上 下
24 / 52
第3章

すれ違う想い(1)

しおりを挟む
「エルッ、あれはいったい、どういうことなのだっ!」

 メルヴィルが引き上げた後、人払いをした応接室でリュシエルは目くじらを立てて詰め寄ってきた。

「あれ、とは?」
「だからっ、メルヴィル補佐官に言ったことだ!」
「俺の婚約者が美人すぎて困るって?」
「そ……っ」

 絶句したリュシエルは、瞬く間に顔を赤くした。なんなら首筋まで赤い。ほんと、素直で可愛いんだよな。純粋培養っていうのかさ。

「だっ、だれがそんな話をしておるのだ!」
 リュシエルはさらに声を荒らげた。

「それ以前に我は、そなたの婚約者ではない!」
「はいはい、わかってますよ。あんたのパートナーは、この躰の持ち主である超絶美形の闇の次期盟主様だもんな」
「なぜそんな言いかたをするっ。いくらエルディラントの姿をしていても、エルディラントを侮辱することは許さぬぞ!」

 う~ん、ややこしい。
 言っているほうは至極真剣なので、混ぜっ返すことも躊躇ためらわれた。いや、不真面目に茶々入れてたわむれてる場合じゃないんだけどね。

「悪い、ふざけたつもりはなかった。それで? なにが気に入らなかったって?」
「なにが、ではない! そなた、余計なことは申すなと、あれほど釘を刺しておいたではないか。万一エルディラントのことが知れれば、ただでは済まぬのだぞ? それをあんな、この世界のありようと盟主の存在意義そのものを揺るがすような発言なんぞしおってっ」
 怒りのあまり、リュシエルは言葉を詰まらせた。

「あ~、いや、次期盟主の立場で言っていいことじゃなかったかもしれないな。悪いとは思ってる」
「謝って済む話か! あれでエルディラントの立場が悪くなったら、そなた、どう責任をとるつもりだ」
 まあまあ、そうカッカしないでと肩に手を添え、さっきまで座っていた長椅子に並んで座りなおした。

「勝手な真似をしたのは、ほんと悪かったと思ってる。けどさ、俺もある程度、必要な情報仕入れておかないと、この先対応に困るだろ?」
「だからそれは、我が教えているではないか!」
「いやまあ、そうなんだけどさ。それはそれとして、いろんな立場の人間からいろんな見解を聞いてみないと、多角的に物事を判断できないだろ?」
「多角的な判断?」

 美人というのは、小難しげな顔をしていても目の保養になるのだからたいしたもんだと毎度のことながら感心してしまう。美人は三日で飽きるっていうけど、全然そんなことないよなぁとあらためて思った。まあ本人、そんな自覚はないんだろうけど。

 最初出会ったときに自画自讃してたほど、己の容姿を自慢に思っているわけでないことはすぐにわかった。むしろ、自分のことはそっちのけで、パートナーをひたすら讃美している。
 いまもまた、隣に座って話をするためにじっと顔を見ただけで頬を染めていて、そんな健気な反応に、居心地の悪さをおぼえた。見つめてるのは、大好きな恋人じゃなくて俺なんだけどなぁ。
 内心でごめんなと謝りつつ、咳払いで注意を引いて本題に戻った。

「生まれながらに盟主となることが決まっていた当事者と、現盟主に仕えて国の根幹を支えてる立場。果たす役目が異なれば、おなじ物事をとらえていても、別の解釈、見解があるかもしれないだろ。それは、あんたとメルヴィル補佐官にかぎったことじゃない」

 おなじ天霊府でも、所属する部署が違う。あるいは部署がおなじでも、階級差による責任の重さが違う。そういった立場の違いによって、知っていることと知らないことの差があったり、従事している内容が異なれば見解だって当然違ってくる。

「それは、そうだが……」
「現にあんたとエルディラントだって、下々の連中から見れば『次期盟主』っていう雲上人として、ひとくくりにされるわけだろ?」
「それは…っ」
 反論しようとして結局なにも言えず、リュシエルは口を噤んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

管理委員長なんてさっさと辞めたい

白鳩 唯斗
BL
王道転校生のせいでストレス爆発寸前の主人公のお話

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

わかんない

こじらせた処女
BL
運動も勉強も人並み以上にできる、保田穂志(やすだほし)は、小学校でも優等生扱いを受けていた。しかし、彼は気づいてしまう。先生は、真面目にやっている生徒よりも、問題のある生徒につきっきりであるという事実に。 同じクラスの与田は、頭も運動神経も悪く、おまけに人ともまともに喋れない。家庭環境の悪さのせいだと噂になっているが、穂志の家庭も人ごとに出来ないくらいには悪かった。経済的には困窮していない。父親も母親もいる。しかし、父親は単身赴任中で、それを良いことに母親は不倫三昧。そこに穂志の話を聞いてもらえる環境はない。まだ10歳の子供には寂しすぎたのである。 ある日の放課後、与田と先生の補習を見て羨ましいと思ってしまう。自分も与田のようにバカになったら、もっと先生は構ってくれるだろうか。そんな考えのもと、次の日の授業で当てられた際、分からないと連呼したが…?

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

処理中です...