の体調が万全でなかったうえにすぐさま錯乱状態に陥ったため、肝心なことはなにひとつわからずじまいで終わってしまった、ということなのだ。

 正気に返ったリュシエルが憶えていたのは、たしかにエルディラントの魂と繋がったということ。現在、別の時空に飛ばされてしまっているが、無事であるということ。事情があって帰れないことを理由に別れを告げられたということ。それだけだった。
 どこにいるのか、なぜ飛ばされてしまったのか、どういう事情で帰れないのかがいっさいわからない。飛ばされた先で、エルディラントがどういう状況に置かれているのかさえも。


 そんなわけで、リュシエルはふたたび異空のエルディラントとの交信を熱望しているわけなのだが、こっちもそう簡単に承諾できない理由があった。というのも、あの直後、身体への負担が大きすぎたのか精神的ストレスが原因かは不明だが、リュシエルは高熱を出して数日寝こむはめになったのだ。エネルギーの過飽和が原因で倒れたばかりだったというのに。
 お目付役のルシアスが激怒したことは、当然のことだが言うまでもない。そしてもうひとつ。

 なんとこのふたり、完全にまっさらな清い関係だったのである。

 え、待って! 待って! ふたりとも二百歳超え! しかも半年も同棲してる。もちろん身のまわりの世話をする使用人たちはそれなりにいるのだが、それにしたって好き合ってる同士で半年もおなじ屋根の下にいて、なんならふたりっきりの時間もそれなりにあって、なにもなかった、なんてことある!?
 神様って、そっち方面の欲求皆無なの? そんなわけないってことは、俺がこの躰の持ち主にかわって濃厚接触しちゃったときに身をもって経験してるけどね?
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