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第9章
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「……でも、あのダイヤがあったら、アルフさん、PSグループの経営権も手に入れられたかもしれないのに……」
「莉音」
注意を引くようにヴィンセントに手首を掴まれて、莉音はハッとした。
「私はそんなものに、はじめから興味はない」
ヴィンセントは莉音に淡々と説いて聞かせた。
「自分で起ち上げた会社があって、その事業もおかげさまでいまのところとてもうまくいっている。私はね、莉音、自分と社員とその家族が充分満足な暮らしを得られるのなら、それ以上を望むつもりはない。といっても、やはり自分の手で会社を大きくして、成功をおさめることはそれなりにやりがいがあるからね。今後もさまざまな挑戦はしていきたいと思っている。だが、他人の築き上げた権力には、なんの興味も関心もない。そこに関心があるのなら、私はとうの昔にシャーロットと結婚している」
「アルフさん……」
「私は莉音が莉音だから好きになった。レナードの孫だからだとか、PSグループの筆頭株主に次ぐ権威を継承する可能性があるからだとか、そんなことはどうだっていい。莉音が贅沢な暮らしを望んで、王子様のように傅かれたいと願うなら、私がその願いをすべて、この手で叶えよう」
「そんなこと、僕は……」
莉音は力なく首を横に振る。
「莉音、私は今回、アメリカでPSグループの現CEO、ダニエル・スペンサーに面会を求めて直談判してきた」
莉音はその言葉に息を呑んだ。
「レナードとのあいだにあった約束ごとをすべてあきらかにしたうえで、シャーロットと結婚する意思はないことを明確にし、一族の何者かが遺言書にある株式譲渡の権利を得るために影で根回しをしていることも伝えた。そのうえで私の莉音にこれ以上手を出すようなら、こちらも容赦するつもりはないとも明言してきた」
直談判というより宣戦布告が正しいんだが、とヴィンセントは笑った。
「アルフさん、でも僕……」
「そういった諸々の話をつけたうえで、今回、あらためてダニエル本人から莉音の意思を確認するよう託されてきた」
「僕、の……?」
そうだとヴィンセントは頷いた。
「莉音は間違いなくレナードの血を受け継いでいる。それを踏まえたうえで、莉音がレナードの株式を引き継ぎたいと希望するのであれば、そのように手続きを進めるし、それに伴う諸般の権利や一族内で担う責任の所在についても、きちんと立場を確立させるようにする。そうでない場合も、グループ総裁であるダニエルの責任下で、莉音の希望に添う取り計らいをする。そういうことになった」
突然そんなことを言われても、莉音にはどうしたらいいのかわからない。
「あの、でもそんな……」
「レナードが亡くなってすでにそれなりの日数が経っているからね。彼の持ち株は現在、ダニエルの預かりとなっている。だが、莉音に引き継ぐ意思があるというのなら、すぐにも名義変更の手続きを進めることができる。手続きそのものに関しては、専門の弁護士に任せることができるので、莉音はなにも心配しなくていい」
「でも、僕……」
「それで莉音は、ひとりで生きていくのに充分な資産を得ることができる。もちろん、お母さんとの夢だった、店を開くことも」
あまりにも思いがけない言葉に、莉音はわずかに目を瞠った。
どうする?と目顔で尋ねるヴィンセントをじっと見返し、それから視線を落とした。
流れる沈黙。
やがて息をついた莉音は、小さく、けれどもはっきりと首を横に振った。
「僕、いりません」
莉音は迷いなく言いきった。
「莉音」
注意を引くようにヴィンセントに手首を掴まれて、莉音はハッとした。
「私はそんなものに、はじめから興味はない」
ヴィンセントは莉音に淡々と説いて聞かせた。
「自分で起ち上げた会社があって、その事業もおかげさまでいまのところとてもうまくいっている。私はね、莉音、自分と社員とその家族が充分満足な暮らしを得られるのなら、それ以上を望むつもりはない。といっても、やはり自分の手で会社を大きくして、成功をおさめることはそれなりにやりがいがあるからね。今後もさまざまな挑戦はしていきたいと思っている。だが、他人の築き上げた権力には、なんの興味も関心もない。そこに関心があるのなら、私はとうの昔にシャーロットと結婚している」
「アルフさん……」
「私は莉音が莉音だから好きになった。レナードの孫だからだとか、PSグループの筆頭株主に次ぐ権威を継承する可能性があるからだとか、そんなことはどうだっていい。莉音が贅沢な暮らしを望んで、王子様のように傅かれたいと願うなら、私がその願いをすべて、この手で叶えよう」
「そんなこと、僕は……」
莉音は力なく首を横に振る。
「莉音、私は今回、アメリカでPSグループの現CEO、ダニエル・スペンサーに面会を求めて直談判してきた」
莉音はその言葉に息を呑んだ。
「レナードとのあいだにあった約束ごとをすべてあきらかにしたうえで、シャーロットと結婚する意思はないことを明確にし、一族の何者かが遺言書にある株式譲渡の権利を得るために影で根回しをしていることも伝えた。そのうえで私の莉音にこれ以上手を出すようなら、こちらも容赦するつもりはないとも明言してきた」
直談判というより宣戦布告が正しいんだが、とヴィンセントは笑った。
「アルフさん、でも僕……」
「そういった諸々の話をつけたうえで、今回、あらためてダニエル本人から莉音の意思を確認するよう託されてきた」
「僕、の……?」
そうだとヴィンセントは頷いた。
「莉音は間違いなくレナードの血を受け継いでいる。それを踏まえたうえで、莉音がレナードの株式を引き継ぎたいと希望するのであれば、そのように手続きを進めるし、それに伴う諸般の権利や一族内で担う責任の所在についても、きちんと立場を確立させるようにする。そうでない場合も、グループ総裁であるダニエルの責任下で、莉音の希望に添う取り計らいをする。そういうことになった」
突然そんなことを言われても、莉音にはどうしたらいいのかわからない。
「あの、でもそんな……」
「レナードが亡くなってすでにそれなりの日数が経っているからね。彼の持ち株は現在、ダニエルの預かりとなっている。だが、莉音に引き継ぐ意思があるというのなら、すぐにも名義変更の手続きを進めることができる。手続きそのものに関しては、専門の弁護士に任せることができるので、莉音はなにも心配しなくていい」
「でも、僕……」
「それで莉音は、ひとりで生きていくのに充分な資産を得ることができる。もちろん、お母さんとの夢だった、店を開くことも」
あまりにも思いがけない言葉に、莉音はわずかに目を瞠った。
どうする?と目顔で尋ねるヴィンセントをじっと見返し、それから視線を落とした。
流れる沈黙。
やがて息をついた莉音は、小さく、けれどもはっきりと首を横に振った。
「僕、いりません」
莉音は迷いなく言いきった。
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